歴史秘話ーある素封家の没落-2話
作家名:バロン椿
文字数:約4100文字(第2話)
公開日:2020年8月4日
管理番号:k048
どこにでもある、金持ちが使用人の女に手をつける、それを昭和の戦前から、戦後、そして現代へ。時代は男女関係に厳しくなり、先祖代々の田畑、屋敷も失う様を描いた作品です。
昭和14年(1939年)
戦前の明治憲法下では家督を継ぐ予定の長男は特別の存在だった。
岩本家の長男、健輔は幼い頃から「お前が岩本家をしっかり守って行くんだ」と言われてきた。
そして、その言葉通り、昭和14年(1939年)、数えの20歳(満19歳)になると、父の泰三に代わって、町内の寄合にも顔を出すようなった。
しかし、2つ違いの弟の義雄は、「いずれは家でも建てて、分家させてやるか」ぐらいの扱いでしかなかった。
だが、それは当たり前。
義雄は何の不満も抱くことはなかった。
それより、学業が優秀だった彼は旧制中学を卒業したら、旧制高校から大学へ進み、実業界で働きたいと思っていた。
しかし、中学5年生になった4月、そのことを父の泰三に相談すると、「兄の健輔が中学で終えているのに、どうして弟のお前が高校に行くんだ」と首を縦に振らなかった。
「辛抱しなさい。旦那様には旦那様のお考えがありますから」
幼い頃から、可愛がってくれた番頭はそう言って慰めてくれた。
だが、中学に行けば、自分よりも出来の悪い同級生が、「どこを受けようかな」、「一高か?」、「いや、それは無理だから金沢の四高だよ」などと楽しそうに話しをしている。
望みが叶わない義雄は「どうしてなんだよ」と、やるせない気持ちで一杯、全く勉強に身が入らず、無益な日々を送っていた。
そんな6月、田植えが終わり、ほっと一息ついた頃、岩本家の作男として住み込みで働いていた、3つ年上の辰吉が「義雄ちゃん、面白いことがあるよ」と誘いをかけてきた。
辰吉は小学校を出ると、植木屋に弟子入りし、その縁で岩本家で働いているが、年上の職人に囲まれ、博打は勿論、女遊びも仕込まれ、それら「大人の知識」を時々義雄にも教えてくれていた。
その辰三がニヤニヤしながら「菊枝(きくえ)さんが遊びたいって」と言う。
菊枝と言うのは当時35歳、元は芸者だったとか。
とにかく、色々な噂のある女で、父の泰三も関心を持っていたが、母の綾乃から「あなた、菊枝はダメですよ」と釘を刺されていたと聞いたことがあった。
だから「遊び」という意味にはピンときていた。
「え、菊枝さんが」と聞き返したが、顔は直ぐに赤くなり、それをからかうように、辰吉は「今夜は旦那さんも健輔さんも寄合で出掛けるし、奥様もいない。義雄ちゃん、なんでもしてくれるぜ。え、あ、ひひひ」といやらしく笑った。
同級生の中には既に遊郭に上がって女を知っている者もいて、「ヌルヌルしてくるから、ちんぽこを入れたんだよ。もうたまんねえよ、あれは」と教室の隅で自慢していたことを思い出すと、ペニスが硬くなっていた。
午後7時を過ぎた頃、納屋を改築した作男部屋では酒盛りが始まった。
主のいない気安さから、「どうだい?」と声が掛かれば、「はいよ」と女たちも喜んで加わる。
「姐さん、やけに今夜はきれいだね」
「当たり前じゃないか。いい婿でも探そうと思って、化粧してきたから」
「それで、いるかい? 姐さんの婿になれる男は」
「いないねえ、年寄りばかりじゃないか」
「俺だって嫌だよ、姐さんなんか」
「言ったなあ、こら!ははは」
「あははは」
作男部屋は大いに盛り上がっているが、人の出払った母屋はシーンと静まり返っていた。
「義雄ちゃん、こっちだよ」
女中部屋へと続く階段を、辰吉の手引きで昇るが、一歩一歩上がる度に、ギシギシと音が辺りに響く。
「辰っちゃん、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だよ。みんな集まって飲んでいるから、こっちには誰も来ないよ」
「そうか」
しかし、二階の廊下が見えてくると、義雄は歩けなくなっていた。
「立ってるのか?」
「あ、いや」
図星だ。
義雄の下帯の中は既に硬くなり、歩き難くなっていた。
「へへへ、俺もそうだったよ。最初の時は歩けなくて、困ったよ」
いやらしく笑う辰吉は義雄の帯を掴むと、引き立てるようにしてそこを登り切らせた。
