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記憶の中の女達〜(42)聴こえて来た“トロイメライ”-第88話



作家名:淫夢
文字数:約2950文字(第88話)
公開日:2022年6月10日
管理番号:k057


この作品は、過去、実際にセックスした数百人の女性の中の、記憶に残っている数十人の女性との出遭いとセックスと別れを描写。



挿絵の官能小説画像

高校2年になって、後から入学して来た、静子の弟の義明がポップスに目覚め、兄が東京の大学に進学して独りになった私の部屋と静子の家を行き来して、一緒にレコードを聴くようになった。

私は、小学校4年生の時、兄が購読していた子供向け科学雑誌の付録の、玩具のようなラジオを一緒に組み立て、いきなり鳴ったFENで、Beatlesに出遭い、それ以来ロック、ポップスの虜になっていた。


私は、町で一番と言われる程素潜りが得意で、中学生になった頃から、夏休みに潜って獲ったサザエ、アワビ、タコ、魚を、漁師の祖父の名前で市場に出して貰って、その収益でレコードを月に4、5枚くらい買っていた。

タバコもそのお金で買っていたせいか、罪悪感は薄かったが、タバコを何時も持ち歩いて喫っていたせいで、高校2年にもなると、息が長く続かなくなり、素潜りが出来なくなった。


私も、レコードを持参して義明を訪ねて行き、静子がいると歓び、いないとがっかりしたりもした。

義明は飽きっぽい性格で、私と家で遊んでいても、急に友達の家に遊びに行ったりした。

独りで暇を持て余した私は、何時も静子の部屋に入った。

教師の両親は何時も帰宅が遅く、日が暮れるまでは誰もいない。

最初は静子の部屋のピアノを弄っているだけだったが、そのうちに、静子のベッドに横たわって、静子の移り香を愉しんで枕にキスをしたり、引き出しを開けて静子のブラジャーやパンティを手に取って唇を触れたりするようになった。

純情で晩熟だった私は、さすがに洗濯物にまで、思考が廻らなかったが。


「あ、あんたっ、そ、そんなアホな事してたのっ!」

少年時代の想い出を全て話し終えた後、静子が微笑んだまま美貌を恥じらいに染め、私を睨んだ。

「はい。思春期の少年の、若気の至りですね」

静子は本気で怒った風ではなかった。

今更、怒った処で、どうにかなる訳でもない。

「でも、懐かしいね」

静子が遠くを視るような眼差しになった。

「ああ、色々あったけど、何時も楽しかったな」

ロックを飲み干し、お代わりを頼む。

「以上、告白タイムでした」

私はロックを口に含んだ。

静子も水割りを一口飲んで口を開いた。


「じゃあ、今度は私の告白タイムね」

「何だ?」

静子が微笑んだまま、意地悪そうに私を睨んだ。

「あのね、あいつに結婚を申し込まれた時、何でかしらん、急にあんたに逢いたくなったの」

「何で?おれ?」

静子が表情を変えず、続けた。

「黙って聴いてなさい。そいでね、あんたの家に電話して居所訊いたわよ。お母さんが、何処に棲んでるかは知らないけど、新宿“R/Z”って喫茶店をずっと任されてて、そこの住所は判るって教えてくれたの」

