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記憶の中の女達〜(27)不思議な箱入り娘-第54話



作家名:淫夢
文字数:約4400文字(第54話)
公開日:2021年10月8日
管理番号:k057


この作品は、過去、実際にセックスした数百人の女性の中の、記憶に残っている数十人の女性との出遭いとセックスと別れを描写。



挿絵の官能小説画像

彼女が“R/Z”に来るようになって一月になっていた。

最初に来た時から彼女は目立つ存在だった。

おっとりした立ち振る舞い、中学生に視えるほど華奢な肢体、幼く清楚で上品な美貌。

勿論、ノーメイクだ。

目立っている理由は、それだけではなかった。

彼女の服装が、ジーパンにティシャツといったロック好きの若者風でなく、上品で高価そうなブラウスにフレアスカートだったりワンピースだったりしていたので、ロックを聴きに来ている常連の中でも、“浮いている”イメージだった。

週に2度ほど、学校帰りだろう、何時も独りで、夕方来てボックス席に座り、1時間ほどいて、何時もジュースを飲んで帰った。

学校が私服通学なのか、或いは他の高校生のように、コインロッカーで着替えて来ているのか、何時も私服だった。


さらに、彼女を視ていて気になった事があった。

店内で男性客とすれ違う際に、大袈裟なほど離れる事だった。

それも、何時も僅かに浮かべている微笑みを消し、強張った表情で、である。

そして、時折私と視線が合うと、恥じらいを浮かべて俯いたり、一瞬頷いてから視線を逸らしたりした。

何度か、姉か母親かは判らないが、40歳前後か、美しく上品な女性を連れ立って来た事があった。

その女性と来ている時、ふと視線を遣ると、私の方を視て二人で何かを話している事もあった。

しかし、気にはなっても、店内は大音響でロック ミュージックを鳴らしており、話の内容は判るはずもなかった。


晩秋のある日、少女が来てボックスでジュースを飲んでいたが、何時も帰る時間を過ぎても帰ろうとしなかった。

私も、何時もセックスフレンドの誰かが来ている時間を過ぎていたが、今日は誰も現れなかった。

仕事を終える6時まであと10分。

一緒に飲むような常連も来ていないし、今日は独りで“S”に飲みに行くか。

しかし、あの子は何時もは5時頃に帰るのに、今日は何時までいるのだろう。

誰かが後から来るのか?

あの女性か?

少女の所在が気にはなっていた。

そう想っていたら、少女が大きなバッグを手にして、辺りに座っている客の所在を気にしながら、恐る恐るカウンターにやって来て、私が立っている前に座った。


「ボ、ボトル入れて下さいっ」

私は驚いて少女を視た。

「子供はジュースじゃねえのか?」

「ウィスキーッ」

彼女が子供のように頬を膨らませた。

その表情の愛らしさが、堪らなく微笑ましい。

「お前、中学生だろ?中学生はだめだ」

私は笑って応じた。

「高校1年生ですよーだ。ほらっ」

大きなバッグから学生証を出して私の前に突き付けた。

S女子大付属高校1年生。

倉本美紀。

超の付くお嬢様学校だ。

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「高1なんて、中学生みたいなもんだ」

「高校生は高校生だもん。他の高校生達もお酒飲んでるじゃない。だから私だって飲むんだ」

つんと澄ます愛らしい美貌は、何処からどう視ても中学生だった。

しかし、美紀が高校生なら、拒む理由はない。

「ボトル。何が良いんだ?」

自分の貌から苦笑が消えない。

「わーい。お兄ちゃんが飲んでるやつ」

美紀が満面の微笑みを浮かべて、私の飲んでいたグラスを指差した。

「お、お兄ちゃん?」

私の事か?

