記憶の中の女達〜(7)闇の中を歩くピエロを描く女-第14話
作家名:淫夢
文字数:約4040文字(第14話)
公開日:2020年12月17日
管理番号:k057
この作品は、過去、実際にセックスした数百人の女性の中の、記憶に残っている数十人の女性との出遭いとセックスと別れを描写。
いつの間にか眠っていたようだ。
目覚めると、腕の中で小さく縮まった蓉子の裸身があった。
程良く肉付いた蓉子の愛らしい乳房を摩ってみると、蓉子も目覚めた。
「蓉子っ、あ、愛してる」
「愛してる」という言葉の意味も使い方も解っていた訳ではないが、歌の歌詞に出て来るのを聴いていて、適切な気がしたのだった。
「わ、私も、愛してる」
蓉子が美貌に恥じらいを浮かべて喘いだ。
「蓉子、お前、○○止めろよ」
私は気になっていた事を蓉子に諭すと、蓉子は子どものように微笑んで頷いた。
蓉子が堪らなく愛おしい。
私は蓉子を抱き締め、キスを貪ると、蓉子も鼻を鳴らして応じて来る。
眠る前の蓉子の膣粘膜の不思議な蠢きをもう一度試してみたい。
私は蓉子に重なり、いきり立った勃起を膣粘膜に埋めてみた。
蓉子の愛液に塗れて妖しく蕩け切った膣粘膜が、私の勃起を奥深く咥え込んだ。
キスを貪っていると、再び蓉子の膣粘膜が収縮弛緩を始めた。
「蓉子のおま○この中、凄い!」
膣粘膜が私の勃起を一気に翻弄し始める。
「わ、判んない。な、中が動いてるのは判る。こ、こんなの初めて、ね、ねえ、もうっ、イ、イクよっ」
「おれもだ、で、出る!」
「イ、 イクイクーッ」
蓉子が私の腕の中で、その華奢な裸身を痙攣させて絶頂を極めた。
今度はしばらくして勃起が萎えて膣孔から抜け出た。
時計を視ると、既に5時を回っていた。
ベッドから起き上がると、あのピエロが眼に入った。
それを振り切るように洋服を着て出掛けようとする私に蓉子が全裸のまま抱き付いた。
“R”の開店は7時だった。
再びキスを貪り合う。
「蓉子。お前、可愛いんだから化粧止めろよ。素貌の方が好きだ」
「うん。止める」
5歳も年上の蓉子が子どものように可愛いかった。
このまま抱いているとまたセックスしたくなる。
私は振り切るように部屋を出た。
その夜は“S”には行かず、他へ飲みに行った。
「手を出すんじゃねえぞ」と恵さんに言われたのに蓉子とセックスしたのが照れ臭かった。
その次の夜、“S”に行く。
カウンターの上に“蓉子”と書かれたボトルと飲みかけのグラスがあった。
“蓉子が来てる”
私はその隣に座った。
「お前、凄いやつだなぁ」
恵さんが呆れた表情でグラスを出し、蓉子のボトルからウイスキーを注いで、私の前に置いた。
「何が?」
「蓉子、昨日も来たぜ。○○止めたんだってよ。貌もスッピンだった。私ゃ、3年前から“止めろ”って言い続けてたんだ。それをお前の一言で、たった一日でさー」
“そうか。蓉子が”
私は嬉しさと照れ臭さでウィスキーを一気に飲んだ。
蓉子がトイレから出て来た。
私を視て恥ずかしそうにはにかんだ。
朝まで飲んでしゃべる。
早く蓉子を抱きたい。
時計の動きが焦れったかった。
朝になり、帰り掛けに蓉子がトイレに入った。
飲み代を払う私に恵さんが不思議な言葉を呟いた。
「蓉子に深入りしちゃダメだぜ」
恵さんが伏し目がちにぽつんと言った。
“どういう事だ?”
