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記憶の中の女達〜(5)オードトワレの薫りの想い出-第9話



作家名:淫夢
文字数:約3100文字(第9話)
公開日:2020年11月12日
管理番号:k057


この作品は、過去、実際にセックスした数百人の女性の中の、記憶に残っている数十人の女性との出遭いとセックスと別れを描写。



挿絵の官能小説画像

2年前の夏の事だ。

私は親友と飲みに行く約束をして、待ち合わせ場所に向かって大阪の心斎橋筋を歩いていた。

夕刻の心斎橋筋は人でごった返し、昼間の暑さの名残も相まって噎せ返るような熱気だった。

ふと正面から、和服姿の上品な中年女性が歩いて来た。

“この薫り?!”

すれ違いざまに私の鼻孔を刺激したオードトワレの上品な薫り。

遠い過去の、記憶の奥底に埋もれていた懐かしい女性の笑顔と裸身が脳裏に蘇る。

“まさか?!”

私は我を忘れて逆戻りし、女性を追い越して少し歩き、また振り返って歩き出した。

再び正面から歩いて来る女性を観察する。

美人だった。

しかし記憶の中の彼女とは違っていた。

もう一度、すれ違いざまに、私は女性を包んでいるオードトワレの薫りを吸い込んだ。

M化粧品のオードトワレ“L”。

しかし、冷静に考えると、彼女は私より八歳も年上だったし、もっと小柄で華奢だった。

私はがっかりもしたが、懐かしい想い出にしばらく浸っていた。


ある夏の夜、何故そんな処に行ったのか忘れたが、新宿御苑の近くの、知る人ぞ知る飲み屋街であった緑苑街の、とあるスナックに何気なく入った。

ドアを開いたとたん、甘い薫りが私を包んだ。

“香水を飾ってるのか?似合わねえな”

場所柄も店内の雰囲気も寂れた感じで、香水を振りまくような洒落た処ではなかった。

「いらっしゃい」

カウンターに座っていた、ストレートのセミロングヘアの、黒のタイトなワンピースを装った小柄な女性が、私を見て微笑み、カウンターの中に入った。

二十代後半か三十代前半、飛び切りの美人ではないが、年の割にあどけない。

おばちゃん、おねえさんと違って、細身でもあり、充分魅力的だった。

女性のジャズ ヴォーカルが鳴っていて、他に客はいなかった。

「初めてね?何飲む?」

カウンター越しに彼女が微笑んだまま小首を傾げた。

彼女の正面に掛けると、香水の薫りが少し濃くなった。

店の中に振りまいているのではなく、彼女が付けているのか。

おばちゃんもおねえさんも香水を付けていたが、もっとどぎつい薫りで、彼女のは爽やかで甘酸っぱくて、好ましかった。

「ホワイト。ボトルで。水も氷も要らない」


ぼったくりの処もあったが、普通のスナックはサントリーのホワイトが2000〜3000円くらいだったし、棚にネームを書いたボトルが沢山並んでいるという事は、この店が廉価でボトルをキープし易い事を物語っていた。


私は彼女の笑顔の愛らしさに照れてぶっきらぼうに言った。

「へえ、強いんだ?」

 彼女は少し驚いた表情でボトルとマジックとグラスを私の前に置いた。

「強いか弱いか判んねえよ。水で薄めるのが厭なだけだ」

私はマジックで名前を書いて、ウイスキーをグラスに半分注いで一気に飲み、もう一度注いだ。

「あんたも飲むだろ?グラスよこせよ」

「うん。飲む」

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彼女は今まで独りで飲んでいたのであろう、底に溶けかかった氷の残ったグラスを私の前に置いた。

「やっぱ、強そう。あんまり酔ってないみたいだけど、もうどっかで飲んで来たんでしょう?」

ウイスキーを半分注いでやると彼女が自分で氷を入れ、水を足した。

「バイトしてる処でな。仕事中でも店の酒飲ませてくれるからな」

「バイトしてるって?どんな処?」

グラスを合わせてひと飲みする。

「二丁目の“R”ってゲイバーだよ」

私はホモセクシュアルではないという自負があったので、いつも伏せたりしなかった。

「へえ、そう?君、話し方が男っぽいけどホモじゃないの?でも雰囲気は女性的ね?」

ゲイバーで半年も接客しているとホモっぽく?女性的?になるのだろうか?