「私、マスターの事、お兄ちゃんって呼ぶわね」

ふと気付くと、さっきからの私と美紀の遣り取りを、傍で聴いていた学生バイトが肩を震わせて笑いを堪えていた。

二人兄弟の弟だった私は“お兄ちゃん”などと呼ばれた事は生涯なかった。

「何でおれが?お兄ちゃんなんだ?」

美紀のような可愛い女の子に“お兄ちゃん”と呼ばれた事が嬉しくもあり、照れ臭くもあった。

「私が決めたの。良いでしょう?」

美紀がまた子供のように膨れっ面をした。

「はいはい」

私は自分が何時も飲んでいるサントリーの角のボトルとグラスを出してやった。

「やったね!」

美紀が隣の席にバッグを置き、嬉しそうにはしゃいでボトルのキャップを開け、私が氷と水を用意している時、自分でグラスに注いだウイスキーをそのまま飲もうとした。

「ばかっ」

私は慌てて手を伸ばし、グラスを取り上げた。

「ったく、ウイスキー、飲んだ事ないのかよ」

「だって、お兄ちゃんも、そのまま飲んでるじゃない」

「お前は無理。水割りにしとけ」

少し薄めに作ってやる。

「はーい」

美紀が嬉しそうにグラスを手にして、私に差し出した。

「お兄ちゃん、かんぱーい」

「はいはい」

無邪気にはしゃぐ美紀に呆れながらもグラスを重ねてやる。

何で“お兄ちゃん”なんだろうな?

しかし、やはり悪い気はしない。

美紀の余りの愛らしい言動に、知らず知らずに惹き込まれている自分に気付く。

美紀がグラスの半分ほど一気に飲んだ。

「からーいっ」

可愛い唇から可愛い舌を覗かせたしかめっ面も愛らしかった。

「だから止めとけって。お子ちゃまはジュースでも飲んでなって」

「ふーんだ」

また膨れっ面を視せる。


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6時をとっくに回っていて、私の仕事は終わりだが、この愛らしい天使から眼が離せない。

カウンターに立ったまま、もう少し付き合う事にした。

ふと、美紀が腕時計を視てから立ち上がり、レジ横の公衆電話から何処かに電話を掛け、すぐに戻って来た。

「お兄ちゃん、今日は女の人いないね?」

何なんだ?

「ほっといてくれ。ガキには関係ねえ」

私が、焦ってタバコに火を点けた瞬間だった。

「今夜は、私が相手してあげるわ」

おい!

タバコを咥えていた私は酷く咽せた。

美紀を視ると、無邪気に微笑んでいる。

「バカ言ってないで、早く家に帰りな。パパやママに叱られるぜ」

子供のような美紀の意外にも意外過ぎる言葉に、私らしくなく動揺していた。

「今、ママに電話したわ。今夜、お兄ちゃんの部屋にお泊りしますって。ママは良いって。お兄ちゃんの部屋からもう一度電話しなさいって」

美紀がすました表情で言った。

傍には客もバイトもいなかった。

私の部屋にお泊り?

ママが良いって?

電話しろって?

何なんだ!

美紀のペースにどんどん嵌って行く。

「何言ってるか、判ってんのか?」

「私は、今夜、お兄ちゃんの部屋に、お泊まり、するの」

美紀が、自分に言い聞かせるように言葉を区切った。

「おれが部屋に女連れ込んで何もしないと想ってんのか?」

からかわれているような気がして来て、少し苛立った。

「わ、判ってるわ」

美紀が初めて女の表情を窺わせ、愛らしい微笑みを消して、美貌を恥じらいに染めた。

こいつ、本気だ!

しかし、母親がそれを知っていて許すって、どういう事なんだ?

何度か美紀と一緒に来た女性か。


美紀が私の部屋に泊まっても、何もしなければ良いのだ。

いや、状況に拠っては、いや、拠らなくてもするかも。

この愛らしい美少女と私の部屋に二人っきりで、我慢出来るのか?

