記憶の中の女達〜(36)美人スチュワーデス-第74話
作家名:淫夢
文字数:約3540文字(第74話)
公開日:2022年3月4日
管理番号:k057
この作品は、過去、実際にセックスした数百人の女性の中の、記憶に残っている数十人の女性との出遭いとセックスと別れを描写。

26歳の初夏、それまでの暴淫暴色が祟って、肋膜炎を患い、肺結核の疑いがあるからと療養所生活を余儀なくされる、
3ヶ月の療養生活を耐え忍び、3ヶ月培養で無菌の結果が出て療養所を出所し、新宿に帰る。
入院する前から話していたように、オーナーが“R/Z”を閉店させた。
“生活費は出してやる。おれの跡を継がせるから、営業を覚えろ”と言われ、伸ばし続けていた髪を切り、生まれて初めてスーツとネクタイの生活に変わる。
就職したのは、西新宿の高層ビルの中にある英会話教材の販売会社だった。
フル コミッションだったが、生活費の心配が無用だったので、取り敢えず面白そうだったし、西新宿の部屋から歩いて通えるので、就職を決めた。
当時、爆発的な英会話ブームが起こり、私は良いタイミングで、仕事に恵まれた。
販売する教材は40〜60万円、週給制で、週に1件の契約を取れば、その1割が収入になった。
因みに社内の報酬システムは、1件の契約に関して、教材の売価の約3割が会社の経費と販促費、1割が社長と常務、1割が部長、1割が課長、係長、1割が担当者という配分だったので、実際の教材の原価は推して知るべしだった。
入社当時、社員が25人くらい、営業マンは15人くらいしかいなかったが、業績がうなぎ上りで、後輩が大勢入社して来たので、営業マンは100人近くになり、私は3ヶ月後に主任、半年後に係長になり、一年後には課長になり、部下も6〜10人持つようになった。
それだけ部下がいれば、週に3、4件の契約は挙がった。
雇った学生アルバイトが役所で住民台帳を閲覧し(現在は職権でのみ許可されるが、当時は誰でも出来た)、リストアップして来た若い男女の住所宛に“あなたは当社の特別会員に選ばれましたのでお電話下さい”という、今時の詐欺メールのようなDMを送り、電話して来た見込み客と新宿や渋谷の喫茶店で会って、教材の説明をし、その場で契約して貰うのだ。
これは、後に訪問販売法の規定改正で禁止される事になるが、当時は、どの会社も同じ手法だった。
入社して3日間の研修があり、写真入りのパンフレットを使って内容を説明出来るようになる。
研修明けの第一日目、私は上司先輩の激励を背に、指示された時間に見込み客と約束した喫茶店に出掛けた。
レジで相手の名前を言い、呼び出して貰う。
奥の席にいた女性が立ち上がって手を挙げた。
“うわ、美人だ!”
女性に歩み寄るにつれてすごい美人だと判る。
事前知識としては、名前が吉岡美智代、27歳、会社員、それ以外は住所、電話番号だけで、当然美人だなどとは報されてはいない。
初仕事で、ただでさえ緊張していた私は頭の中が真っ白になっていて、名刺を渡す手が恥ずかしいほど震えていた。
コーヒーを一口飲んで少し落ち着いたが、研修で習得したはずの言葉が出て来ない。
しっかりしろよ。
過去、どれだけの女と出遭い、酒を飲み、セックスして来たか。
自分で自分を叱咤して開き直り、正直に言う。
「あなたが初めてのお客様で、ちゃんと説明しますが、下手なのは大目に見て下さい」
やっと話が出来た。
すると、彼女が優しい微笑みを浮かべた。
「英会話教材のセールスですよね?同僚も買ったから判ってます。私、契約するつもりで来ましたから、練習台にして下さって良いですよ」
なんという幸運だろう。
初めてのお客様がこんな美人で、契約するつもりだと言う。
気持ちが楽になった私は、汗だくになりながらも、最後までどうにか説明した。
「どうせなら、写真集が付いた一番高いのが良いかな」
彼女がバッグから印鑑を取り出した。
私は慌てて契約書を取り出し、必要項目を記入して彼女に向けた。
美智代が、氏名、住所を書き込み始める。
住まいは、阿佐ヶ谷のマンション。
“本籍”札幌。
“配偶者”無し。
独身だ。
“勤務先名”N航空。
“職種”客室乗務員。
スチュワーデスか。
「今は国内線だけど、国際線は試験で英会話があるの。頑張るわ」
契約書を確認して控えを渡し、暫くはお互いの話をして別れた。
最初がラッキーだったからか、それ以降も接客するほとんどが契約になり、3か月後の年末の成績発表会で最優秀新人社員に選ばれ、主任に昇格した。
そして入社6ヶ月で係長に昇進し、部下を5人付けて貰った。
そんな時、美智代から電話があった。
「吉岡美智代です。私の事憶えてますか?」
明るい、爽やかな声が電話の向こうから聴こえて来た。
「忘れるはずないですよ。契約第1号さん」
「国際線の乗務員試験、合格したの。あなたに一番に報せたくて」
美智代が?