蓉子の親友の恵さんの言葉とは想えなかった。
“おれ達、愛し合ってるんだ”
言い掛けた時、蓉子が出て来て、そのままになった。
部屋に戻ると、あの「ピエロ」が私を出迎えた。
視詰めていると陰鬱な気分になる。
視線を離すと、蓉子が抱き付いて来た。
忙しなく互いを全裸にし合い、前戯も何もなく、挿入する。
蓉子の膣粘膜は既に滴り溢れた愛液に塗れて妖しく蕩け切って私の勃起を咥え込んだ。
その日は、先日より、二人とも少しは余裕があった。
しかし、やはり激しい抽送もせず、挿入したままでキスを繰り返しているだけで、やはり同時に絶頂を極めていた。
蓉子は私に部屋の鍵をくれたが、必要はなかった。
“R”を閉めて“S”に行くと、毎晩蓉子が待っていたからだ。
私と蓉子は、部屋で、どちらかがトイレに立つ時以外は常に繋がっていた。
風呂も一緒に入り、互いに躰を洗い合いながら愛撫し合い、湯船に一緒に浸かって繋がった。
私は蓉子の裸身を抱いている間、常に勃起していた。
蓉子も、私に抱かれて常に愛液を溢れさせていた。
私は、おばちゃんやおねえさんに仕込まれたテクニックを使うのは厭だったし、必要もなかった。
蓉子もまた、エクスタシーの絶頂を極める時に、「イク」と表現するからには、そして24歳という年齢からして、当然それなりの経験があったであろうが、ただ単純に私との結合だけを求め、そして、それだけで満たされているようであった。
最初は部屋に入ると鼻に付く油絵の具の匂いとピエロの絵が、私の知らない蓉子がいる事を意識させたが、1週間も経つとそれも薄れていた。
私はおばちゃんとおねえさんに「もう交際わない」と宣言した。
二人は口を揃えたように、「恋人が出来たのね?」、「別れたら、またね」と言って笑った。
出遭って一月も経ったある日の午後、目覚めると、蓉子が出掛ける支度をしていた。
「絵の関係の人と会うの。1時間で帰るからあなたはここにいて」
私が目覚めたのに気付くと、蓉子が慌てて私にキスをして出掛けようとした。
何か厭な雰囲気だった。
絵の関係者?
私が“R”で仕事をしている時以外何時も一緒だった。
“S”が恵さんの都合で休みだった時、私と一緒に“R”に来て、閉店までカウンターにいてくれた。
1時間で帰るなら一緒に出掛け、私が何処かで待ってたら良いはずだ。
“おかしい”
直感的に秘密めいた蓉子の素振りが気になった私は急いで洋服を着て、部屋を出て蓉子の跡を追った。
祐天寺の駅の改札口を入る蓉子に追い付いた。
何時も頼りなさそうに俯いて歩く蓉子だったが、その日の蓉子の態度はそれだけではない気がした。
部屋で湧き起こった胸騒ぎが次第に激しくなる。
目黒駅を出て少し歩く。
眼の前に大きなホテルが観えて来た。
“ホテル?!まさか”
胸騒ぎが一層激しくなる。
ホテルのエントランスへの階段を上がる蓉子の先に一人の中年男性が立っていた。
何処かの大きな会社のエライさんというタイプだ。
ゲイバーで半年も働くと、洋服や風格で男性の値踏みが出来るようになる。
蓉子が前に立つと、男が蓉子の貌を視て、驚いた表情で蓉子の頬を撫でようとした。
蓉子がその手を払い退けた。
男は苦笑いを浮かべ、内ポケットから茶色の封筒を取り出し、蓉子に差し出した。
“お金だ!”