無理。

しかし、悩んでも始まらない。

どうにでもなれ。

何とでもしてくれ。


美紀が、母親の許可まで取ったのなら、このままほったらかしにするのは可哀想だし、そんな事は出来ない。

この気紛れ天使と付き合う事にした。

謎めいた言動を繰り返す美紀が、私の部屋に泊まるという経緯も知りたかった。

「判った、判った。怖くなったら、赤頭巾ちゃんは帰れよ」

「ふーんだ。帰りませんよーだ」

呆れ貌で言うと、また子供のような膨れっ面をして、愛らしい唇を尖らせた。


美紀の学校での話や、好きなアーティストの話をしながら、1時間程一緒に飲んで、美紀が3杯目を空けた処で腰を上げる。

「帰るぞ」

「はーい」

美紀が大きなバッグから財布を取り出して、一万円札を抜き取る。

視ると、財布には恐らく10万を超えるほど入っていた。

「お前みたいな子供がそんな大金持ち歩くんじゃねえ。誘拐されるぞ」

「そうなの?でも、ママが、何かあったら困るから、何時もこれくらいは持っていなさいって」

何て母親だ。


二人で甲州街道を歩く。

「腕、組んでも良いですか?」

「良いよ」

美紀が後ろから腕を絡めて来た。

「パパ以外の男の人と腕組んで歩くの、生まれて初めてよ」

美紀が声を弾ませる。

 水割り3杯ほど飲んだはずだが、足取りはしっかりしていた。

小振りだが、しっかりした弾力のある美紀の乳房が肘に当たる。

普通なら男根が疼き出す処だが、不思議な美紀の言動に振り回されて、今の処はどうも勝手が違う。


「腹減ってるだろ?部屋に何もないからラーメン食って帰るぞ」

「はーい」


新宿駅の南口に、脂で床が滑るような古く汚い、カウンターだけのラーメン屋があった。

見掛けに拠らず、いや、見掛け通りにか、味は大層美味しくて、お腹が空いてなくても、ついふらふらと立ち寄ってしまい、気が付くとスープまで平らげて、腹がはち切れんばかりになっている事がしばしばあった。

今でもあるだろうか?


「まいどー」

オヤジがガラス戸を開けた私を認めて、威勢の良い声を揚げる。

美紀が大きなバッグからハンカチを取り出し、そのバッグを荷物掛けに吊り下げてやって、並んで座る。

他に五人の客がラーメンを食べていた。

美紀が物珍しそうに店内を視廻してから、声を潜めた。

「まいどー、って?なーに?」

「お前、そんな事も知らないのか?何時も食べに来てくれてありがとうございますって意味だよ。ったく。で、何食べたいんだ?」

「判んないからお兄ちゃんと同じのが食べたい」

美紀が壁に貼られたメニューを一瞥しただけで、私を視た。

「判んない?って?お前、ラーメン食べた事ないのか?」

「ありますよーだ。こういうお店が初めてなだけ」

美紀が膨れっ面をしながら、そっぽを向いた。

「どんな処で食べるんだ?」

「中華食べに行くのは、何時も銀座の○○飯店。そこで時々ラーメンも食べるのよ」

名前を聴いた事があるだけで、多分一生行かないような高級中華料理店だ。

疲れる!

何時も決まって食べる、一番安い味噌ラーメンを注文する。

「家で、インスタントラーメン食べたりしないのか?」

その頃からブームになり始めたインスタントの袋ラーメンは、私の常備食だった。

「インスタントラーメンって?知らないわ。多分食べた事ない。美味しいの?」


美紀と初めて会話して2時間も経った。

どれだけ驚かされたか。

それなのに、未だ、この美少女の学生証以外、正体の欠片も、彼女の魂胆も知り得ていない。


「お前の親って?何者?」

「何者って?パパは貿易会社をやってて、一年のうち半分くらいは外国を飛び回ってるわ。ママはお茶とお華の師範で、パパの会社のビルでお教室やってる」

「はいはい」

想像した通り、とんでもない良い処のお嬢様だった。


おやじが出来上がったラーメンを眼の前に置いた。

美紀が眼を輝かせてラーメンを視詰め、箸を割って麺を解し、スープを絡める。

「いっただきまーす」

花柄のハンカチを左手に持って、スープをレンゲで掬って口に運ぶ時に添えた。

上流階級か!

麺を啜る前に、麺とスープを馴染ませてから、スープを飲む。

作法は弁えていた。

「わーっ!美味しいーっ!」

スープを一口飲んだ美紀が大声を上げた。

何時もは強面のオヤジが、何と嬉しそうな貌。

店にいた他の客も、食べるのを中断して、美紀を視詰めて微笑んでいる。



(続く)





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