私に一番に?
「おめでとう。良かった。お祝いしましょう」
翌日の夜に逢う約束をして、西新宿の高層ビルの最上階のレストランを予約した。
約束の時間、先に座って待っていると、すぐに美智代が現れた。
淡いラベンダー色のブラウスに明るい紺色のスカートスーツ姿で颯爽と現れた美智代は、初めて遭った時よりさらに美しく感じられた。
乾杯し、フルコースを堪能し、ワインを1本空ける。
お互いの生活の話題で、美智代は時折、恋人の存在を窺わせた。
私も同様に新宿の“R/Z”の話、バンドの話に加え、淫蕩生活も最小限ではあるが隠さずに話した。
この時点で美智代とどうこうなるとは想わなかったし、また想えなかったからだ。
しかし、美智代に対する精一杯の好意は示したかった。
「最初のお客様があなたのような素敵な女性で良かった」
すると、美智代が意外な言葉を返した。
「あなたみたいな素敵な男性が担当で良かった」
美智代が初めて女の貌になり、美貌に恥じらいを浮かべて視線を落とした。
私は照れ臭くなって、次を誘うと、美智代が応じた。
タクシーを拾って、“S”に行く。
結核で入院し、3ヶ月ぶりに退院して新宿に戻った時、一度飲みに行ったが、常連達の姿はなく、Fが独り飲んでいただけだった。
「死んだんじゃなかったのか?」
カウンターに立っていたSが笑う。
「血を吐いて死んだって聴いたぞ」
「ヤリ過ぎだろ」
「女の祟りじゃー」
カウンターで飲んでいたHとYとKが振り返った。
奥のボックスには、カメラマンのS、週刊“A”の編集部の連中。
「うるせー。死ぬまで生きてやる」
相変わらず同じメンバーが酒を飲んでいる。
「スーツ、似合うじゃねえか」
「ついにお前もサラリーマンか」
相変わらず口の悪い奴らだった。
「お前らも日雇いなんかやってないで、ちゃんと働け」
連中の冷やかしに言葉を返す。
美智代は、微笑みを浮かべたまま、私達の遣り取りを聴いていた。
カウンターに並んで座ると、私の方に向かって美智代が脚を組んだ。
美智代のタイトスカートが擦り上り、太腿の中程までが丸視えになり、何かの拍子にショーツに覆われた女性器も視えそうになる。
スチュワーデスという職業柄、そんな事に気付かないはずはないし、また、初めて逢った時から、彼女の立ち居振る舞いは礼儀正しく、酒に酔ったからと言って気持ちが緩むようなタイプではなかった。
それぞれの癖もあるので一概にそうだとは言えないが、並んで座った時に女性が私の方に向って脚を組む、つまり、貌も身体全体も、秘部も私の方に向けて座る際は、女性が私に対して警戒心を抱いていない場合が多かったような気がする。
スカートを履いている場合は特にそうだが、私がその気になれば、乳房や女性器を簡単に触れられるからだ。
逆に、並んで座る女性が反対に向けて脚を組んで座る場合、心も身体も私に向かっていない、と判断していた。
実際にも、この座り方をした女性とセックスした記憶はなかった。
出されたボトルでロックを、美智代に水割りを作ってやる。
私の療養所生活の話で盛り上がる。
美智代は私の隣で水割りを飲みながら微笑みを絶やさず、皆の話に相槌を打ち、自分から素性を打ち明け、機内での出来事を楽しそうに話したりもした。
ふと、店内の時計を視ると、12時近くになっていた。
美智代は時計をしていたが、気にするふうでもない。
阿佐ヶ谷ならもうそろそろ終電の時間だ。
帰らないつもりなのか?
急に美智代に対して性的欲求が湧いて来た。
官能に歪む美智代の美貌と、未だ視ぬ裸身を想像して下腹部が疼く。
私は敢えて時間の事には触れずに飲み、皆と話した。
1時を回った。
もう終電はない。
その気なのだろうか?
「帰ろうか」
金を払って美智代を促し、“S”を出る。
「安静にしとけよ」
「病み上がりだから無茶すんなよ」
「こいつは判っててもやるって」
皆の冷やかしを背中に浴びるが、そのまま、何も返さず、2丁目のラブホテルに向かう。
美智代をそれとなく窺うが、人の流れと街の様子で、新宿駅とは反対方向だとは判っているはずだ。
途中で別れる素振りもせず、タクシーを拾う気配もない。
信号待ちの横断歩道で肩を抱くと、腕を腰に回して来た。
そのつもりだ。
脇腹に張りのある乳房が触れる。
(続く)
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