記憶の中の女達〜(12)横浜の美少女-第23話
作家名:淫夢
文字数:約2580文字(第23話)
公開日:2021年2月26日
管理番号:k057
この作品は、過去、実際にセックスした数百人の女性の中の、記憶に残っている数十人の女性との出遭いとセックスと別れを描写。
その夜、オーナーが店のドアに、11月末で店仕舞いするという張り紙をした。
私の心は踊った。
ロックの世界で生きられるなどと未だ確信はなかったが、少なくとも“S/E”の代わりになる居場所が出来る事になった。
それも自分でそのスペースを創造出来る。
そこから自分の人生がどう拡がって行くのか。
翌日から、店舗探しが始まった。
“R”を紹介してくれた不動産屋に頼んで物件を紹介して貰い、時には編集長やDJ君にも同行して貰い、朝から夕方まで新宿の街を歩き回った。
しかし、これだ、という物件があれば苦労はしない。
一人が気に入れば、一人が気に入らない、というケースばかりだ。
高齢のオーナーの足が鈍り出した。
「お前がやるんだから、お前の気に入った処で決めろ。金は出すから」
と言って、オーナーは余り出掛けなくなったが、私は歩き回った。
ある日、オーナーが二日ほど故郷の愛媛に帰って来ると言った。
オーナーの実家は愛媛の大地主であり、自分は長男だったが跡を継ぐのが厭で、弟に後を任せて、好きな人生を送っていると、以前、オーナーが話していた事がある。
「お前が気に入った物件で、おれの財布が足らなくなったら困るから、金の工面をして来るよ」
オーナーがそう言ってくれた。
宛てはありそうだった。
オーナーのマンションの部屋の合鍵は持っていたので、女性と出遭わない日でも寝泊まりには困らない。
冬物の洋服が必要だと想い付いて、久し振りに兄の部屋に帰る事にした。
大学4年の兄は、飯田橋にある大学で、情報工学とかいう、コンピューターの技術を研究する勉強をしていた。
私と違って、子供の頃から、周囲の人達に、中学校始まって以来の秀才と言われ、勉強だけの青春を送って来た兄である。
間違っても、ゲイバーでアルバイトをしている、などとは言えなかった。
兄には、埼玉県の大学に行った高校の同級生の部屋に寝泊まりして、ラーメン工場のアルバイトをしていると話していて、そこの下宿の大家の電話番号を教えていた。
さて、ロックスペースをやる話をどうやって、兄に話そうか。
大学はどうするんだ?と責められるに決まっている。
しかし生来楽天的な私だった。
始めてしまえば、こっちのものである。
事後承諾で報せたら良い。
私はこの堅物の秀才が苦手であった。
日が暮れてから、兄のアパートに行く。
3ヵ月振りくらいであった。
兄は、案の定机に向かって分厚い本を開いて、ノートを取っていた。
「髪伸ばしたのか?」
「ああ、ロックやろうと想って」
「大学は?」
そら、来た。
「未だ休講続きだしな。学生運動が収まったら、行くかもな」
「ちゃんと大学行けよな。それから、埼玉の下宿に電話したけど、大家が耳の遠いばあさんで話が通じないから、もっと頻繁に帰って来るか電話よこすかしろよ」
「うん。判った」
良かった。未だばれてない。
「この前、先輩に会ったら、横浜の加奈子ちゃんが、お前に伝えてって。ほら、あの子の家の電話番号」
兄が手帳に挟んだ紙切れをくれた。
加奈子?
横浜?
あの子か!
一昨年の熱い夏の、わずか二日の恋が脳裏に蘇った。
高校3年の夏、私は1年生の美少女と交際っていた。
交際って、と言っても、手を握った事もなく、3年生になってすぐラヴレターを貰って、ただ朝晩に駅で待ち合わせて一緒に通学し、放課後と休みの日、一緒に時間を過ごすだけ、といった、今の私からは想像も出来ないほど純情な自分がいた。
悪友の何人かは、恋人とセックスしていたようだったが、私は臆病で、自分から行動に移すタイミングも掴めず、休みには何度も互いの部屋で二人っきりになっり、海や山へ遊びに出掛けた事もあったのに、キスさえも、高校の卒業式が終わった後、彼女の部屋に行って帰り際にやっと出来ただけで、それっきりになってしまっていた。
夏休みのある日、兄の高校時代の部活の先輩と兄の元同級生が2人、海水浴にやって来た。
私の実家は、窓から海に沈む夕陽が眺められ、裏木戸を開けたら眼の前が日本海、背丈ほどの石垣を飛び降りたら砂浜、10メートル程で波打ち際、という、まるで民宿か別荘のような立地環境であった。
その先輩の従妹だと紹介された加奈子を一目視て、浮気性の私は、交際っている女の子を忘れて恋をしてしまった。
あどけない愛らしい美貌、甘えん坊のように軽く突き出た唇、ちょっと突いただけで泣き出しそうな頼りない瞳、潮風に靡く、背中の中ほどまで伸ばした長いストレートの髪、サンドレスから伸びたしなやかな手足、サンドレスの胸の部分を軽く盛り上げている乳房。
まるで、ポップスかグループサウンドの歌詞に出て来るような美少女であった。
どうせ、都会のお嬢様で、私など、無縁の存在だ。
私は虚しくなって、サザエ獲りに出掛けた。
出掛ける時、マリンブルーのワンピース水着にしなやかな肢体を包んだ美しい加奈子が熱い砂の上を、従姉と手を繋いではしゃぎながら渚まで走るのを視掛けた。
中学、高校で交際った女の子の水着姿でさえ視た事がなかった私は、胸をときめかせた。
当時、女の子は、高校生にもなると、恥ずかしいのか、地元の海岸では滅多に海水浴をしたりしなかった。
あんな子と交際えたら。
でも、あんな可愛い子、恋人がいるんだろうな。
再び心を覆う虚しい想いを振り切って背を向けた。
サザエ獲りが町で一番、というくらい得意だった私は、3時頃には桶に一杯サザエを入れて家に帰った。
家ではちょっとした騒動が起こっていた。
加奈子の足の裏にウニの棘が刺さったと言うのだ。
愛らしい加奈子のアクシデントである。
棘を抜いてやったら、王子様になれるに決まっている。
兄や兄の同級生が頑張ってみたが取れないという。
潮戻し(海から上がって海水を洗い流す)して、母屋に入ると、兄に言われる。
「お前、得意だろ?取ってやってくれ」
片足跳びで歩く加奈子に肩を貸してやって、離れに行く。
潮戻しした加奈子の、シャンプーと石鹼のさわやかな香りが私の胸を再びときめかせた。
離れで二人っきりになる。
「そ、そこに腹這いになって、脚を伸ばせ」
緊張で声が掠れる。
加奈子が畳の上に俯せになった。
膝上丈のピンクのサンドレスからしなやかな両脚が?き出しになった。
脚の裏を視ると、右脚の土踏まずの窪みに3本も棘が刺さっている。
誰かが何度も王子様になろうと、頑張ったのだろう、棘が刺さっている部分がささくれ立って傷付き、わずかに血が滲んでもいた。
(続く)
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