記憶の中の女達〜(16)今度はフルコースでお願い-第32話
作家名:淫夢
文字数:約3230文字(第32話)
公開日:2021年5月7日
管理番号:k057
この作品は、過去、実際にセックスした数百人の女性の中の、記憶に残っている数十人の女性との出遭いとセックスと別れを描写。
11月に入ってまもなく、私は20歳になった。
世間一般では、成人と称して、選挙権を得たとか大人の自覚を持って、などと言うが、私はそんなまともな感覚は持ち合わせていなかった。
酒は中学の頃から飲んでいたし、タバコも高校に入った頃から喫っていたので、今更、であった。
だいたい19歳の最後の日と20歳の誕生日と、何処が違うのだろうか?
最近は18歳が成人となったが、何も変わらない気がする。
青少年健全育成条例かなんかが制定されて久しいが、中学生でさえ、性欲の赴くままに恋人とセックスする。
“R”の店仕舞いは今月末だが、オーナーの言葉通り、腹を括って焦らない事に決めていた。
“R”を閉めて“S”に行く。
恵さんがいなくなって2週間経ったが、未だドアを開けたら恵さんが独りで飲んでいるような気がする。
“S”は、大学生3人が交代で回していた。
ジャズやブルースの月刊誌を創りたいと頑張っているF、カメラマンの卵のS、アマチュアのギタリストのK。
3人とも、話してみると楽しい男達だった。
この夜は、3人とも店にいて飲んでいた。
ギターがシブい、モノラル録音のディープサウスの黒人ブルースが掛かっていた。
カウンターに座ると、Fがボトルとグラスを出した。
「未だ良いのがないのか?」
「普通の喫茶店かスナックみたいなんで良いんじゃねえの?」
「そうそう。おれも、鳴ってる音楽がロックなら良いと想うけどな」
3人とも、興味を持ってくれている。
自分たちも“S”をベースにして何かをやろうとしているのだから、他人事ではないようだ。
「最終的にはな。でもオヤジも焦るなって言ってくれてるし」
4人でレコードを聴きながら朝まで飲む。
「またな」
3人より先に“S”を出る。
“F”に行けば新たな女性との出遭いがあるかも知れないが、最近はずっと独りで朝を迎え、オーナーの部屋に帰る。
昼から“R”でレコードを聴いていると、電話が鳴った。
若い女の声だが、今回のスペース探しで世話になっている不動産屋の名前を名乗った。
風変りな物件だけど、今から観に行かないかと誘う。
鍵を掛けて不動産屋に行くと、若い女が私を迎えた。
「父が他に回ってるから私が案内します」
女が名刺をくれた。
名前は和子。
25、6歳か。
薄化粧を施した貌立ちは悪くない。
利発そうな眼差しに富士額で、しかし仕事中だからか、女性らしさを欠いていた。
背は高くないが、ブラウスの胸のボタンが何かの拍子に弾け飛びそうだ。
この不動産屋には何度も来たが彼女と会うのは初めてだった。
「近いから歩きましょう」
和子が私を促して店を閉めた。
元々、ディスコだったそうで、立地が良くないのと店内が細長いせいで、すぐに潰れたそうだ。
ただ2年も借り手がいないので、ビルのオーナーが大幅に家賃を下げたとの話だった。
「風変りだから、あんまり期待しないで下さいね」
和子もあまり薦める気がないようだった。
その雰囲気から、私も観ないで帰ろうかと感じたほどだった。
ところが!
とんでもない物件だった!
