シェアワイフ-第3話
作家名:雄馬
文字数:約3100文字(第3話)
公開日:2020年9月7日
管理番号:k054
●登場人物
森晴彦(もり はるひこ)二十七歳
山根温行(やまね はるゆき)二十七歳
森明美(もり あけみ)二十七歳
山根裕子(やまね ゆうこ)二十五歳
「あ、スペースファイターがある」
「燃えるような紅葉に囲まれて、テレビゲームに吸い寄せられるな」
「俺これ好きだったんだよ。懐かしいなぁ。裕子ちゃん一緒にやる?」
「うん」
「なんだ裕子まで。それじゃあ明美ちゃん、小児どもはほっといて、我々は向こうで足湯にでもつかりながら大人の会話を楽しもうじゃないか」
「これからお風呂に入るのに足湯はいい」
「それなら温泉卵でも食べようか」
「旅館で御馳走が待ってるのに、今ゆで卵なんか食べない」
「う〜む、全然噛み合わん。今夜は森だけ良い思いをして、俺は寂しく一人寝する破目になりそうな気がしてきた」
「何ブツブツ言ってるの?」
「じゃあスペースファイターでもやる?」
「ひゃあ、檜じゃないか。いいねぇ木は。やっぱり天然の素材は落ちつく。この優しい手触り。疲れた心と体を癒してくれるエレガントな香り。なぁ、オイ」
「象がどうしたって?何をグダグダ下らない事を言ってるんだ。会社辞めてフルチンのレポーターにでもなるつもりか。そんな事より今夜の計画だ。どうするんだ」
「どうするって別に。オマケなんだろ、そんなに気合入れるなよ」
「二組の夫婦の未来のかかった、乾坤一擲の大事なオマケだ。失敗は許されない。俺はどうすればいい」
「どうもしなくていいんじゃないか。明美はセックスが好き過ぎて、しないと寝られないし、飲むと益々したくなるそうだから、横になってれば勝手に乗ってくるよ。立ってなければ銜えてくるし、なんなら乳で挟んでくるかもしれない。下手をすると朝まで離してくれなくて、頬かむりして逃げ帰ることになるかもしれない」
「本当か!」
「嘘だよ」
「どこが嘘だ。しないと寝られないってのは本当か」
「嘘に決まってるだろう」
「乳で挟んでくるのも嘘か」
「嘘だ」
「すると何か?お前はあんな巨乳を妻に娶って、未だにパイズリひとつさせず、ただ揉むだけで満足しているのか。何て愚図だ。猫に巨乳とはこのことだ」
「誰が猫だ。俺があの乳を吸ったり揉んだりするだけで三年も手を拱いている気の利かない聖人だと思うのか。パイズリなんぞ初めてホテルに連れ込んだ日に、さっそくチャレンジして明美を仰天させたほどだ。
普通のが当たり前になってからも、それで満足することなく、思いつく限りのポジションで試してみた。今も更なる高みを目指して研究中だ。嘘というのは明美の方から進んで挟みはしないという意味だ」
「やっぱりやっているのか。森のことだから、と言うより明美ちゃんのことだから、そういうことは、あるいは無いのかと思ったんだが」
「むろん簡単ではなかった」
「で、どういう風にやるんだ」
「どういう風とは?」
「二人のポジションだ。森は立つのか寝るのか」
「寝ては出来ない。やって出来ないことはないけど無理がある。乳に筋肉が有る訳じゃなし、挟もうと思ったら片手をついて、もう片方の手で――」
「いや、分かった。森は立つんだな」
「座ることもあるけど、とにかく寝ない。それで明美がその前に跪いて、両側から乳を押さえて、まぁ、こういった具合に。俺が乳を摑んで自分で腰を動かすこともあるな。こんな感じで。ああ、でも明美が仰向けで、俺が馬乗りになってやることもある。ただこれでいってしまうと明美がすごく怒る。そしてしばらく普通のもお預けになってしまう」
「顔射か」
「顔射は別にいいけど―」
「顔射はいいのか!」
「顔射はいいだろう。夫婦なんだし。それより枕やシーツが汚れるのを嫌う」
「顔射いいな」
「そうか?俺には分からん。顔にかけて何が面白いんだ」
「そう言ってやってるじゃないか」
「俺のは不可抗力だ」
「それでローションとかは使わないのか」
「いや、そんな風俗みたいな事は嫌がる。もっとも風呂でやる時はソープみたいな感じになるけど」
