ランジェリーの誘惑〜新しい世界へ-1話
作家名:夢野由芽
文字数:約2500文字(第1話)
公開日:2019年10月29日
管理番号:k016
0
都内のとある高級マンション。
セキュリティーの施された最上階に、その二人は住んでいた。
夫の名は星名源(ホシナ ゲン)。
音楽家であり、俳優である。
音楽家としては、テレビアニメ、アニメ映画の『ノラえもん』、
MHK連続テレビ小説『半分、ヤバい。』の主題歌、
また、俳優としては『箱入り息子は変』『引っ張り大名!』などの主演他、
アニメ映画『足は短し歩けぬ乙女』の主人公の吹き替え、
のん兵衛や大手携帯電話のココモのCM出演等、
その多彩な才能を発揮している。
一方、妻の名は新牧結衣(アラマキ ユイ)。
女優である。
モデルとしてデビューして以降、『パパと娘の7週間』出演を皮切りに、
『コート・イエロードクターヘリ不眠不休』シリーズ。『リーガル・アイ』シリーズなど、
数々のドラマに出演している『マッキー』が愛称の若手女優である。
星名と新牧、この二人が結婚生活を始めるきっかけとなったのは、
人気テレビドラマ『逃げるが得だが、恥になる』(通称『逃げ恥』)での共演だった。
職ナシ彼氏ナシの、新牧結衣演じる主人公・森柳くるりが、
恋愛経験の無い独身サラリーマン星名源演じる・須崎平正と、
あることをきっかけに 「仕事としての結婚」 をすることに。
夫=雇用主、妻=従業員の雇用関係。
互いに恋愛感情を持たないはずが、同じ屋根の下で暮らすうち、
徐々にお互いが、相手に【異性】を感じ始める。
はたして契約結婚というかたちの仮面夫婦の変な関係は?
という、幅広い視聴者からの支持を得、
収録曲『変』のメロディーに乗せた『変ダンス』もヒットしたTVドラマである。
ドラマは大ヒット。
半年近くに及ぶ撮影中からの同居生活を経て、
ドラマ収録後、二人は、契約結婚ならぬ、
正真正銘の新婚生活を始めたのだった。
「源さ〜ん。いってらっしゃ〜い。」
夫の源を送り出した結衣は、
テーブルの上に忘れられた源のスマフォを見つけた。
「まったく。今日も忘れてる。」
源がスマフォを忘れるのは今日に始まったことではない。
そのたびに結衣は、夫にはすまないとは思いつつも、
どうにかして中を見たいと、
ついつい画面をタップしてきた。
こういう業界で仕事をしていれば、当然のことながら、
結婚前、結婚後に関わらず、
それなりのうわさやら『熱愛報道』は後を絶たない。
当人同士が否定するか肯定するかはともかく、
たいていの場合、それは単なるうわさとして消えていくものも多いが、
現実は必ずしも、そうではない。
火のないところには煙は立たないものなのだ。
なにしろ、そういう結衣でさえ、かつては『共演者キラー』と呼ばれたこともあり、
ドラマでの共演者とは、その実、かなり関係をもってきた。
ただ、結婚相手として考えられる相手にはなかなか出会えず、
撮影が終わればそれでサヨナラ、という関係がほとんどだった。
源と結婚後は、結衣自身も源に対する貞操を守るためになのか、
あるいは、男優側の警戒心がより強まったせいなのかは定かではないが、
新たな関係は生まれてはいない。
もっとも、「コートイエロー……」で共演した槍下智久とは、
今も関係が続いてはいるが、
槍下の名前の通り、「ヤリP」の槍下は、
以前から、活躍目覚ましい若手の女優ばかりを次々とモノにしてきた。
現在進行形でも、石原ひとみや奈々菜などとのうわさだけとは言い切れない関係もあり、
既婚者である結衣へのお誘いも、月に一回程度になってしまっていた。
結衣も、それほど期待せず、という程度の関係になってしまっていた。
結婚前には週に二桁ほどの回数は、
誰かしらと必ずセックスをしていた結衣だったが、
結婚後も、幸い、夜の方の生活には、それほど不満はなかった。
源は、結衣同様、共演者とのうわさは多く、
ラジオ番組などでは、下ネタばかりで盛り上がっているが、
私生活においても、ドラマ『逃げ恥』の役側とはまるで正反対で、
ありとあらゆるテクニックを屈指し、結衣を満足させるのである。
ただ、ここ数日、レコーディングがどうの、CMがどうので、
少しばかりご無沙汰。
放っておかれた感が、結衣の不満と不安を募らせるのである。
そんなわけで、源の忘れていったスマフォを目の前にして、
結衣の心は揺れていた。
当然と言えば当然だが、源は指紋認証も設定しているようで、
今までのチャレンジでは、一度も中身を覗けたことはなかった。
(どうせ、今日もダメだろう。)
そう思って結衣は、せめて夫に届けてやろうとスマフォを手にした。
その瞬間、スマフォの画面が明るくなり、パターン入力画面が現れた。
(えっ?どうして?)
指紋認証がクリアできたのなら、
あとは図形のパターンを入力すれば、
夫のスマフォの中身を覗くことができる。
(なぜ、今日はセキュリティが甘いんだろう。セットし忘れ?)
結衣はそう思いつつも、夫のスマホの中身を見たい誘惑にかられ、
不確かな記憶をたどり、図形パターンを入力した。
源はいつも、結衣の隣でスマフォをいじっているので、
時々無防備に図形パターンを入力する。
何気なく覚えていたその指の動きをまねてみたのだ。
思いがけず、直ぐにごくありふれた待ち受け画面が現れた。
(やった!意外に簡単じゃん。)
そう思った結衣は、画面をスクロールした。
いきなり現れたのは、
真っ赤なランジェリーを身に着けた、若い女性の写真だった。
(いやだ。源さんったら、こんなのを待ち受けにしてるの?
ふつうは、奥さんとか子どもとかでしょ。)
結婚生活3年を過ぎても、まだふたりの間に子どもはいなかった。
お互いの仕事を考えた時に、
というよりは、結衣自身がまだ仕事をやめる決心がつかなかったこと。
何よりも、源の前では、母親である自分ではなく、
妻としての、女としての自分でいたいという、結衣の思いからだった。
そこまで思っている自分を、夫である源はどう思っているのだ。
結衣は自分以外の女性が、
しかもヌード姿が夫の待ち受けになっていることに、
ほんの少しだけ、ジェラシーを感じた。
ふと見ると、その待ち受け画面にはいくつかのフォルダがあった。
(『Taiko』?『歌帆』?『五階堂』?何、これ。源さんとうわさがあった女優?)
結衣は不思議に思いつつも、『Taiko』というフォルダを開いてみた。
(続く)
※本サイト内の全てのページの画像および文章の無断複製・無断転載・無断引用などは固くお断りします。
メインカテゴリーから選ぶ