生保セールスレディの秘密-2話
作家名:バロン椿
文字数:約2610文字(第2話)
公開日:2020年11月14日
管理番号:k063
生保レディというより「保険のおばちゃん」と言った方がなじみがあるかも知ません。そんな彼女たちも「はい、今期は2倍が目標ですよ」と高いノルマを課せられ、暑い日も寒い日も、雨の日も雪の日も、「こんにちは!」と明るい笑顔でセールスに励んでらっしゃいますが、それだけでノルマは達成できるのでしょうか? あの手、この手の創意工夫で攻めるが、時には禁じ手の「枕営業」も……
「あら、やっぱり……」と思うが、それを顔に出せない。
課長も「茜商事さんなの。テキサス生命がディスカウント提案してきたらしいの。このままだと、来期の団体生命の契約が更新されない、大ピンチなのよ。朱美さんも訪問したことがある先だから、助けて欲しいの」と、周囲にはセールス案件であることを強調している。
思い起こしてみれば、前回の契約更新時にも同じ話があった。
だけど、その時は財務部長の吉田さんだった。
しかし、今回はそれでは巻き替えしが難しく、兼子常務へのアタックが必要になったということか。
「またですか?」と目で訴えるが「お願いよ」と目で返してくる。
仕方ない。汚れ役を引き受けるか。
「財務担当は確か、兼子、兼子常務さんですね。私、よく存じ上げていますから、明日の午後にお邪魔して、当社のご提案を詳しくお話ししてきます」
「そうしてくれる。やっぱり役員さんに直接お話ししないと無理なのね。本当に助かるわ。じゃあ、これ、新しい提案書だから、お願い」
田島朱美は前田課長から封筒を受け取ったが、それには提案書よりも大事な物が入っている。
現金が5万円、口止め料兼ご苦労さん賃といったところだ。
旅館きよむら
旅館きよむらは、こんもり繁った木々に囲まれ、都心にあるとは思えないほどの静けさで、小鳥のさえずりさえ聞こえる料理旅館だ。
午後6時50分。
約束の時間まで10分も早いが、その車寄せに黒塗りの高級車が静かに入ってきた。
「いらっしゃいませ」
「どうも」
車から降りた兼子常務は出迎えた女将に軽く手を上げると、仲居に案内されて離れに向かった。
(準備はできたわ……)
田島朱美は布団を敷いた奥の座敷の襖を閉めると、もう一度、部屋の中を見回した。
「枕営業」とはいえ、大企業の常務を接待するのだから、必要な備えを忘れてはいけない。
第一に服装。
誰に目撃されようと、「グローバル生命東京北支社主任 田島朱美さんと会っていた」と言ってもらえるように、相応しい服でなければいけない。
だから、今夜はレース素材を用いた白いブラウスに、黒無地のスカート、それにベージュのジャケットを羽織っている。
次に提案書だ。
きっと、明日の朝、「常務、グローバル生命からの新しい提案は如何でしたか?」と、吉田財務部長をはじめ、うるさい部下たちが寄ってくる。
その時、「まあ、長年の付き合いだから、このあたりで手打ちをしてきた」と兼子常務に言わせなくてはいけない。
だが、座卓に並べた「茜商事様」と記した提案書は表紙を変えて、価格はちょっぴり安くしただけ。
ライバルのテキサス生命が出したプライスにはとても敵わない。
つまるところ、事の成否は田島朱美の体を賭けたセールスに懸っている。
そこに、「こちらでございます」との仲居の声に続き、「お世話になります」と言いながらも小難しい顔をした兼子常務が現れた。
「兼子常務、今日はお忙しい中、どうもありがとうございます」
田島朱美は接待の作法に則り、畳に手をついて常務を迎えたが、彼は「おや、田島さんだけかな?」と仲居の手前、惚ける。
すると朱美も間を置かず、
「本来であれば支社長、課長がお迎えするところ、私のような者だけで本当に申し訳ございません」
と言えば、常務は、
「まあ、お宅との付き合いは長いから、今日のところはあなたから話を聞きますか」
と返す。
接待を仕掛けた方も、受けた方も心得ている。
料理が並べられ、酒の用意が整う間に、常務は座椅子に腰を下ろし、「ところでどんな話ですか?」と、おしぼりで手を拭うが、表情はまだ硬い。
しかし、「それではごゆっくり」と仲居が下がると、朱美は「常務さん、お一つどうぞ」と酒を進める。
すると、「あ、いや……そうですか」と顔が崩れ、満たされた盃をグイッと飲み干せば、甘いコロンの香りも相まって、「田島さんもどうぞ」と返してくる。
やはり、道徳心という衣を脱ぐにはアルコールが必要だ。
1時間後、襖の向こうの布団の上では、全裸で抱き合う二人の姿があった。
「田島さん……」と抱き寄せる常務に、朱美は「じょ、常務さん、私、私……」と言いながらも、すーと唇を合せる。
41歳、容色は衰えたといっても、乳房は張りがあって、朱美の体は捨てたものではない。
体を弄ると、「はぁはぁぁっ」と大きく息を吐いて、「ああっ」と悩ましい声を漏らす。
肌は桜色に染まってきた。
「いいかい?」
兼子常務は下腹部に狙いを移すが、田島朱美は「いや、恥かしい……」と僅かながら抗い、脚を閉じようとする。
どこまでが演技で、どこからが本気か分からないが、こうしたことは風俗嬢相手では味わえない、素人ならではの醍醐味だ。
メラメラと欲情に火がついた常務は50歳代半ばなのに、ペニスは痛い程に硬くなってきた。
もう止めてはいけない。
「いや、いや、そんなこと……」
朱美はそう言うものの、脚を除々に開き、局部を晒すと、常務はそこに顔を埋めてペロペロ……
「あん……」
田島朱美の口から甘い吐息が漏れ、割れ目は濡れてくるが、クンニはここからが本番だ。
舌をつぼめ、割れ目に挿し込み、中から掻き回すと、ピチャ、ピチャといやらしい音が響き、溢れ出した愛液は会陰を伝わってシーツに流れ落ち、大きな染みを作っていく。
朱美は「あ、あ、いや、あっ、あっ、あ、あああ……」と喘ぎ、身を捩るが、自分の指を噛んで懸命に堪える。
しかし、常務がクリトリスに吸い付くと、もう限界だ。
朱美は指を噛むのを止め、「あ、あ、い、いや、いや、あっ、あっ、あ、あああ、逝っちゃう、逝っちゃう、ダメ、ダメ、もうダメ……」と大きな声を上げながら、常務の頭を掴んで掻き毟った。
頃合いだ。
体を起した常務は枕元のコンドームを掴むと、袋を破って亀頭に被せると、朱美の太腿を抱えて体を倒していった。
「ああっ、あっ、あっ、あっ、うっ、うっ、うっ、ああっ、あああっ……」
離れに響く悩ましい声は他のお客に聞こえたかも知れない。
それほど大きな喘ぎ声だった。
翌朝、「はい、グローバル生命東京北支社です」と電話を取った前田みゆき課長の顔はみるみる笑顔に変わっていった。
「そうですか、兼子常務が……ええ、ええ、田島主任には私の方から……どうもありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
電話の中身は聞かなくても分かる。
朱美はまだ出勤していないが、後で褒めてあげればいい。
「茜商事吉田財務部長、契約更新了承!」とメモを朱美の机に置くと、足取り軽く、支社長室に向かった。
(続く)
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