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記憶の中の女達〜(15)「やっと抱いてくれたな」-第30話



作家名:淫夢
文字数:約3310文字(第30話)
公開日:2021年4月16日
管理番号:k057


この作品は、過去、実際にセックスした数百人の女性の中の、記憶に残っている数十人の女性との出遭いとセックスと別れを描写。



挿絵の官能小説画像

ロックスペース探しを始めて一月以上経った。

「気に入る処がなくても、妥協するな」とオーナーが何度か言ったが、私に取って、大切な人生のスタート地点である。

言われなくても妥協するつもりはなかった。

オーナーの実家での資金の調達も上手く行ったようだった。

“R”の店仕舞いを知って、常連客が連夜押し寄せ、閉店時間の1時になっても帰らない。

2時近くなってから“S ”に行く。


未だにドアを開く瞬間、躊躇してしまう。

蓉子がいるかも知れない。

いて欲しい。

いや、いない方が良い。

そして中に恵さんしかいないと判るとほっとするような、がっかりするような、複雑な気分になる。

「今日は遅かったな。どっかで飲んで来たのか?」

「オカマのオジサマ達が閉店時間になっても帰らねえんだ」

恵さんが私のボトルとグラスをカウンターの上に置いた。

「良いじゃないか、儲かって。オヤジさん、ホクホクだろう?」

「そうなんだよ。おれに、急いで探さなくても良いって言うの、その魂胆かもな」

「店仕舞いを少しずつ遅らせたりしてな。で?未だ良いのは見つからないのか?」

「うーん。そこそこのはあるんだけどな。でもやっぱそこそこなんだ」

ウイスキーをストレートで呷る。

「ここみたいなありふれた商売なら、適当で良いんだろうけど、お前、全然新しい事やろうとしてんだろ?場所も広さも設備も全然判らない処からやるんだもんな」

恵さんがカウンター越しに私の前に頬杖を突いた。

「イメージはあるんだ。“S/E”みたいな感じでさ」

「“S/E”なぁ。私も行った事あるけど、あんなの滅多にないぜ。薄汚くて、喫茶店風でもないし、スナック風でもないし」「恵さん、行った事あんの?」

「昼間に2回行った。お前がいるかなって」

恵さんは時々何気なく、私への気持ちを言動で現す。

「そうなんだ。じゃあ、判るよな。あの雰囲気」

私は照れ臭くなってはぐらかした。

「改装してから汚すってのもなぁ」

「最終的にはそれもありかな。まあ、気長に探すよ。オヤジも儲かってるから」

トイレに立って戻り、グラスにウイスキーを注ぐ。


恵さんが、私の眼の前に立って、カウンターに頬杖を付いた。

「なあ、私さあ、ここ辞めて北海道に帰る事にしたんだ」

「えーっ!なんで?」

「ちょっと疲れたしな。父親がちっちゃなペンションやっててな、もう歳だから代わりにやってくれって」

恵さんがいなくなる!

今でこそ北海道なんて飛行機であっと言う間だから、それ程距離感はないが、当時は外国のようなイメージだった。

「ここ、どうなるんだ?」

いや、恵さんがいなくなった後のここの事なんかどうでも良い。

恵さんがおれの傍からいなくなる。

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初めて、自分の心の中で、恵さんの存在がいかに大きかったかを想い知らされる。

“おれ、恵さんが好きだ”

初めて明確に意識した想いが心を覆う。

このまま恵さんと別れて良いのか?

一度も抱かずに。

「なんかな、大学生が権利を買い取って、何人かでやるんだってよ」

「そうか」

私は肩を落とした。

“本当に、恵さんがおれの前からいなくなる?寂しくなるな”

「今、私がいなくなったら、寂しくなるって想っただろ?」

“何で判んだよ!”

