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痴れ女の妄迷-3話



作家名:金田誠
文字数:約2750文字(第3話)
公開日:2020年8月29日
管理番号:k053


ウブな男子大学生の手記。年上の女性に手ほどきされる様を、彼の気持ちの変遷を中心に描いています。少し謎めいた彼女は、いったいどんな女性なのか?



挿絵の官能小説画像


翌週の火曜日、彼女は現れなかった。
私の期待は膨れ上がっていたので、意気消沈した。

次の火曜日も彼女の姿はなかった。
別の曜日や時間に行こうかと考え始めたが、なんだか二人の間のルールを逸脱するようで踏み切れなかった。

もう自分は捨てられたのではないか?
いやいや、何か彼女に突発的な事情があるのではないか?


そんな焦りと不安の日々を送る中、3週目の火曜日に、彼女がいつもと変わらぬ様子で現れた。
間の空いた事情がわからない私は、どう接したらよいのかわからない。

彼女の姿を盗み見るのがやっとで、近くにいるのだが身体の接触を躊躇っていた。

お姉さんに甘え、手ほどきしてもらえる立場にあると思いたかったが、人生経験が薄い分どうしても勇気をもって、自分から行動することができない。

彼女は私を意識していないかのように振舞っている。
そのまま何事もなく、いつもの駅で彼女は降りてしまった。

私の落胆は大きかった。


再び1週間を悶々と過ごした私は、大きな賭けに出た。
彼女の仕事場を特定するのだ。

ほとんどストーカーだが、彼女とのめくるめく一件が私を駆り立てた。
翌火曜日に大学の授業を休んで、後を追う計画だ。


彼女は、いつものように車内にいた。
あの2週間の空白はなんだったのだろうという疑念を抱えながら、彼女の降りる駅で私も降りた。

探偵紛いのことをせずに、直接話しかければよいのかもしれない。
でも、彼女がそれを望んでいるという確かな自信もない。

また、どんなことを話したらいいのかも見当がつかない。
私の望みは、もちろんあの続きをしたいという思いなのだが。


彼女の後をつけると言っても、その際に気づかれてもいい。
できたら自分の思いを感じとって、話しかけてきてくれないかと期待していた。

とはいえ、あからさまに近づく勇気はなく、雑踏を壁にして追跡した。
ターミナル駅で、乗り換えるのかと思いきや、改札を出ると大通りに沿って彼女は歩いていく。

3分ほど行ったところでビルの中へ。
奥にあるエレベーターへ幸いにも彼女は1人で乗りこんだ。

すぐにエレベーター前まで行き、何階で止まるかを確認した。
4階だ。

ビルの外に出てテナントを確認すると、フロアーは柳田歯科医院となっている。
歯科助手?

それとも受付なのか。
まさか歯科医か?

とりあえず一つの情報を得て安心感が生まれる。
今日のところは目的を達成できたので、そのまま大学へと向かった。


インターネットで検索すると、医院の副院長として写真が載っていた。
院長と同じ苗字から娘なのだろう。

彼女が何者であろうと構わない。
うずく下半身を止められないでいる私は、タイミングを見て彼女に近づこうと思った。


再びいつもの火曜日になった。

すでに私は痴漢紛いの接触には興味を失っており、どうにかして次の段階に進みたいという熱いものを抑えられないでいた。

にもかかわらず、若い私は相手に無視されることに怖れを感じてしまって、1ヶ月もの間、行動を起こすことができないでいた。

ところが、閉塞感が頂点に達したのと、彼女の仕事場を探し出したのは、いったい何のためだったかを自問しているうちに、決心がついた。

彼女の職場の近くまで平日の夜に足を運ぶことにする。


ビルの向かいに喫茶店がある。
そこで張りこむ。

午後の6時をまわった頃だった。
前触れなく彼女がビルから出てきた。

私は慌てて会計を済ますと、彼女の跡を追った。
駅に向かっている。


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着く前に声をかけなければとは思うものの、その勇気が、なかなかでない。
ただ駅に近づくほどに人が増えるので、自分としては声がかけやすい気持ちに傾いてきていた。

駅はすぐそこに迫っている。
速足で彼女の背後から近づいた。

ドキドキが最高潮に達したそのとき、斜め後ろから、思い切って声をかけた。
「こんばんは」


すぐに振り向いた彼女は驚く様子もなく、笑みを浮かべた。
「いつ声をかけてくるかと思ってたのよ」

その言葉に、心をきゅっとつかまれた。
自分の表情がパッと変わるのがわかる。

「この前のことが、気に入らなかったのかなって。少し強引だったから・・・」
気にかけてくれていた言葉を耳にして安堵した。

「そんなことないです・・・」
慌ててそう言う。

「良かった」
ホッとした表情の彼女は

「わたしの仕事わかってるんでしょ。跡をつけてたりして?」
と探るような目つきになる。

おそらく私の視線が泳いでいたのだろう。
「あれれ。図星なのかな?」

ここまで来たら、隠し立てしても仕方がない。
嫌われるのを承知で

「歯科医さん・・・ですよね?」
と正直に確認してみる。

「あらぁ。もしかして検索までしちゃった?そうなの。歯医者さんなの。親がそうだから、跡をつぐ形になっちゃって。というか、こんなところで立ち話もなんだし・・・」

言葉を切って、彼女がしばらく私を見つめる。


「で、どうしたい?」
唐突に私の気持ちを問うてきた。

彼女の誘うような表情に促された私は
「ちゃんとしたところで、そのまた・・・」

と言い渋ってしまった。
「・・・そうだよね。中途半端はやだよね。たぶん、膨らんじゃった妄想、おさえきれなくなってるよね」

と助け舟を出してくれた。
「いいよ。じゃ、いこっ」


数分歩くと、静かな通りの小道に彼女は入っていった。
昔の佇まいを残した引き戸格子の家屋の前で彼女は立ち止まり、カラカラと音を立て入っていく。

中は広い土間になっていた。
外の古びた感じに比べて、屋内はリフォームされているようだ。

行灯のうす暗い照明が床にあたり、板敷きの黒い光沢を輝かせていた。
着物姿のお婆さんが、奥の方からスルスルと歩みを進めてきた。

「いらっしゃいませ」
ゆっくりと腰を折りながら、首を垂れて深くお辞儀をする上品な老婆は、笑みを湛えて膝を折り、床に正座する。

「お二階、空いているかしら?」
「はい。どうぞ、こちらにお履きかえくださいませ」

差し出されたスリッパに足を通し、年季の入った正面の階段を、みしみしと音をさせて上がっていった。
階上には6つの部屋があり、すべて引き戸になっている。

一番奥の部屋に案内され、私たちは入っていった。
10畳ほどの広い部屋は純和室かと思っていたが、ダブルベッドが置かれており、その横にはソファも完備されていた。

「それでは、心ゆくまでおくつろぎください」
そう言うと、老婆はしおしおと下がっていった。


「こんなところが都内にあるなんてびっくりでしょう。私もそうだったもの。都内で働いている人たちに、憩いのひとときを与えてくれる隠れ屋なんだよね」

「ここには露天風呂もあるの。地下千メートルから汲み上げた温泉なの。廊下の突き当たりにあるから、入ってきたら」

そう言われて、一緒になのかと思い、妄想を逞しくしたけれども、彼女の動く様子がないので

「じゃ、お言葉に甘えて、入ってきます」
と教えられたとおり、風呂場へと向かった。




(続く)





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