「すんまへん。放浪息子で」

「だから、黙ってなさいって。私が告白してるんだから」

「はーい」

「私、すぐ新幹線に跳び乗ったわよ。新宿駅の交番で道を訊いて、店に飛び込んだわ。そしたらねー」

静子が、さらに意地悪な表情になって、水割りをもう一度口に含んで続けた。

「あんたねー、何してたと想うー?」

「さー?真面目に、お仕事?してたんじゃない?でしょう?か?」

「ばか、あんた、酒飲んでて、両脇に女の子抱いて大騒ぎしてたのよ」

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「う、うそっ、そ、そんな処、視られたの?」

そんな事、しょっちゅうやっていた。

「私、あったまに来て、それからすぐ、新宿からよ。あいつに、結婚するって電話したの」

「そ、そんな事が、ご、ございましたんですか」

「はいな。私が今日まで苦労して来たの、ぜーんぶ、あんたのせいだからね」

静子がまた私を睨んだが、すぐに普通の表情に戻って微笑んだ。

静子が、私とどうにかなっていたら、不幸にはならなかった、という意味か。

「へへーっ。おごめんなちゃいっ」

私はほっとして、少しふざけた。


静子が、私を。

生まれて初めて知った、静子の想い。

私が、あの時、あんなふざけた事をしていなくて、静子に想いを打ち明けられていたら。

僅かな時間の誤差で、人生が変わったかも知れない。

もし、静子と結婚していたら。

ほとんど姉弟のように育ったから、幼い頃にしていたおままごとのような家庭になったかも。

静子は1歳年上なのを鼻に掛けて、何時も私を引っ張り回した。

かかあ天下だな。

頬が緩む。


「何、想い出し笑いしてんのよ。私の告白タイム終わり。歌って」

静子が照れ臭そうな表情で、マイクとカラオケの本をつっけんどんによこした。

Ray Charlesの“愛さずにはいられない”、“Born to lose”、Righteous Brothersの“Unchained melody”、“引き潮”を続けて入れる。

それぞれ、シングル盤の表裏で、4曲とも、静子が「好きだ」と言っていた曲だった。

「みんな、懐かしい曲ね」

「ああ、良く一緒に聴いたな」

「客も来ないし、もう閉めるわ」

静子が入口のカギを閉め、表の看板の電源を落とした。

立って歌い始めると、静子が私にしなだれ掛かる様に寄り添った。

私は自然に静子の肩を抱いた。

思春期から憧れ続けた、女性としての静子が腕の中にいた。

京女らしい、和風のオードトワレが薫った。

“愛さずにはいられない”の途中の美しい間奏が始まった時、静子が肩を震わせた。

「あ、あの頃に帰りたい」

静子が泣いていた。


あの頃。

この曲を一緒に聴いていた頃、私とこうなっていたら、という事か。

先刻、今まで苦労して来たのは私のせいだ、と冗談めかして言ったが、本当に苦労したのだろう。

そして、京都での25年間の生活を後悔しているのか。

「あの頃に帰りたい」との想いは、それか。


私は、想わずカウンターにマイクを置き、静子を強く抱き締め、顎に指を掛けて静子の貌を上向けた。

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静子は涙に濡れた瞼を閉じ、愛らしい唇を軽く開いた。

私は、衝動的に静子の唇を塞いで、貪った。

静子が私に強くしがみ付いて、私の唇を吸い立て、私の舌に舌を絡めて来た。

アップにした項の解れ毛が戦いで艶香を訴える。

江戸小紋の袖口から挿し入れた掌で乳房を覆い、軽く愛撫した。

当然、ブラジャーなど着けてはいない。

「ああ、し、しないでっ」

静子の唇が、私の唇から逃れ、熱く喘いだ。

言葉では拒んでも、乳房を私の掌に圧し付けて来る。

生まれて初めて触れた静子の乳房は、しっとりと私の掌に吸い付き、年齢相応に成熟していて柔らかく、私の掌で形を変える。

掌の中心で、グミのような乳首が勃起して転がった。

しかし、あの頃の、未だ硬い蕾だったであろう静子の乳房ではないのは判っていた。

私は想い切って胸元を大きく開け、露わになった乳房を含んだ。

「い、いやっ、し、しないでっ」

やはり、言葉では拒むが、私の頭を抱いて乳房を私の口に向かって突き出す。

真っ白な乳房、濃いセピア色の乳輪の膨らみ、勃起したグミのような乳首が、私の掌と唇と舌の蠢きに反応して揺れる。


一瞬、かつて、希実枝とセックスした時の後悔が脳裏を過った。

静子も、淡い想い出の中の清楚で美少女として、憧れている方が良いのではないか。

しかし、時既に遅し。


「お、お前としたい」

唾液に塗れた静子の乳房を愛撫しながら、興奮に声を上ずらせた。

「い、一度だけよ。こ、恋人がいるの」

静子が私の頭を抱いた腕に力を籠めて来た。


静子ほどの女だ。

43歳であろうが、上品な京美人。

離婚した後に出来たのであろう、恋人がいるのは想像出来た。

それでも、私とセックスしても良いと。

私が、かつて恋した静子を一度だけで良いから抱きたいと感じたように、静子も感じたのかも知れない。



(続く)





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