大抵は大人びた貌をみせている恵さんが、珍しく悪戯っ子のように微笑んだ。

「ああ、あんたがいなくなったら寂しいよ」

恵さんとは気心が知れているだけでなく、感性もほぼ一緒だった。

感情を隠してもすぐ判る。

「なあ、多分今日しかないぜ」

恵さんが、珍しく、美貌に恥じらいを浮かべた。

何を言いたいのか判っていた。

私の心の中も同じ想いで溢れていた。


あの日、蓉子との愛に絶望した私の背中を抱いて、「慰めてやるから私の部屋に来いよ」と言った。

「今日は良いよ。またな」と応えた私に、「私は何時でも良いからな」と言ってくれた。

それ以来、恵さんの気持ちは判っていたし、私も恵さんを視る度に、抱いてみたいとは何時も想っていた。

しかし、そう想う度に、私の愛撫に反応して官能に歪む蓉子の清楚な美貌と悶え仰け反るしなやかな裸身が、その想いを遮っていた。

他の女なら簡単に抱ける。

実際、あれから何人もの女を抱いた。

しかし恵さんと蓉子は親友なのだ。

恐らく今も。

それが重い足枷になっていた。

暫く沈黙が私たちを包んだ。


ふと、恵さんがカウンターから出て、店のドアを開けた。

スズメの鳴き声と朝日が店内に入って来た。

蓉子との愛に絶望して泥酔した朝と同じだった。

そして、あの朝と同じように、恵さんが私の背中に覆い被さった。

「私ぁ、蓉子じゃない」

そうだ。

そうなんだ。

恵さんは蓉子の親友だけど、それだけなんだ。

私は恵さんに蓉子を重ねていた。

恵さんの弾力に富んだ乳房が私の背中を圧した。

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私は振り返って立ち上がり、恵さんを抱いた。

恵さんの美貌を上向けると、恵さんは瞳を閉じていた。

私は開き気味の美しい唇を塞ぎ、貪り吸った。

初めて重ねる恵さんの唇。

恵さんが私の背中に手を回してキスに応じて来た。

柔らかい恵さんの唇と舌の蠢き。

官能が込み上げて来たのか、軽く鼻を鳴らす。

恵さんの豊かな乳房が私の胸を圧した。

一頻りキスを貪り合って唇を離すと、恵さんが恥ずかしそうに俯いた。

「やっと抱いてくれたな」


二人で無言のまま、店を締めて新宿駅に向かう。

恵さんが腕を絡めて来た。

私の肘が恵さんの乳房の谷間に挟まれるようだった。

小田急線の豪徳寺から歩いて5分程のマンションだった。

1Kだが、ユニットバス付きのようだ。

窓の傍に机、その手前にベッド。

その手前に小さな冷蔵庫があった。

恵さんらしいシンプルなモノトーンの家具が、恵さんのイメージ通りに整然と置かれていた。

ベッドの反対側にテーブルが置かれ、その窓側にある本棚には美術書らしい書籍が並んでいた。

壁に3枚の小さなキャンバスが掛けてあった。

歩み寄ると、淡い水彩画で、何れも風景画だった。

恵さんが北海道の田園を描いた物だろう。

「綺麗な絵だな」

恵さんが冷蔵庫から出した缶ビールを二つ手にして歩み寄った。

「お前の絵心も大した事ないな」

恵さんが恥ずかしそうに微笑んだ。

「おれ、こういう淡い風景画って好きだな」

一瞬、蓉子が描いた、陰惨なイメージだった「闇の中を歩くピエロ」が脳裏を掠めた。

私はそれをすぐに掻き消した。

ベッドに掛けて缶ビールを飲む。

缶ビールを半分ほど一気に飲んだ恵さんが、無言で私の脚元に跪いて、私のジーンズを脱がせた。

無言で恵さんの為すがままになる。

トランクスも脱がされる。

恵さんが小さな喘ぎが洩れる美しい唇で私の男根を啄む。

私はフェラチオをする恵さんの表情を視ようと、恵さんの美しいストレートの長い髪を掻き上げた。

恵さんがそれに気付き、一瞬恥ずかしそうに上目遣いに私を視たが、すぐに眼を閉じて男根全体を口に含んだ。

恵さんの熱い口腔粘膜に包まれた男根が一気に勃起する。

恵さんが一瞬驚いて唇を離した時、唇と勃起の先端に唾液の糸が延びた。

恵さんが勃起の根元を指で支え、根元から先端まで舌を這わせて何度も舐め、先端から被せた唇を窄めて吸い立て、扱く。

それ程巧くはないのが意外ではあった。

年齢とその美貌、そして肢体からして、もっと男性経験が豊富だと感じていた。

恵さんは私の勃起をただ夢中で愛撫していた。

それは私の性感を昂めようとするのではなく、むしろ、ただ私の勃起を愛おしむような愛撫であった。

恵さんが、私を、これ程愛おしく想ってくれていた。

“恵さん、きれいだ”

時折、私の勃起を咥えたり吸い立てたりする際、頬が歪み、また、息苦しくなると眉を顰める。

それでも、官能に塗れて私の勃起を舐め、咥え、しゃぶる恵さんの表情は美しかった。

私は恵さんのフェラチオを施している美貌を視詰めていて、その美しさに射精感が込み上げて来るのを感じた。


女性がフェラチオしている際の表情が美しく視える女性は、過去何人もいたが、醜く感じる女性の方が圧倒的に多い。

またこれ見よがしにする女性もいる。

どう?私のフェラチオ、上手でしょう?感じるでしょう?

そうした時、私は興醒めして勃起が萎えそうになるので、そんな時は女性の表情から眼を離し、勃起への刺激だけを感じるようにしている。

そんな女性にもう一度フェラチオを施して欲しいとは想わないし、もう一度セックスしたいとも大抵は想わない。



(続く)





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