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記憶の中の女達〜(37)不思議な素性の女-第78話



作家名:淫夢
文字数:約3910文字(第78話)
公開日:2022年4月1日
管理番号:k057


この作品は、過去、実際にセックスした数百人の女性の中の、記憶に残っている数十人の女性との出遭いとセックスと別れを描写。



挿絵の官能小説画像

「い、良いっ」

澄子が、しなやかな裸身を仰け反らせて、叫んだ。

腕枕をしている片方の掌で乳房を揉み立て、もう片方の乳房を口で愛撫し、もう片方の手指でクリトリスを愛撫しながら、ゆっくり勃起を抽送してやる。

「ああ、き、気持ち良いっ」

それ程経験が豊富には想えない澄子だ。

こんな形でセックスした事はないだろう。

両方の乳房を手と口で、クリトリスを指で、女陰の襞、膣孔、膣粘膜を勃起で、性感帯の全てを同時に刺激されるセックスに、澄子が熱い喘ぎを洩らしながらしなやかな裸身を悶えさせた。

「こ、こんなのっ、は、初めてっ、す、すごいっ、き、気持ち良いっ」

裸身の蠢きが一気に速まり、噴き出す熱い喘ぎが愛らしい唇を塞がせない。

「あのな、澄子、これが、さっきお前が言った“松葉崩し”だ」

勃起の出し挿れを繰り返しながら、耳元で囁く。

「いやーっ、わ、私っ、な、何て事っ、は、恥ずかしいっ」

恥じらいに貌を歪めて叫ぶ澄子は、しかし尚も激しく裸身を悶えさせ、私の勃起の抽送に併せて女性器を突き出す。

純情な澄子が快感にのめり込んで喘ぐ表情を視て、射精感が込み上げる。

「イクぞ」

「は、はいっ。ああっ、い、良いーっ。す、すごいっ、だ、だめーっ」

私は、裸身を激しく痙攣させ、エクスタシーの絶頂を極めた澄子の、忙しなく収縮弛緩を繰り返す膣粘膜奥底に夥しく射精していた。


私とセックスして運が付いた訳ではないだろうが、多分、澄子の心に変化が起こったのか、翌日の接客で初契約を上げた。

全員でお祝いに鮨屋に行く。

「おっ、松葉く・ず・しのおねえちゃん、今日も松葉く・ず・し、やるかい?」

板長が澄子を視掛けて、からかった。

店内にいた客が皆、澄子に視線を向けた。

「いやーっ、は、恥ずかしい」

澄子が貌を両掌で覆って、何度も頭を振った。

「何すか?澄子さん」

「課長は知ってるんですよね?」

「昨日、澄子来た時な、冗談で、澄子に“松葉崩し”注文しろって言ったんだ。そしたら、澄子が本当に“松葉崩し、お願いしまーす”って、大声で言ったんだ」

澄子をからかう皆に説明してやる。

「澄子さんらしいっすね」

「澄子ちゃん、可愛い」

「も、もう、い、言わないで」

澄子がまた、恥じらいに染まる貌を両手で覆った。

大盛り上がりのお祝いが終わって全員解散する。

澄子も帰って行った。


澄子は契約するまでと言った。

また一度っきりのセックスになった。

独りで部屋に帰り、昨晩の澄子の裸身を想い出しながらベッドに横たわる。

うとうとし掛けていた時、チャイムがなった。

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ドアスコープを覘くと澄子が立っていた。

一度家に帰って来たのか、洋服が違っていて、紙袋を下げていた。

ドアを開けてやると、澄子が飛び込んで来て私に抱き着いた。

「お前?」

「キャハハッ。来ちゃった」


その日から、仕事を終えて皆と駅で別れた後、皆で飲みに行った時でも解散した後から、先に部屋に帰っていると、澄子が後からやって来る生活になった。

澄子は、一日置きに家に帰り、着替えてから私の部屋に来るようになった。

また、同棲するつもりなのか、身の回りの物を少しずつ持って来るようになった。

最初は地味でそれ程美人には視えなかった澄子が、順調に契約が挙がり始めたせいか、明るくなり、何時も微笑んでいるようになり、また毎日のようにセックスしているせいか、美しく感じられるようになった。

そして、気になっていた巨乳も、私好みの掌サイズに戻っていた。

浩美は、週に一度、私の休みの前日に電話をよこして来て、“S”で待ち合わせて飲み、何時ものラヴホテルでセックスしていたが、彼女に“愛してる”と告白したものの、結婚はお互いに、未だ考えてはいなかった。

浩美は音楽にほとんど興味を持っていなかったが、音楽好きの澄子と暮らすのも悪くない。

私は自分の気持ちが澄子に向かっているのに気付いていた。


澄子は、時折コンサートに行くからと、部屋に来ない日もあった。

OJ、IM、TM、TOなど、ポップフォーク系、ポップ系の大物女性歌手のコンサートばかりだった。

それらのチケットはそんなに安くはないはずだったが、契約も順調に挙がって収入も増えたし、よほど好きなのだろうと想っていた。

ある日の終業後、澄子が“友達と逢うから、明日の朝行きます”と私に耳打ちして先に帰った。

翌日は定休日だったが、その夜は、浩美からの電話はなかった。

部下を連れて焼き鳥で飲み、部屋に帰って飲んだ後、ベッドに横たわって、何時も寝ながら聴いている深夜放送を聴くともなしに聴いていた。

部屋では、起きている時はレコードを掛けていたが、寝る前はラジオの深夜放送を点けっ放しで聴いていた。


その夜のパーソナリティは、大物美人フォーク歌手NMだった。

「今夜は親友が遊びに来てくれました。澄ちゃんでーす」

「Mさん、こんばんは。キャハハッ」

澄子!?

