シェアワイフ-第1話
作家名:雄馬
文字数:約3070文字(第1話)
公開日:2020年9月2日
管理番号:k054
●登場人物
森晴彦(もり はるひこ)二十七歳
山根温行(やまね はるゆき)二十七歳
森明美(もり あけみ)二十七歳
山根裕子(やまね ゆうこ)二十五歳
「あ、ちょっと、それ待ってくれ」
「またか」
「いいだろう、少しくらい」
「くそ、つまらん」
「何だよ、俺もさっき待ってやったろ」
「そのことじゃない。よく晴れた休みの日に、男二人部屋に籠って将棋がつまらん」
「じゃあ、ゲームやるか」
「やるかッ!だいたい子供もいないくせに、何でテレビゲームなんて持ってるんだ」
「ああ、山根はお爺さんだ。テレビゲームが子供のおもちゃだったのは大昔のことだ。今は大人のおもちゃだ」
「どうでもいい。オレの言うのはこっちの事だ」
「本物のお爺さんだ。小指立てる奴なんか昔の映画でしか見たことない」
「お前こそ爺さんだ。何かといやあ夫婦で温泉行きやがって。温泉なんてものは、子供が大きくなって手が離れてから行くもんだ。もともと病人の行く所だぞ」
「いいじゃないか、夫婦円満で」
「ジジくさい!明美ちゃんはまだいい。今日もサッカーか?ママさんでもないのにママさんサッカーは気に入らないが、まだアクティブだ。それに引き換え貴様は何だ」
「俺だって一応野球部だ」
「野球部?そろいのジャージ着て、河川敷でビールを鯨飲するメタボ軍団のことか?全然アクティブじゃない。それに俺が言うのはそんな表面的な事じゃない。意識の問題だ」
「もっと気を若く持てってことか」
「その言い種が既にジジイだ。就職して、結婚して、子供が出来たら、残る望みは家内安全、無病息災か?まだまだ一波乱も二波乱も欲しい」
「そうかぁ?俺は平穏無事がいいなぁ」
「だめだ!刺激が必要だ。刺激があって初めて人生は充実するのだ」
「で、風俗にでも行くのか?」
「風俗行って人生が充実するのか」
「じゃあ、ナンパか」
「俺に妙案がある」
「二人で何の悪だくみ?」
「どわっ!驚いた。明美ちゃん、お帰り。邪魔してるよ」
「なにハル君、何も出してあげてないの?」
「こんなのに気を使わなくてよし」
「山根君、何か飲む?」
「そうだな、今日は車じゃないから麦酒でも貰おうかな」
「厚かましいな。水を飲め」
「ハル君は?」
「ハル君もお飲みなさい」
「お前が言うな」
「飲まないの?」
「飲む」
「つまむ物が無いけど、何か買ってこようか?」
「悪いね、運動して疲れてるところを。缶詰とかソーセージとか簡単な物で構わないよ。ご馳走はまた別の機会に呼ばれるから」
「だからお前が言うなよ」
「じゃあ、ちょっと行って来るよ」
「いってらっしゃい。車に気をつけて。あっ、缶詰だったらオイルサー・・・・・・。行ってしまった」
「図々しい奴だ」
「いいんだよ。明美ちゃんに聞かれてはマズイ相談があるんだから」
「何だ」
「実は・・・・・・ゴニョゴニョゴニョ」
「何だよ」
「ちょっと言いづらいんだがな」
「どうせロクな事じゃないだろ。聞かなくてもいい」
「まあそう慌てるな。ところで、ハル君は明美ちゃんとセックスしてるのかい?」
「気色悪いなぁ。やってるよ。毎日ガンガン」
「本当か?」
「ホントもホント。前のアバートは壁が薄くて、明美のアエギ声で近所の猫が集まって困ったくらいだ。それで買ったのがこのマンションだ。鉄筋コンクリートだし、そもそも十四階で猫は寄りつけない」
「嘘をつくな。性生活が充実している夫婦は温泉になんか行かない。まあそれはいいとして、今度四人で温泉に行こう」
「何だ急に。どこに行くんだ」
「どこだっていいんだ」
「じゃあ道後」
「遠い!はるばる九州くんだりまで背中流しに行く必要はない」
「四国だ」
「同じだ。そんなに足を伸ばさなくたっていい。箱根で十分だ」
「箱根は飽きたなぁ。どうせなら行ったことがない所がいい」
「俺を遍路に巻き込むな。湯巡りは夫婦でやれ。この計画において場所は重要ではない。大事なのは何をやるかだ」
