記憶の中の女達〜(37)不思議な素性の女-第76話
作家名:淫夢
文字数:約2990文字(第76話)
公開日:2022年3月18日
管理番号:k057
この作品は、過去、実際にセックスした数百人の女性の中の、記憶に残っている数十人の女性との出遭いとセックスと別れを描写。
当時、英会話ブームに乗って英会話教材の販売会社も雨後の筍のように増えた。
しかし、大元の教材メーカー、つまり卸元は4、5社しかなく、販売権は大した資格も不要だったようで、販売会社の部長クラスが部下を連れて辞め、新たな販売会社を立ち上げる、というような事が日常的に行われていた。
当然競争も激しく、販売会社が出来ては潰れ、という繰り返しであった。
残酷だったのが末端の営業マンであった。
英会話教材の販売会社の営業マンは、恐らくどの販売会社もフル コミッションで、というより、面接の際に、固定給とフル コミッションのどちらを希望するか質問され、固定給を希望した者は不採用、というカラクリがあった。
私は、オーナーの言葉もあって、収入を気にする事無く気楽に営業出来たので、自分でも驚く程良い成績を挙げ続ける事が出来た。
入社1年で管理職になり、部下を5、6人抱えるようになり、営業マンが1件契約を揚げると、本人も私も売価の1割のコミッションが入った。
扱っていた教材は40〜60万円だった。
4月の初め、一目で営業の世界には不向きだと判る女性が私の課に配属されて来た。
履歴書でも、京都出身で京都の女子短大を卒業した後の職歴は無し、家事手伝いとしか書いてない。
大宮在住で、26歳、名は澄子と言った。
薄化粧の貌立ちは悪くないし、体型は小柄だったが、病気ではないかと感じる程、その体型に不釣り合いな巨乳が、ブラウスのボタンを、何かの拍子にでも弾け飛ばしそうに視えた。
礼儀作法も弁えていたし、言動もまともだった。
ただ視た目が地味で、性格も真面目で地味、営業に必要な“華”がないのだ。
何度か接客させてみたが、やはりだめだった。
半月も経った頃、後から入社した部下が契約を取って来た。
課の全員で歓迎している中、澄子がふっと寂しげな表情を視せた。
「澄子、シケた面するんじゃねえ。今夜飲みに行くぞ」
私は大声を上げた。
「は、はい」
澄子が驚いた様子で私に頷いた。
部下がスランプだった時に同様に、飲みに連れて行き、酒を飲みながら悩みを聴いてやったり、指導したり、気を楽にさせたり、激励して立ち直らせた事が何度かあった。
澄子だけをえこひいきした訳ではない。
他の部下も心得ていた。
退社後、他の部下を帰らせ、澄子を連れて行き付けの鮨屋に行く。
澄子が多少飲めるのは歓迎会の時に判っていた。
日本酒を頼む。
「何時ものお造りで?」
カウンター越しに板長が声を掛けた。
「頼むよ」
応えてから、ふと“産地直送、獲れ立て!松葉カニ尽くし”という貼り紙に気付いた。
澄子をからかって元気付けてやろう。
「カニ好きか?」
「好きです」
澄子が少し明るくなった。
「じゃあ、松・葉・く・ず・し、板長に頼んでくれ」
多少なりとも世馴れした女性なら、意味を知っていて、恥ずかしがって拒む処だ。
しかし、驚いた事に、少し離れたカウンターの板長に向かって澄子が大声を挙げた。
「松葉くずし、お願いしまーす」
店内がどっと湧いた。
「よっ、ねえちゃん、良いねえ。腕に撚りを掛けて松・葉・く・ず・し、やりますよ」
板長の応答にまた店内が湧いた。
「な、何ですか?」
澄子がキョトンとしている。
私も腹が捩れるほど笑った。
今言葉で説明しても、澄子には理解出来ないだろう。
「そのうち教えてやるよ」
運ばれて来たお造りとカニ尽くしで日本酒を堪能する。
眼の前のブラウスを盛り上げている豊かな乳房に、無意識に視線が行く。
小柄な体型で、撫で肩で華奢、腕も脚も細く、尻肉も締まっている。
乳房だけが何故か大きい。
そんな女性は初めてだったが、そういう女性もいるのだろう。
