シェアワイフ-第8話
作家名:雄馬
文字数:約3020文字(第8話)
公開日:2020年9月25日
管理番号:k054
●登場人物
森晴彦(もり はるひこ)二十七歳
山根温行(やまね はるゆき)二十七歳
森明美(もり あけみ)二十七歳
山根裕子(やまね ゆうこ)二十五歳
暗い。何んも見えん。
ぶぎぃ!ハ、鼻が・・・・・。何故ここに壁が。そうだ、反転タイプだった。せっかく下見をしておいたのに。もっとも下見してなかったら見当もつけられないところだ。部屋はこっちか。
「裕子ちゃ・・・・・・。裕子。お〜い」
よく眠っているようだな。しかしホントに真っ暗だ。そういえば彼女は見かけによらず片付けられない女だそうだから、思わぬ所でプラダが口を開けていたりするかもしれない。這って行こう。布団はどこだ。自分の手も見えん。
あった。おじゃましますよ。なんだ?こっちは毛布なしか。それにシーツも硬いな。裕子ちゃん寒くないかい。あ、これは座布団だ。こっちか。だけど頭はどっちだ。向こうの部屋とは逆なのかな。裕子ちゃん入るよ。あ、いない。これは山根のだ。昔の人はいつもこんな事やってたのかな。
ここだな。御免くさい。オオッ、すぐに脚が。なんだ?裸で寝てるのか。ああ、浴衣がはだけたんだ。しかし、なんてスベスベして気持ちがいい脚なんだ。これを山根は毎晩・・・・・・。ゆるせん。
それにしても、これはひどい。あんまりだ。目の前にいるのに全然見えん。輪郭さえ分からん。これなら誰が相手でも同じではないか。いやいや、そんな事はない。これほど手触りの良い滑らかな肌はそうそう無い。もう少しくっつこう。もうちょっと、もうちょっと。ああ、息が近い。かわいい寝息だなあ。少し荒いようだが、酒のせいかな。時々「ぷぅ」っていうなあ。
「ううん」
わっ!もう一本来た。スベスベの脚が、もう一本来た。おお、体ごと来た。ぴったりくっついて来た。凄いぞ、これは。幸せだ。
そういえば前にも一度、酔った裕子ちゃんに抱きつかれたことがあったんだ。俺も酔った勢いで、いや、俺は酔ってなかったんだ。酔ってないのに泥酔を装ってガッチリ受け止めたんだ。あの時は嬉しかったなぁ。それは良かったが、周りに会社の連中が大勢いたのに、ズボンの前を尖らせてしまったのだ。それを山根に見咎められて冷や汗をかいたんだ。ちくしょう。そんな俺の気持ちを知りながら、あいつは裕子ちゃんを!
だが、そのお陰で俺と明美の今があるんだ。それに裕子ちゃんは山根のような強引な男でちょうど良かったのかもしれない。山根にしても、おっとりした裕子ちゃんで幸せだ。明美を狙っていたこともあったようだが、二人は性格が似ているから友達としてはいいかもしれないが、夫婦となると難しそうだ。結婚すれば、独身時代には夢にも見なかった遠い未来を見越して、死活に関わる様々な決断を下していかなければならない。二人の問題に留まらず、子供の一生を左右する選択を迫られることもある。あの二人は一徹だから、事ある毎にちゃぶ台が引っ繰り返って、家庭が治まらないに違いない。
その点、俺と明美の相性はぴったりだ。あいつは気が強くて口も達者だから、いつも尻に敷かれ気味で癪に障ることもあるが、そうでもなければこんなに早くマンションを買うことなんか出来なかっただろう。子供が生まれる前から早手回しに教育資金を積み立てるなんて芸当は、毎月飲み代で足を出してピイピイしていた俺なんかの到底企て及ばぬところだ。俺には明美がちょうどよかった。もっとも裕子ちゃんとの相性も悪くないと思うが……。
だが俺は決して後悔はしていないぞ。俺は明美を愛しているのだ。山根は俺の鬱屈した魂を解放する為とか何とかほざいていたが、俺の魂は鬱屈なんぞしていない。今日は明美への愛を確認するために、というよりは深めるために、奴の計画に乗ったまでだ。裕子ちゃんとは今まで何もなかったけど、逆にそのために悔いというか未練というかモヤモヤが残っているんだ。だから一度抱いてしまえばキッパリ思い切れる。ああ、やっぱり明美で良かったんだと納得できる。もしまかりまちがって魂が裕子ちゃんを欲するなら、その時はプランBだ。