常連客の言葉を想い出した。
芸術家を志す若者は、働く時間も惜しんで勉強する。
芸術を趣味とする金持ちが、裕福でない若者の生活費を出してやり、将来有名になったら返して貰う、というのは実は少数で、男でも、可愛い女の子の場合は特に、ほとんどがセックスを代償に求められる。
蓉子が封筒を男に突き返して何か言うと、踵を返した。
私は激しい怒りに駆られて我を忘れ、蓉子の前に立ちはだかった。
気付いた蓉子が驚き、慌てて後ろを振り返った。
不幸にも男は立ち去ってはおらず、私たちを視下ろして勝ち誇ったように笑っていた。
私は蓉子の脚元に鍵を叩きつけて走り去っていた。
“R”で仕事をした記憶もなかった。
ただ飲み続けた。
“R”を閉めて“S”に行く。
恵さん独りだった。
蓉子に来ていて欲しかった。
“あの男とは何の関係もない”と笑って欲しかった。
“あなたの誤解よ”と笑って欲しかった。
蓉子が“S”に来ていないという事が、私の想像が当たっている事の証明だった。
「判っちゃったみたいだな」
恵さんが独り言のように呟き、私のボトルとグラスを出した。
「蓉子、泣いてたぜ。お前を傷つけたって。今日でおしまいにするって言ってたぜ」
恵さんの言葉が遠くから聴こえていた。
「深入りするなって言っただろ?私ゃ、蓉子は勿論親友で好きだけど、お前が好きだから言ったんだ。お前、遊んでるようで純情そうだったからな」
愛らしい蓉子の官能に歪む美貌、私にしがみついて痙攣するしなやかな裸身が脳裏を埋めた。
しかし、それにあの勝ち誇った男の顔が重なった。
「絵の世界って結構汚くてな。蓉子、元々良い処のお嬢さんだったんだ。3年の時、経営してた画廊が詐欺に遭って倒産した父親が狂って家に火を付けて自殺したんだ。母親も一緒に死んじまった。なあ、蓉子はお前と遭って本当に変わったんだぜ。お前とやり直したいって、嬉しそうに話してた。絵を辞めて働くって言ってたぜ」
「蓉子が?絵を止めて働く?バカ言え!」
私は握り拳をカウンターに叩きつけた。
大学にも通わないでゲイバーでバイトして、将来の事も何も考えない私の為に?
24歳だった。
化粧を落とすと、驚くほど上品で清楚な美人だった。
「イク」という言葉も知っていたし、事実エクスタシーの絶頂を何度も極めた。
どんな事情があれ、過去に何人の男と交際い、セックスしたか。
19歳のガキの私でさえ、行き当たりばったりでセックスし、おばちゃんとおねえさんからお金を貰っていた。
蓉子を責められる立場ではない。
そんな事は百も承知だ。
しかし。
「なあ、お前、許してやれないのか?」
「判んねえ、もう許してるかな?いや、やっぱ、判んねえ」
子どものように無邪気で愛らしい蓉子の美貌と華奢でしなやかな裸身が重なって、意識の底に沈んで行った。
「朝だぜ」
顔を上げると、看板を仕舞う恵さんが開いたドアからスズメの鳴き声と朝の陽光が入って来た。
私の背後から、恵さんが抱き着いた。
「私の部屋に来るか?慰めてやるよ」
恵さんの豊かな乳房が私の背中を圧した。
「いや、今日は止めとくよ。また何時か、な」
「私ゃ、何時でも良いからな?」
恵さんが初めて私に対して性的な言動を現わしたが、その時はそれを意識出来なかった。
私は代金を払ってドアを開いた。
朝日が眼を射た。
私は振り返って恵さんに言った。
「蓉子に、絵を辞めるなって」
その後の言葉は出ないまま、ドアを閉めた。
その夜からも変わらず、“S”には通った。
蓉子はもう来る事はなかったし、恵さんも蓉子の話をする事はなかった。
今現在でも、一緒に過ごした日々を忘れる事のない蓉子。
時折、想い出したようにインターネットで検索してみる。
“油絵女流画家”“父親”“ピエロの絵”“〇〇蓉子”。
やはり、ヒットした事はない。
何時か、絵を辞めたのであれば、幸せな家庭を営んでいて欲しい。
(続く)
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