細長い6階建てのビルを入り、1階の呉服屋の横の狭い通路の奥から地下へ降りる。
重い鉄製の扉を開け、中に入る。
和子が照明を点けた。
「これだっ!」
私は感激の余り、大声を上げ、傍にいた和子を抱き締めていた。
興奮を抑え切れない私は、和子を抱いたまま店内を視回した。
コンクリートのままの壁のそこここに、黒の塗料で女性の裸身の大きなイラストが幾つも描かれていた。
「は、離して」
和子が喘いだ。
「ああ、ごめん」
和子を離して貌を視ると、あまり女性らしくないと感じた和子が、恥じらいの色を浮かべてはにかんだ。
一瞬、割と良い女だと感じたが、今はそれ処ではなかった。
細長い店内を何度も隅々まで歩いて観る。
テーブルやイスは撤去されていたが、縄文時代の住居跡のように、床に凹凸があってそれが椅子代わりになっていた。
真に、S/Eの店内と同じで、イメージ通りだった。
右奥にトイレ、左奥にL字型のカウンターがあり、中の壁にボトルやグラスを並べられる棚が巡らされていた。
カウンターには7人くらいは掛けられそうだ。
カウンターの奥に入って観ると、ガステーブルを置くスペースと流しがあり、倉庫として使うくらいのスペースもあった。
軽食くらいは作れそうだった。
カウンターから出てもう一度店内を歩き回っていると和子が私を手招きした。
「面白い仕掛けがあるんですよ。これ、入れてみて」
和子が立っている傍にある電源ボックスに手を伸ばして、和子が示したブレーカーを上げた。
「何!これ、すごいっ!」
私はまた驚いて和子を抱き締めていた。
普通の照明が消え、壁の上部に巡らされたネオンサインが点灯すると、黒色で描かれていると想っていた女性の裸身がレインボーカラーで浮かび上がったのだ。
あっけに取られたまま、暫く店内の壁を視回していた。
身体の震えが止まらない。
「決めたっ!」
私は急いで外に出て、近くの公衆電話からオーナーに場所を報せた。
ビルの前に立っていると、和子が貌を上気させて出て来た。
ふと、2度目に和子を抱き締めた時、暫く抱いていたはずなのに、最初の時のように和子は「離して」とは言わなかったような気がした。
まもなくオーナーが恋人くんと一緒に急ぎ足でやって来た。
皆でもう一度店内をじっくり点検するように視る。
「ここで良いのか?」
オーナーが私を振り向いた。
「ここが良いんだ」
私は力を込めて言った。
後の面倒な金の事や手続きはオーナー任せだ。
翌日、朝から編集長とDJくんを呼び出して、観せた。
「“S/E”みたいね。良いわ」
「良いんじゃない。面白いよ」
2人とも、気に入ったようだ。
昼食を採りながら、打ち合わせをする。
オーナーは、一部分改装するとしても、予定より随分資金が少なくて済みそうだと言った。
使用するレコードは、私が持っているもの以外に、編集長とDJくんが自分達が持っている物を提供してくれる事になって、取り敢えず1000枚くらい集められそうだった。
従業員は、以前から話していたDJくんの友達が、「一日中ロックを聴いていられるならバイト代も要らない」という5人がローテーションを組んでやってくれる事になった。
オーディオ屋に行って、音響機器の相談をする。
どうせなら、オーディオも最高級が良い。
オーナーも“東京で一番良い音響にしろ”と言った。
ターンテーブルはデュアル、ミキサーはマランツ、パワーアンプがマッキントッシュの500W、スピーカーは、メインにアルティックのA7、サブにサンタナ。
高すぎるかな?と不安になったが、オーナーは平気な表情でいて、ほっとした。
オーディオルーム以外に、改装はほとんど手を掛けず、イメージに合うテーブルとイスを並べる。
ざっと7、80人くらいは収容出来るようになった。
話はトントン拍子に進み、12月の初めにオープンが決まった。
ある夜遅く、常連客が皆帰った“R”の閉店間際に和子が独りでやって来た。
「少し飲ませて」
カウンターに座る。
「若い女が歩き回る時間じゃないだろ?何飲む?すごい良いの探してくれたから、お礼に奢るよ」
「あなたがあそこに決めてくれたから、あのビルのオーナーが特別にお礼をくれたの。今日はあなたにご馳走しようと想って来たのよ。お腹空いてるでしょう?食事しよう」
和子が私に逢いに来た。
淡いレモン色のセーターを盛り上げている豊かな乳房を包む黒のブラジャーに視線が行く。
“おっぱいのでかい女はなんかなあ”
「それは良かったな。でもここは奢る」
「じゃあ、ブランデーの水割り」
「判った」
和子にヘネシーの水割りを作ってやると、オーナーと恋人くんが帰って行った。
看板を仕舞って店に入ると、和子が水割りを飲み干した。
鍵を掛けて歩き出すと、和子が腕を絡めて来た。
大きいと言うより膨らみ全体が盛り上がっていて、乳房の谷間が感じられない。
「何食べたい?」
「何でも良い」
「じゃあ、フランス料理で良い?」
「良いぜ。こんな時間にやってる処あんのか?」
「うん。そんなに高級じゃないけど、結構美味しいと想うわ」
和子が乳房で私を圧すように歩き出した。
(続く)
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