「風呂に入るんだろ」
「アホか!いや、風呂は入るが、眼目は別にある」
「メシか」
「うむ。浴衣着て、終電を気にせず、のんびり酒を飲みながらメシを食うのはいいな。だが違う」
「紅葉狩りか。ちょうどいい時期だ」
「紅葉も狩るが、そんなことでは人生は充実しない」
「そんなら射的か」
「射的で充実するのか、森の人生は」
「温泉で他に何するんだよ」
「セックス」
「何だそれ。高校生かよ」
「まあ聞け。みんなで旅館に行くだろ。そうしてメシを食う。酒を飲む。寝る。そこで、ほら、俺はその・・・・・・明美ちゃんが、何だ。部屋は別に取るし、森だってそら、裕子のその・・・・・・」
「何を言ってるんだ」
「うん、要するに俺は明美ちゃんと、森は裕子とセックスするんだ。どうだ、最高だろう」
「オ、マ、エ、ハ、バ、カ、カ。誰がスワップなんかするか」
「もしかして君は、アダルトビデオの乱交モノを想像していないかい。俺もあんなグロテスクなことはやりたくない。だいいち森の勃起したチンコは見たくない」
「俺だって山根の毛だらけのケツは見たくない」
「だから別々に。マンツーマンで」
「人の嫁とセックスして人生を充実させるのか?」
「いや、それだけではない、夫婦生活も長くなるとマンネリになるだろ。危ない。子供も無いのにセックスレスは極めて危険な兆候だ」
「だからやってるんだって。それにまだ三年だ」
「三年?ああ、危ない。最初の壁だ」
「そっちも同じだろ」
「そう、うちも危ない。だからやるんだ」
「危ないのか?」
「いや、そんなこともないが、転ばぬ先の杖だ」
「裕子ちゃんには話したのか?」
「まさか!」
「言わずにどうするんだよ」
「段取りはこうだ。まず二人を温泉旅行に連れ出す。理由は別にいらんだろう。そして宿に泊まって、飯を喰らい、酒を飲む。二人が出来上がったところで、それぞれの部屋へ。で、女どもを寝かしつけたらパートナーチェンジ。
すんだら撤収。各自愛妻の許へ。明朝、皆、何事も無く清々しい朝を迎える。めでたしめでたし。どうだ、簡単だろう」
「絶対バレる」
「たっぷり飲ますし、暗くすれば大丈夫」
「無理だろう。まず体形が違う。俺は引き締まっていて腹筋は無数に割れているけど、山根は一個じゃないか。山根のケツには蚊が寄り着けないほど毛が生えてるし。そもそもやり方が違うだろう、たぶん」
「問題ない。俺は変幻自在でマンネリズムとは無縁だから、裕子は相手が変わっても分からない。一方、明美ちゃんはセックスレスが久しくて忘れているから気がつかない」
「だからセックスレスじゃないんだよ。猫が来るんだよ、群れをなして」
「それにあの大きな乳を、森一人では持て余すだろう」
「持て余さん!大体こっそり入れ替わったんじゃ、夫婦のマンネリ解消にならないじゃないか」
「夫婦破綻の原因の大半は夫の側にある。男がシッカリしていれば、九十パーセント回避できる。だから俺達が気晴らしすればいいのだ。それに知らなくたって、いつもと違うセックスをすれば気分が変わる。
俺が四十八手で明美ちゃんを繋ぎとめてやるから、君も下手なりにシッカリ裕子をかわいがってやりたまえ」
「何を勝手な事を言っているんだ。明美とやりたいだけだろ」
「ばれたか」
「バカタレ」
「しかし、そもそもこの計画は森のために立てたんだ。俺は知っているぞ。森は裕子に惚れていた。そして今も忘れられずにいる。そのことが心の底に澱のように溜まっているな。
それが年を追う毎に消えるどころか、却って嵩を増して心に重くのし掛かっている。もしこのまま放置するならば、いずれ情欲の奔流が堤を切って二つの家庭を押し流すことになるだろう。
今のうちにその鬱屈した魂を解放してやらないと、取り返しのつかないことになる。だからこの計画は四人の為のものと言っていい。これから生まれて来る我々の子供達の幸せのためにも避けては通れぬイバラの道だ」
(続く)
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