シェアワイフ-第2話
作家名:雄馬
文字数:約3110文字(第2話)
公開日:2020年9月4日
管理番号:k054
●登場人物
森晴彦(もり はるひこ)二十七歳
山根温行(やまね はるゆき)二十七歳
森明美(もり あけみ)二十七歳
山根裕子(やまね ゆうこ)二十五歳
「嬉しそうに言うな。だいたい俺が裕子ちゃんのことを忘れられずにいるっていう説に付き合うとして、裕子ちゃんとセックスすると、どうしてそれが解決出来るんだ。
一度きりで終われなくなって、それこそ取り返しがつかなくなる危険性の方が大きいんじゃないか。山根だってそうだ。明美の乳の虜になって後戻りできなくなるかもしれない」
「その可能性はある。もしそうなったら、それが本来あるべき姿だから、逆らわずプランBに」
「プランBとは」
「法的にパートナーチェンジ」
「バカを言うな」
「じゃあ、森は裕子を抱きたくないのか」
「・・・・・・」
「黙ったな。決行だ」
「勝手に決めるな!」
「ただいま〜」
「王手!」
「いや、いい天気だ。絶好の行楽日和だ。のぉ皆の衆」
「オイ、あんまりはしゃぐな。変に思われる」
「何言ってんだ。遊びに行くんだぞ、沈んでる方が怪しい。俺のように楽しそうにしろ」
「その顔は女湯のぞいてる顔だ」
「森こそ夜の事ばかり考えてるから、そんなチンポみたいなのっぺりしたツラになるんだ。俺は今回の旅行をトータルに考えている」
「トータル?」
「ドライブして、温泉につかって、うまいメシを食って、うまい酒を飲んで、明日は根州湖でボートかなんか漕いで、すべての日程を通して、皆で気晴らしが出来ればそれで良いと思っているんだ。夜のことはオマケだ。森に言われて今思い出したくらいだ」
「嘘を言え」
「さあ出発だ。モノドモ、俺のロールスロイスに乗れい」
「小さいな」
「みんな着いたぞ。降りろ」
「おお、渋いな。こんな所にこんな旅館あったんだ。良い宿見つけたな」
「そうだろう。さあ、あとにつづけ。たのもぉ――あ、予約した山根です。四名です。お世話になります」
「どっちがどっちの部屋使う?」
「どっちでもいい。とりあえず、みんな《松葉》の間に入れぃ」
「わぁ、いい部屋だね。眺めも最高。山根君、やるじゃん」
「宴会や社員旅行の段取りばかりやらされてるからな」
「わたし、お茶いれるぅ」
「さてと。これからどうしよっか。何か計画あるの?お兄さんたち」
「今日はもう俺のロイスで出かける程の時間はないから、みんなで少しそこらをブラつこう。そのあと風呂に入ってサッパリしたところで、大牢を囲んで酒盛りといこう。おねえさん、食事は全員この部屋でとりますから、四人分こっちに運んで下さい」
「出掛ける前に風呂の仕度しとこう。どうしよう、どっちがどっちの部屋使おうか」
「どっちでもいい。あ、まて。俺達が《茶臼》の間を使おう。裕子、荷物はもういいのか?運んどくぞ」
「うん、いいよ。いる物は出したから」
「森も来い」
「ええ?」
「下見」
「あ、そうか」
「見ろ。間取りは同じだが配置が逆だ。真っ暗な中いきなり来たらしくじる」
「こっちも窓がデカいなぁ。見晴らしが良いのはいいけど、これじゃあ電気消しても顔が分かるだろう」
「窓の外を見ろ。何が見える」
「山。あと川」
「そうだ」
「お、外人のファミリーが釣りしてる。何が釣れるんだろう?俺達も道具借りてやろうか」
「ああ、やろうやろう。それよりどうだ、向こう岸に宿屋は一軒も無いだろう。車はおろか人が通れる道も無い。あるのはただ山とその頂に僅かにのぞく秋の空。ということは日が暮れても外灯ひとつ灯らない。
そのうえ今夜は新月だ。外には、唯、黒洞々たる夜があるばかりである、てな寸法だ。部屋の明かりを消せば、チンコ摘ままれたって分からない。ちゃんとリサーチしてリザーブしてあるんだ」
「へぇ、やっぱりただのオマケじゃないな。わっ!大事なこと忘れてた」
「かぶと虫に餌をやるのを忘れたか」
「それは大丈夫だ。ちゃんと世話してきた」
「じゃあなんだ」
「コンドーム持って来たか」
「避妊はしない。中で出す。森は裕子の中に出せ」