「風呂でもやるのか。それこそ風俗みたいじゃないか」
「どこでだってやる。風呂だってベランダだって」
「ベランダだと!あのマンションのか」
「そうだ」
「いくら十・・・・・・何階だ。四階か?山奥のリゾートマンションじゃあるまいし。人に見られないのか」
「そこがミソだ。実際見られたらいやだけど、見られるかもってのがいいんだ。肉眼で覗かれるような建物は近くにないけど、『あの明かりの消えた窓から、中学生が天体望遠鏡で覗いてるぞ』とか言って脅して二人で興奮するのだ」
「ちくしょう、そんな破廉恥なベランダに何食わぬ顔で俺を誘って何度も麦酒を飲ませたのか。お前は眺望が自慢であるかのごとく装いながら、腹に淫靡な秘密を隠し、優越感を肴に、勝利の美酒に酔い痴れていたんだな。この野郎!」
「何を言っているんだ」
「もしかして多魔川の花火をバックにやったりもしたのか」
「パイズリをか?やったかもしれないけど覚えてない。でもセックスはたしかにやった」
「それはやっぱりバックでか!」
「いろいろだ。ビデオもある」
「撮ったのか!見たい。見せろ」
「見せん」
「そんな淫らな遊戯に憂き身を窶していたなんて聞いてないぞ」
「そんな事いちいち人に言わない」
「何て事だ。お互い腹を割って何でも語り合える刎頸の友だと思っていたのに。華燭に目が眩んで友情を見失ったか」
「俺は前からそんな話はしなかったぞ。山根がムリヤリ俺に卑猥な武勇伝を聞かせてただけだろう」
「畜生。俺もマンション買う」
「そんな動機で買うな」
「お前だってそのために買ったんだろう」
「ちがうよ」
「どうせ何時かは買うんだ。理由は何だっていい」
「まあ、裕子ちゃんのためにも買うのはいいけど、ちゃんと意見を聞けよ。と言うより裕子ちゃんに決めさせた方がいいな。女は家の事だけじゃなくて、子供の学校の事とか、近隣住人がどんな人間かとか、色々考えるけど、男は通勤の事ぐらいしか考えないからな」
「それは森がそうだってだけだろう」
「ともかく、ちゃんと見て買え」
「大丈夫だ。ちゃんと環境も考慮する。近所に天体望遠鏡を持ってる中学生がいるかとか」
「そんな探し方あるか」
「まあ裕子には気の毒だが当分買えそうにない。で、他に何か面白い事はやってないのか」
「面白い事?そうだな、たまにやるスペシャルがある」
「スペシャル!よし、話せ」
「いやだ」
「なぜ!」
「スペシャルだから」
「くそっ。分かった。俺のを教えてやるから、そっちも教えろ」
「山根にもスペシャルがあるのか。どんなんだ」
「俺が話したら、森も話すか」
「うん、話そう」
「じゃあ教えてやる。名は、頭文字を取ってKTT」
「名前をつけてるのか。スペシャルが幾つもあるのか?」
「いや、ない。ただ、そのままズバリだと裕子が拒否反応おこすからな」
「裕子ちゃんが嫌がる事を名前で誤魔化して無理強いしてるのか。何て奴だ。だけど、始める前に、『今夜はKTT』とか言うのか」
「あらたまって宣言はしないが、裕子がその気にならなければ難しいから、仄めかして様子を窺う必要があるのだ。勝手に初めて放置されると非常に惨めなことになるからな」
「なんだか聞くのが恐ろしいようだ」
「じゃあ、やめとくか」
「いや、聞きたい」
「じゃあ、話そう。まずKはケツだ。ケツを舐めさせる」
「その汚いケツをか」
「よく洗うから汚くはないが、そうだ。しかしケツと言っても尻じゃないぞ。穴だ。それもAV女優の御座なりの舐め方とは舐め方が違う。放射状に伸びた皺の一筋一筋を―」
「待て」
「どうした。聞きたくないか。裕子に懐いていた美しい幻想が打ち砕かれたか。それなら幻滅したところで、この計画は止めておく方が目的に叶うことになるが。なまじ実行に移せば、森は裕子のスペシャルの虜となり、出口の無い迷路を一生さまよい続ける事になるかも知れんからな。どうする、先を聞くか」
(続く)
※本サイト内の全てのページの画像および文章の無断複製・無断転載・無断引用などは固くお断りします。
メインカテゴリーから選ぶ