後に、セックスした何人かの女性に、私が余り男を感じさせないから、セックスに応じ易いと言われた。

「おれはホモじゃねえよ」

「ここのオーナー、ホモなのよ。ここを私に任せて自分は男目当てでゲイバーやってるのよ。○○ってお店、知ってる?」

ここのオーナーがホモなら、彼女はオーナーの女じゃない訳だ。

いや、両刀使いの男もいる。

グラスを空にすると、彼女も飲み干す。

二つのグラスにウィスキーを注ぐ。

私がストレートを飲むペースと彼女が水割りを呑むペースがほぼ同じだった。

「知ってる。男連れて飲みに来た事あるよ。二、三回くらいかな?何時も違う男連れてたな、確か。あのスケベそうなおっさんがここのオーナーか?」

彼女がカウンターから出て、私の隣に座る。

会話の度に私の方に小首を傾げて笑顔を向け、言葉を選ぶ際には、良く宙に視線を遣る。

“良い女だな。抱いてみたい”

そんな欲望が生まれる。

何度か通って契機が出来たら。

そのオーナーや私の店のオーナーの悪口からホモセクシュアルの話で盛り上がり、ドアの隙間から朝日が挿し込んで来る頃にはボトルをもう一本入れていた。

結局、私以外に客は来なかった。

彼女もかなり酒に強いようで、まだ話し方もしっかりしていた。

「朝ご飯食べさせてあげるから看板仕舞って」

「良いよ」

会計を済ませ、戸締まりをした彼女と新宿駅に向かう。

彼女が後ろから腕を絡めて来た。

“へー、もしかしたら、もしかしないかな?”

小振りだが、張りのある乳房が私の腕を圧し、香水の薫りが私を包んだ。

おばちゃんもおねえさんも巨乳だったし、敦子も智子も豊かな乳房だったから、小振りな乳房の感触が新鮮だった。

「香水付けてんのか?」

「うん。好きなの。貴方、嫌い?」

「嫌いじゃない」

「良かった」

切符売り場で立ち止まって、彼女がバッグから財布を取り出した。

「朝メシ奢ってくれるんじゃなかったのか?」

彼女は応えずに、切符を2枚買って1枚を私によこし、再び私の腕を抱いて、今度は私を導くように歩き出した。

「部屋に帰ったら、朝ご飯作ってあげるから」

“部屋に?”

胸がときめき始めた。

彼女も私の腕に、自分の乳房がずっと触れているのを判っているはずだった。


小田急線の豪徳寺だったか、彼女の部屋に着くまでずっと腕で彼女の乳房の感触を愉しんでいた私は、ドアを閉めた彼女を玄関先の板の間に圧し倒していた。

「ご飯は?」

キスを貪る唇が私の唾液に塗れて震えた。

「お前が良い」

「年下のくせに、お前なんて呼ばないの。おねえさんって言いなさい」

私は構わず洋服の上から乳房を揉み立てた。

「良いだろ?お前で」

「ねえ、ここじゃ厭。ベッドで」

彼女が私を促した。

抱き合ったまま、奥の部屋に入り、ベッドに倒れ込む。

男が一緒に生活している雰囲気はなかった。

彼女が私を先に全裸にする。

私はそれが恥ずかしくなって、すぐにキスを繰り返しながら彼女を横抱きにして洋服を脱がせた。

ブラジャーのホックを外した、その瞬間、私の眼を釘付けにしたのは、弾けるように揺れる美しい乳房でも愛らしく勃起した乳首でもなかった。

「お前、腋毛っ!」

「やん、恥ずかしい」

乳房の裾野、腋からはみ出した黒い毛が覗いていたのだ。

母親や祖母の腋毛は生活の中で当然のように視馴れていた。

しかし当時は既に、若い女性は腋毛を剃るのが当たり前になっていたのだ。

おばちゃんもおねえさんも智子も、身なりに無頓着な敦子でさえ恥毛の処理はしていなかったが、腋毛は剃っていた。

性的な対象である女性の腋毛を眼にしたとたん、激しい性欲が込み上げた。

セクシーではあるが、愛らしく上品そうな彼女が、淫猥な腋毛を生やしている。

私が興奮したように、男を興奮させるために、腋毛を生やしているのだろうか?

恐らくセックス相手が、彼女に生やさせているのだ。

初めてセックスする女性の腋毛を視た興奮と、彼女に腋毛を生やさせてセックスしている男に対する嫉妬心が湧き起こる。

彼女の腕を挙げると、オードトワレの薫りが一層濃くなった。

腋に唇を押し当て吸い立て、舐め、腋毛をしゃぶり立てる。



(続く)





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