記憶の中の女達〜(18)琴を弾く女-第36話
作家名:淫夢
文字数:約3090文字(第36話)
公開日:2021年6月4日
管理番号:k057
この作品は、過去、実際にセックスした数百人の女性の中の、記憶に残っている数十人の女性との出遭いとセックスと別れを描写。
“R/Z”が開店した。
当たり前だが、客はほとんど来ない。
報せていた、私が飲みに行く処の従業員や常連、アルバイトをしてくれる大学生の友人たちが来る程度で、最初の3日くらいで20人程、それ以降は10人程だった。
時折、必死で配りまくった100円券を持って来る客がいて、そんな時苦労が報われた想いがした。
しかし、そもそも、自分達が24時間大音響でロックを聴いていられたら良い、という不純な動機で始めたのである。
オーナーも「最初の1年は赤字覚悟だから、金の心配はするな」と、ありがたいお言葉を繰り返してくれていた。
それに、“S/E”も、日曜の昼間こそ30人くらいの客がいたが、平日は4、5人くらいの客しかいなかったのだ。
そんなある日、“S”で働いているギタリストのSが二人程連れて来た。
一人はベース、一人はスネアドラムのケースを持っている。
Sの知り合いだという二人は、音楽学校で勉強していて、将来はプロを目指すそうだった。
“プロか”
ただ単に好きでギターを始めた私は、何となく違和感を覚えた。
後に、“R/Z”に、ミュージシャンを目指して学校で勉強している連中が大勢来るようになったが、やはり違和感はあった。
仮に、ものすごいテクニックを身に着けたとしよう。
そんな人は世界中で何万人、何十万人といるはずだ。
そして、そのうちの何人が有名になって富を得るのだろうか?
自分で納得出来るテクニックを習得する事が最終目的である人もいるのだろうが、ごく僅かだろう。
逆に、大したテクニックがなくて、有名になったミュージシャンも大勢いる。
私がライヴ活動を始めた頃、店の常連になって一緒に演奏してくれる腕達者なミュージシャンが何人も現れ、充実したライヴをやる事が出来たが、彼らは、当時から、有名になり掛けていて、高額のギャラを得るようになってもいた。
私は、彼らのテクニックと、自分のそれを比較して自己嫌悪に陥り、それがトラウマになって音楽活動を辞めるはめになった。
「お前、ギター弾くだろ?この二人、ギター探してんだ」
Sが二人を紹介してくれた。
「トリオ組んでやらないか?」
「おれみたいな自己流で良ければ良いぜ」
話はすぐにまとまり、二日後、近くのスタジオを借りて、初音合わせをする。
二人とも音楽学校で学んでいるだけあって、相当上手い。
私のギターだけ浮いているような気がして、コンプレックスを抱いた。
「粗削りだけど、良い感覚持ってんな」
ベースくんが私に笑いながら言った。
「一緒にやろう」
私のロック人生がスタートした。
しかし、音楽学校で、専門的なレベルで学んでいる二人は、私に小難しいテクニックを要求して来て、私を辟易させた。
「それって、ロックじゃないんじゃないの」
「そう。ロックじゃないけど、こういう音楽をやりたいんだ」
私と二人は、目指す処が違うのだ、という事を日々認識させられた。
私より2歳年上で、音楽的な素養がある二人には、どうしても圧されてしまう。
それでも、何時か、何かの足しになるだろうと考えて、頑張っていた。
そんなある日、二人と一緒に、美郷という名前の女性が現れた。
二人と同じ音楽学校で学んでいて、子供の頃から習っている琴が得意だそうだった。
琴を弾くだけあって和風イメージの女性で、ストレートの長い黒髪と、和風の上品な貌立ち、物静かな立ち振る舞いは、長野の大きな旧家の生まれ育ちである事を納得させるものであった。
二人が、新しく「陰旋律」を使った曲をやろうと、彼女を誘ったようだった。
「陰旋律」とは、簡単に言えば、日本の雅楽のようなものである。
どんどんロックから離れて行くな、と感じながらも、美郷が一緒にやるなら、頑張ってみようと、女好きの虫が動き出した。
