ランジェリーの誘惑~新しい世界へ-2話
作家名:夢野由芽
文字数:約2610文字(第2話)
公開日:2019年11月15日
管理番号:k016

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「・・・・。」
開かれたサムネイル表示のページには、
ランジェリー姿の女性や、男性と絡んだ写真が数十枚、のせられていた。
(源さん、いったい何を考えてるんだろう。)
結衣はそう思いつつも、その中の一枚を拡大してみた。
上下そろいのブラとショーツ。
笑顔の若い女性がカメラに向かって微笑んでいる。
結衣の知らない顔だった。
源とのうわさがあったTaikoとも
全く違う女性だった。
(どこかの、いやらしいページからダウンロードしたに違いない。)
よく見れば、胸元と股間は穴が開いている。
いわゆるオープンクロッチというタイプの下着だ。
(それとも、ランジェリーショップの広告か何かかなあ。
でも、もしそうだとしたら、なんで同じ下着ばかりなんだろう。)
結衣は、疑問に思いながらも、ページをスクロールしていく。
何枚か赤い下着姿の女性の、別のポーズの写真が続いた後、
男女が絡み合っている写真が現れた。
先ほどの女性が、勃起した男性のペニスを咥えている写真だ。
勿論、モザイクなどかかっていない、無修正の写真だった。
女性は男の履いた黒のビキニブリーフの小さな布から飛び出したペニスを、
真っ赤なルージュの引かれた唇に咥え、
カメラに向かってほほ笑んでいた。
片方の手はブリーフの下の方に回り、
男性のタマの部分を包み込むようにしている。
既に、何度も唇を這わせたのだろう、
ペニスの周りには赤いルージュがなん箇所にもついていた。
男性は自分の股間を誇示するかのように、腰に手を当て、
やはり、カメラに向かってほほ笑んでいた。
(エッ?これって…)
「ごめん。スマフォ、忘れたわ。」
玄関のドアを開け、夫が戻ってきた。
結衣は慌てて画面をオフにした。
結衣はスマホの電源が切れていることを確認すると、
「は~い。今、開けるわ~。」と声をかけ、玄関に急いだ。
「もう、忘れっぽいんだから。はい。」
「悪い悪い。下で車、待たせてるから。」、
夫はそう言うと、慌てて結衣の頬にキスをして出て行った。
結衣の心臓は高鳴ったままだった。
ドアを閉める手が震えている。
(さ、さっきの、写真の、男の、顔は、、、、源、、さ、ん、、まさか、、、)
夫を疑いたくはなかった。
結婚前には確かに様々なうわさもあった。
特に源は、音楽業界から俳優、お笑い芸人との交流も多く、
舞台や映画出演も経験している。
それでも結婚してからは、CM出演や作曲活動を多くすることで、
地方へ出かけていく数も減らし、結衣との時間を作ってくれる源。
結衣も、そんな夫に応えようと、仕事の数をできるだけ減らし、
森柳くるりのような専業主婦とは言えないまでも、
できるだけ家にいるよう努めてきた。
その夫に、
あんな写真を撮るような、、、
いや、撮らせるような女性の存在があるとは。。。
(いや、あれはきっと、わたしと結婚する前の物だわ。
源さんの昔の思い出。
だとすれば、わたしが気にしさえしなければいいのだから。
過去の過ち?ううん。過去の思い出よ、きっと。)
何度も自分にそう言い聞かせようとした結衣だったが、
結衣の頭の中には、
《まさか》という思いと《もしかしたら》という思いが交錯し、
家事が全く手に付かなかった。
その日は日課にしているジムにも行かず、
結衣はただボーっとして1日を過ごした。
夕方、源が思いの外早く帰宅しても、結衣の心は晴れなかった。
(ねえ、あの写真、いったい何なの?相手の女は誰?)
夫が帰ってきたら、思い切って言ってやろうと、
昼間、何十回となく頭の中で繰り返してきた言葉だったが、
いざ、夫を目の前にすると、結衣にはそれを口に出す勇気がなかった。
テーブルの上に『キッチンラーメン』と『のん兵衛 悪いきつね』をはさみ、
結婚生活3年を経た夫婦の、無言の食事が始まった。
麺をすすりながらもほとんど口を利かない結衣を心配して、源は何度も声をかけた。
「どうした?なにかあったのか?」
結衣は源の顔を正面から見る気にもなれず、
「大丈夫。ちょっと疲れているだけ。」と言葉を濁し、
早々に寝室へ入った。
「あ~あ。今日は、ハグの日だったんだけどなあ。」
ガッカリした源の声がリビングに寂しく響いた。
結衣はそのままベッドに横になった。
目をつむると、あの写真が頭の中に浮かんでくる。
赤いランジェリーの女。
ブラの先端の穴から覗いた乳首。
ショーツの割れ目からは、うっすらと薄目のアンダーヘアが覗き、
股の割れ目近くから、女性のスリットの端が。
男性のペニスは、血管が浮き出るほどに勃起し、
その先端は真っ赤なルージュをした女性の口の中に飲み込まれている。
そして、画面の上の方に辛うじて写る男の顔。。。
結衣は、いわゆる「はめ撮り」など、
そういった類いの写真を撮った経験はなかった。
初体験は高校時代に済ませていたが、
その頃はそもそもそういった発想自体もなく、
相手から求められることもなかった。
芸能界に入り、仕事への欲が出てくるころになると、
スポンサーやいわゆる大物と呼ばれる人たちと一夜を共にすることもあった。
戯れに、時には半ば強制的に写真を撮られそうになったこともあったが、
結衣は「この先」を考えて、決して撮らせて来なかった。
売り込みなどによる「スクープ」や、トラブル後の「リベンジポルノ」と言った、
いわば「流出」を恐れたのだ。
友達や仲間の中には、そうした写真を何枚も保存し、
アルコールの力を借りてか、時折自慢気に見せる仲間もいた。
結衣は、そのスマフォを覗き込み、
仲間と一緒に嬌声を上げながらも、
その不用心さに内心驚いたものである。
なのに、まだ結婚してそれほどたたない夫のスマフォの中に、
あんな写真が保存されているとは。
(夫は、無防備すぎやしないだろうか。)
結衣はそんな風にも考えてみた。
それによく考えてみると、結衣が見た写真の中で、
夫である源の存在を示しているのは、たった1枚だけだった。
そのたった1枚の写真をたてに源を追及したり、
仮に週刊誌などにリークしたところで、
「ああ、あれは合成。メンバーがふざけて作ったやつ。」
の一言で解決してしまうようなものにも思えてきた。
では、本当にあの1枚だけなのだろうか。
同じ画面の中にあった、いくつかのフォルダ。
その中にも、同じような写真が、
いや、それ以上の写真が保存されているのではないだろうか。
もっと、じっくり見ておけばよかった。
あんなタイミングで夫が戻ってくるとは。。
でも、源さんは、中身を見られたとは思っていないだろう。
また、チャンスはあるかもしれない。
でも。。。。。
(続く)
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