「ちゅっ」
うひょ〜、チュウしてきた。首筋だが確かにチュウだ。チュウは禁止なのに。でも寝ぼけてるから大丈夫だ。しかし酔っていても目を覚ませばバレるに決まってる。寝かしとかなきゃどうしようもない。フェラチオなんかとても無理だ。これは『源氏物語』というより『眠れる美女』の世界だな。ただ目を覚ます恐れがあるところが江口老人より不自由だ。その代わりセックスは禁止されていない。出来るか出来ないかが問題だが・・・・・・。でもいい。添い寝だけでも幸せだ。その上こんなに密着して、脚まで乗せて来たぞ。そうだ、俺も浴衣をはだけさそう。
しかし山根はどうするつもりだろう。張り切っていたけど、パイズリなんか出来る訳がない。でも奴のことだから、後先考えずに強行するかもしれん。すると流石にバレて《松葉》の間は修羅場と化すだろう。そして阿修羅が柳眉を逆立て、この部屋に踏み込んで来て・・・・・・。
もしそうなったらどうなる。ただの浮気ならまだしも、男同士談合してこっそりワイフをシェアするなんて人の道を外れた裏切りは、謝ったって許してもらえるはずがない。プランCも考えておかなければならないだろう。しかしそれは既にプランではない。単なる不可避の不可逆的結末だ。怖いことだ。
おお、脚が!すべすべの脚が巻き付いてきた。明美のパイズリも霞む気持ち良さ。そうだ、後悔先に立たずと言うではないか。行動する前に結果を悔やむのは順序が逆だ。後悔は後ですべし。チュウしよう。バレなきゃいいんだ。唇はどこかな。
「ちゅっ」
ん?毛がある。目だな、これは。下を向いてるのか。もうちょっと下か。
「ちゅっ」
鼻だ。
「うう〜ん」
ヒッ!ねぇんねーん、ころぉりぃよ、おこぉおろ・・・・・・。
大丈夫かな。慌てなくても夜は長い、ゆっくりやろう。何時だ――。何だ、まだ十五分しか経っていない。おお!時計のライトがあった。これで見られるぞ。
どうだ――ちょっと見えるぞ。白い肌に煌めく産毛。しかし面積が小さすぎる。もっと光を!まあいい。目には頼らん。手をつなごう。裕子ちゃん、随分汗をかいてるな。ああ俺か。お、握り返してきた。手も柔らかいな。赤ちゃんの手みたいだ。凄いぞ、これだけで股間が痛いくらいだ。もっとこっちへおいで。おや?何んか冷たい。ははぁン、裕子ちゃんがヨダレを垂らしたんだな。赤ん坊だなぁ。吸い取ってあげよう。
「ちゅる」
口も吸ってやる。
「ちゅうう」
やった!ついに裕子ちゃんの唇を捕らえた。見たか、山根。しかし向こうも何をやっているか分かったもんじゃない。後で地団太踏んで悔しがらなくていいように、やれるだけの事をやっておこう。もう一度。わ!腕が来た。首に巻きついてきた。物凄い密着度だ。それにいい匂いだ。深呼吸。スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・。
んがっ!苦しい。吐く方を忘れた。
おお、体重をあずけて来た。柔らかい。どこがどうなっているのやら分からないが、何から何まで柔らかい。おや?太腿に何かあたっている。スベスベでない物がくっついてきた。帯かな・・・・・・? ひぇぇ、パンツだ。中身の詰まった生下着が密着している。レースの粗い感触が電流のように全身を駆け巡る。
山根の言った通りだ。視覚に頼れないから、他の感覚が研ぎ澄まされていく。チンコの感覚も研ぎ澄まされてきた。トランクス越しでも刺激がビリビリ伝わって来る。だが、まだまだこんなものではないだろう。今から更に研ぎ澄まされていくんだ。しかしこれ以上敏感になると、挿入前に爆発してしまいそうだ。
「う〜ん」
(続く)
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