スタジオで何度か、併せてみるが、二人は納得行かないようで、美郷もアップテンポの曲に着いて行けてないようだった。
「お店で、閉店後か開店前に、お琴の練習をさせて貰えないかしら?」
ある日、美郷が私に言った。
「良いけど、何で?」
「私、下手くそで着いて行けてないし、練習しようと想っても、部屋はアパートだから音が出せないし、学校じゃ時間の制約があるし、学校の課題もやらなきゃいけないから」
美郷が、伏し目がちに応えた。
美郷は内気なのか、普段から自分から積極的には話さなかった。
「何時が良い?」
「朝は学校があるから、夜でも良い?」
「夜って、12時閉店だぜ。電車ないだろう?」
「始発が出るまで、お願い」
夜通しやるのか。
私は了解した。
その時は未だ、美郷とどうこうなろうなどとは想いも及ばなかった。
それ程、美郷はセックスを感じさせないタイプだったし、私好みの美人ではあったが、女の艶香も出さない女だったのだ。
翌日の夜から、美郷の練習が始まった。
連日の徹夜はきついようで、2日に一度、夜通し練習する。
私は、一緒にいて、酒を飲んで、眠くなったら寝て、朝、美郷が起こしてくれる。
日本的な音楽は嫌いではなかったし、ほろ酔い加減で聴くと正月のようで、美郷が弾く琴の音色が心地良い。
2度目の夜、うとうとしていると、美郷が小さな叫び声を上げた。
「痛っ」
起き上がって美郷を視ると、右手で左手の指を握って、美貌をしかめている。
「どうした」
美郷の手を開いてみると、左手の薬指の先が切れて血が噴き出していた。
弦で切ったのか?
私は咄嗟に美郷の薬指を口に含んだ。
子供の頃、山に入って遊び、笹などで指を切ったりした時に、応急処置として傷を舐めて唾液で消毒したのを想い出したのだ。
幼馴染の女の子にも、何度もしてやった事があった。
薬箱などないから手当のしようがない。
私は、舌でそっと傷口を撫で、血を吸ってやった。
「優しいんだね?」
美郷が呟いた。
「子供の頃、良くやったからな。こんなになるまでしなくても良いだろ?お前の何処が下手なんだ?」
「下手よ。あの二人に着いて行けてないもの」
「おれは上手いと想うけどな。美郷の琴って雰囲気良いし、おれは好きだな。あいつらの演奏は、上手いんだろうけど、好きじゃない」
「ありがとう。褒めてくれて。でも、もっと上手になりたいし、この曲だけでもちゃんと弾けるようになりたいの」
美郷は2時間練習して、1時間休憩する。
3度目の夜、私は酔って眠り込んでいた。
暖房を入れていても、ごろ寝は寒い。
私は飲みに行って、オーナーの部屋に帰りたくない時は店で寝ていたので、厚手の毛布を倉庫に置いていて、何時もそれを掛けて寝ていた。
ふと、何かの気配に眼が覚めると、驚いた事に、美郷が半身になって私の腕の中で眠っていた。
初めて視る美郷の寝顔は美しく神々しいように感じられた。
美郷の大きくはないが、弾力に富んだ乳房が私の脇腹に触れていた。
薄く開いた美郷の唇がやけに印象的で、キスを誘っているようだった。
“困ったな。どうしよう”
と、敢えて心の中で呟いてみるが、勿論、こんな状況になっていて、女好きの私が嬉しくない訳がない。
私に添い寝している、という事は、美郷も私に抱かれても良い、という心根なのだ。
と、勝手に判断してしまうのが、こういう状況になった時の、私の癖だ。
私は、美郷の乳房を洋服の上から、軽くわし掴みにして、美郷の唇に唇を被せた。
キスをされて眼覚めたのか、それとも既に眼覚めていたのか、美郷が眼を閉じたまま、キスに応じて来た。
“やっぱり良いんだ”
気を良くした私は、美郷のセーターをたくし上げた。
淡いブルーのブラジャーが現れる。
ブラジャーを外して、今度は直接美郷の乳房をわし掴みにして軽く揉み立てる。
私の掌サイズの愛らしい乳房が、私の掌の中で型を歪める。
色素がほとんど沈着していない、未だ熟し切っていない小さな乳首が、掌で転がって硬くしこった。
(続く)
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