「まずいだろう、それは」
「何時も着けてるのか?」
「いや、着けない」
「そうだろう。うちもだ。いつも通りにしないと怪しまれる」
「真っ暗なら気づかれないんじゃないか」
「どうやって着けるつもりだ。あらかじめ自分でしごいて被せて行くのか。口でしてもらうとき困るぞ」
「裕子ちゃん口でしてくれるかな」
「それはどうか分からんが、入れるだけじゃないだろう、夫婦の夜の営みは。途中で手探りで着けるにしたって、それまでどうする。ポケットなんか無いんだぞ。握ってるのか。尻に挟んどくか?包みはどう始末する。
終わった後、暗い中で探すのは無理だぞ。それとも俺に探させるつもりか?朝、明るくなってからでも、パンティさえ見つけられないことがあるんだ。そのために裕子はノーパンで出勤したことがあるんだぞ」
「そんなことがあったのか。いつのことだ」
「いつだっていいだろう。いったい何を思い出そうとしているんだ」
「それで裕子ちゃんのパンティは見つかったのか」
「俺のスウェットの中にあった」
「どうしてまたそんな所に」
「裕子をうちに泊めた時、スウェットを貸したんだ。結婚する前の事だ。セックスしようと思ってパンティもろとも脱がせたんだが、後で間違えて俺がそれを穿いて寝たんだ」
「裕子ちゃんはどうした」
「俺が穿いていたジャージで寝た」
「下に何も着けないでか」
「そうだ」
「ノーパンでジャージ・・・・・・。そのジャージって、あのアディダスの」
「そうだ、森にもいつか貸してやった黒地に赤のラインの、ってどうでもいいだろう」
「それで」
「明くる朝、部屋中ひっくり返したが見つからなかった。見つからない訳だ、俺が穿いてるスウェットの中にあるんだから」
「着替えるとき気が付かなかったのか」
「俺は寄る所があったから別々にうちを出たんだ。裕子が出てから気が付いた」
「それでノーパン出勤か・・・・・・」
「遠い目をするな!途中コンビニかなんかで買ってるよ」
「で、そのパンティどうした」
「関係ないだろう!」
「だけど今日は浴衣だからパンティがどこかに入り込む心配はないと思うな」
「例え話だ!妊娠の心配してたんじゃないのか」
「そうだった。何とかしないと。出来ちゃったら大変だ」
「まぁ大丈夫だろう。もし出来たら、それが運命と思って―」
「プランBか?」
「ハハハ。心配するな。裕子は今日は安全だ。今日を選んだのはそのためだ」
「聞いたのか」
「それくらいは知っている。森は知らないのか。子供つくる気ないのか」
「いや、考えてるけど、毎日ガンガンやってるから生理とか気にしてない」
「ミエを張るな。セックスレスだからどうでもいいんだろう。だが心配無用だ。明美も今日は安全だ。俺も明美の中に出す」
「なんで急に呼び捨てだ。大体どうしてそんな事お前が知ってる」
「俺がなぜ明美のメンスを知っているかって?フフッ」
「笑うな!何も無かったって言ったくせに、やっぱりお前は――」
「うろたえるな。何も無い。前に裕子が明美ちゃんと生理が同じだって話しているのを聞いたんだ。それだけだ。だから裕子が安全なら明美ちゃんも安全だ」
「そうか。だけどそれは確実なのか」
「不確実だ」
「それじゃダメだろう」
「確実なものなど人生にはない。人事を尽くしたら、後は天命を待て」
「だから人事を尽くしてコンドームを・・・・・・」
「大行は細謹を顧みず。くよくよ考えてないで、目を閉じて平安朝の昔に思いを馳せろ。今夜は俗塵を洗い流し、思う存分源氏物語の世界に浸るのだ」
「うぅぅん」
「お〜い、お二人さん。散歩行こぉ」
「たまにはこういうのもいいな」
「だろ。わざわざ金かけて遠くまで汗流しに行くなんて馬鹿らしい、とかいつもケチつけるけど、温泉はそれだけのモンじゃあないんだよ。仕事に追われ、殺伐とした人間関係に心身ともに疲れた現代人が、心の洗濯をする癒しの場なんだよ」
「ハル君はそう言って毎日仕事帰りに洗濯してくるんだよね」
(続く)
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