初めて外国の女性とセックスしたアメリカ人のリタも、体型は多少太目だったが、バランスが悪いと感じる程巨乳だった。
貌立ちは日本的で、ハーフのようには視えないが、澄子もそんな体質なのだろうか。
箸の上げ下げ、酒の飲み方から、育ちは良さそうだった。
大宮の賃貸マンションで母親と二人暮らしをしていると話した。
「お前、生活費は大丈夫なのか?」
本題を切り出す。
「はい、3ヶ月くらいは」
澄子があっけらかんと応えた。
「そうか」
「でも早く契約挙げたいです」
大人しそうな澄子が負けん気を貌に出した。
「そうだな」
「でも、えこひいきはしないで下さい」
「バカ、そんな事しねえよ」
「すみません」
澄子が頸を竦めた。
接客予定が決まった見込み客を営業マンに振り分けて担当させるのはトップの権限であり、トップに寄っては、好みのタイプの営業ウーマンに、契約の可能性の高い客を宛がって契約を挙げさせてやり、恩着せがましく酒に付き合わせたりして、逆に、馴れた営業ウーマンは、トップに擦り寄って良い客を宛がって貰ったりしていて、トップや、場合に拠っては接客する男性に対して、セックスを匂わせたり、セックスを代償にして、良い成績を挙げている営業ウーマンもいるようだった。
そうではない営業ウーマンもいただろうが、彼女達は大抵セクシーな服装をしていて、男性客の場合には、凝ったデザインのブラジャーをシースルーのブラウスで透かし、ミニスカートの奥のショーツを故意に視せたりしていたようだった。
そのせいかどうか、販社グループ全体の成績発表会での上位10名のうち、6、7名は女性で、それもセクシーで、派手なタイプだったように記憶している。
私は営業マン時代、それで何度か厭な想いをしたので、全ての部下に公平であろうとしていたし、私の部下はそれを知っていた。
「でも、一つだけ、特別扱いして貰えませんか?」
澄子が真剣な表情になった。
「何だ?」
「以前から、仕事しないのなら早く結婚しろって母親が見合いを奨めるんです。私、それが厭でこの会社に入ったんですけど、未だ契約が取れてないし、母親が毎日のように煩くてうっとおしいんです」
「それで?」
「母親の貌を視たくないから、課長の部屋に泊めて欲しいんです」
「な、何っ?!」
余りに突拍子もない澄子の申し出に驚く。
「他に頼める人もいないし、初契約が挙がるまでで良いです。お願いします」
冗談でも嘘でもないのは、真剣な表情を視たら判る。
酔った勢いでもなさそうだし、想い付きでもないだろう。
恋人の浩美は、私が英会話教材の営業をするようになって帰宅が不規則になったので、逢いたい時は会社に電話をよこすようになっていて、大抵は“S”で待ち合わせて飲み、私の部屋ではなく、何時ものラヴホテルでセックスしていた。
頻繁に部屋に来ない浩美には、彼女も求めなかったので、スペアキーを持たせていなかったから、休みの日以外は、突然、夜遅く、または朝早くやって来る可能性はほとんどない。
暫くの間は何とかなるか。
「ベッド一つだけで、ソファーもないし、替え布団はないぞ。布団はどうする?」
第一、私の部屋の来客は全て女性で、セックスしに来るのだから、ベッド以外に必要はなかった。
未だ4月の半ば、エアコンはあるが、夜は冷える。
ガスストーブもあるが、危ないので寝る時は消す。
「床で良いです」
「床で寝たりしたら、よけいに疲れるだけだ。それに、おれは、部屋では真冬でも裸族だ」
未だ、澄子とセックスしたいとは想っていなかったし、澄子が私とセックスするとは想えなかったので、そう言えば澄子が諦めるだろうとも感じた。
優依と、西新宿のマンションで生活し始めた頃から部屋では全裸で過ごし、別れてからも、独りの時でも全裸の方が解放感があって癖になっていた。
(続く)
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