何で?

瞼がくっ付きそうになっていたが、一気に眼が覚める。

「元気そうねー。今何やってんの?」

「母親とケンカして家出して、会社員してて、上司の元ロッカーと一緒に暮らしてる」

「へー。澄ちゃんが男とねー。元ロッカーって、あんたらしいじゃない。結婚すんの?」

「結婚?キャハハッ、多分しない。他に女いるみたいだし」

「へー。それはそうと、あんた、この前、Yのライヴでバックコーラスやったらしいじゃない」

「やった。バックステージの手伝いに行ったら、コーラスメンバーが一人風邪引いて出られなくなって、Yさんに頼まれて代わりに」

「今度私のライヴでもやってよ」

「良いよ」

「ねえ。あんた、レコード出しなよ。私協力するから。私だけじゃない。YもTちゃんもMも協力するわよ。Aの三人組だって」

「キャハハッ、ダメ。そんなキャラじゃないし、私、裏方さんが性に合ってるから」

その後、音楽を挟みながらMNと親友らしい遣り取りが続いた。

結局、酔いが醒めて飲み直し、番組が終わるまで眠れなかった。


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朝、澄子の裸身が布団に潜り込んで来る気配で目が覚める。

「キャハハッ、聴いてました?」

「お前、どういう女なんだ?」

「こんな女ですよー」

澄子が裸身を沈めて私の朝勃ちを咥えた。


澄子は、澄子の方からは余り話さなかったのでどんな関係なのか知らなかったし、私も訊かなかったが、YJという音楽事務所のアーティスト達と親しくしていて、コンサートの裏方や、時にはバックコーラスなどをやっているようだった。

私は、YJ所属のアーティストには興味がなく、澄子に“バック ステージ パスだから”と、何度か誘われたが、一度も出掛けた事がなかった。

ロックの世界から遠ざかり、生まれて初めて買ったフェンダーのストラトキャスターだけは手放さなかったが、未練を断ち切る想いもあって、他の楽器は全て売り払っていた。

部屋にいる時は何時もレコードを聴いてはいたが、ライヴコンサートを観に行ったりして、触発され、未練が湧いて来そうな気がしたので、二の足を踏んだ。

今から想えば、澄子は、私を音楽の世界に戻そうと考えていたのかも知れなかった。

彼女の思惑に嵌ってやっていれば。

ステージに立たなくても、裏方でも何でも、音楽に係わっていたら、私の人生も音楽に満ち溢れたものになっていたかも知れない。

それも、取り返しの付かない、遠い想いだった。


6月に入ってすぐ、澄子に病院から電話が入った。

澄子の母親が脳梗塞で緊急入院したようだった。

「すぐ帰れ」

真っ青になって立ち竦む澄子に声を掛けた。


それから、何度も様子伺いで澄子の自宅に電話したが、母独り子独りで、病院に行っているのだろう、誰も出なかった。

10日ほど経った夜、部屋に帰って独りで飲んでいると、澄子がやって来た。

憔悴し切った様子で、何時もの明るさが失せていた。

私に抱き着こうともしない。

「お母さんは大丈夫か?」

母親の容体が少し落ち着いたから、出掛けて来たのだろう。

澄子が小さく頷き、持って来た大きなバッグに自分で持って来ていた洋服や身の回りの物を詰めた。

看病しなければいけないから、家に帰るのだろう。

「お前は大丈夫か?」

声を掛けた途端に、彼女は私にしがみ付き、小さな身体を震わせ、声を殺して泣き出した。

「おれに何か出来ないか?」

澄子が一瞬びくっとして私を突き放し、涙を湛えた瞳で私を悲しそうに視詰めて、頭を振った。

それが応えか?

暫く私の胸で泣いていた澄子がつま先立ちになって、私に貪るようなキスをしてから、荷物を両手に下げて部屋を出て行った。


10日程経った頃、澄子から退職願が郵送で届いた。

様子伺いの電話を何度か掛けてみたが、やはり、誰も出なかった。

もし、澄子が私を必要とするなら、澄子の方から電話をよこすだろうが、あの最後の日、澄子は私の問い掛けに首を振ったのだ。

独りで、病気の母親を支えて生きて行けるのだろうか?

親戚の助けでもあるのだろうか?

YJ所属のミュージシャンのコンサートを観に行けば、澄子と逢えるかも知れなかったが、彼女が私を望んでいるかどうかも判らない。

それ以来、澄子と接触する事はなかった。


55歳の頃、私は関西ではそれなりに名の知れた不動産会社の京都支店長をしていた。

結婚して二人の子供も高校と中学に通っていた。


現場視察に行った帰りの車の中、信号待ちをしていた私の耳に懐かしい笑い声が飛び込んだ。

「キャハハッ」

驚いて笑い声のした方向を視ると、上品な和服姿の初老の女性が5歳くらいの女児の手を引いて、楽しそうに話しながら立っていた。

「キャハハッ」

もう一度聴こえた笑い声は明らかに女児のそれではなかった。 


人は、例えセックスする関係になって躰も心も曝け出したとしても、相手には知り得ない過去があり、相手にも自分にも、自分でさえ想像出来ない未来がある。


私は信号が変わったのを確認してその場を走り去った。



(続く)





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