真っ暗な二階だが、奥の一部屋だけ灯りが点いていた。
辰吉が「あそこだよ」と指をさす。
「あ、あ、うん」と義雄は返事をするが、興奮で舌が絡まり、上手く言葉が出てこない。
そこに、「誰だい?」と女の声が聞こえてきたが、「連れてきたよ」と辰吉が答えると、「あら、そうかい。早かったね」と中から艶のある声が返ってきた。
緊張して義雄は後退りしたが、障子を開けた辰吉に「ほら」と背中を押され、中に入ると、浴衣姿の菊枝が布団の上に座っていた。
「いらっしゃい」
うちわを扇ぎながら微笑むその顔は、余りにも色っぽく、プーンと白粉の匂いが漂ってくる。
義雄はまともに見ることが出来ず、「あ、あの、こ、こんばんは……」と返すのが精一杯。
それなのに、「暑いわね」と浴衣の襟元を少し広げられると、ドキドキして、もう言葉が出てこない。
「じゃあな」と辰吉が行ってしまうと、最初からこういうことになるのは、分かっていたのに、怖じ気付き、膝が震える。
そこに、菊枝が膝立ちして近寄り、帯に手を掛けると、もう案山子のようなもの。
「怖いの?」と聞かれても返事も出来ない。
下帯も取られ、裸にされた義雄の目の前で、立ち上がった菊枝が紐を解いて、浴衣の前を開いた。
顕になる白い肌。
「ふふ」と笑った菊枝が天井の灯りを消すと、義雄を布団の上に押し倒した。
初めて触れる女体はしっとりして、温かくて柔らかい。
背丈は自分よりも小さいのに、覆いかぶさられると、とても大きく感じ、何もできない。
抱き締められ、チュッ……と唇を合わされると、甘酸っぱいような、何とも言えぬ味。
そして、乳房に手をあてがわれ、揉むと、「ああ、そう、そう、気持ちいい……」と悩ましい声を出して身を捩る。
義雄は何が何だか分からぬまま、菊枝の体を弄り、最後に、股間に手を引き込まれた。
「あっ」と思ったが、菊枝は手を掴んで、「ここよ」と性器にあてがう。
ちょっと湿っているように感じたが、菊枝は義雄の人指し指と中指でそこを擦らせる。
すると不思議なことに、肉の合わせ目が開き、中がヌルりとした粘液で滑らかになってきた。
義雄は異様に興奮し、夢中で掻き回すと、根元まで簡単に埋まり、指を動かすと、「あ、あ、あっ、あっ、あっ、あああ……」と体を仰け反らせて喘ぎ、体からは何とも言えない女の匂いが強く立ちこめてきた。
ペニスは何時爆発してもおかしくない程に硬くなっている。
もう我慢できない。
「き、菊枝さん……」と情けない声が出てしまったが、目が合った菊枝は「おいで」と大きく手を広げた。
「う、うん」と、そのお腹の上に体を重ねていくと、勃起したペニスが菊枝の股間にぶつかる。
「狙いを定めて、腰を突き出すんだ」
童貞を卒業した同級生が言っていたことが頭に浮かぶが、それどころではない。
早くしないと危ない。
体を起こし、ペニスを近づけると、菊枝が手を添え、亀頭の先を膣口に挿し入れ、それから、ぐっと腰を引き寄せてくれた。
その瞬間、数えの19歳(満17歳)の無垢のペニスは、濡れに濡れた菊枝の膣道に滑るように入っていった。
言葉も出ない。
それどころか、激しい快感が背筋から脳天まで走りぬけ、何もしないまま、「うっ!うっ!うっ!」と菊枝の中で弾けてしまった。
菊枝の悪事
その日以降、義雄にとって勉学はどうでもよくなった。
夜ごと、家の者に気がつかれないように階段を昇り、菊枝の部屋に忍び込む。
そして、「ああん、お坊ちゃん、好きよ……」と聞こえてくる喘ぎ。
他の部屋にいる女中たちは、このことを知っていたが、見て見ぬ振り、いや、聞いて聞かぬ振りだった。
その夜も、義雄は菊枝の部屋に忍び込んできたが、「ねえ、ちょっと助けてやってくれない?」と頼みごとをされていた。
早く菊枝を抱きたい義雄が「何だよ?」と隣に座り込んだが、菊枝は布団に座ったままで、「うん……ちょいと言いにくいことなんだけど……」とはっきりしない。
焦れる義雄が「僕に出来ることなら、なんでもするから、言ってよ、菊枝さん」と体を寄せると、左の身八つ口から手を入れ、乳房に触れてきた。
「あ、あん、お坊ちゃん」と身を捩る菊枝は浴衣の裾が乱れ、白い脹脛が顕になってきた。
だが、布団に押し倒し、唇を合わせようとするが、「ダメ、まだダメ、話が……」と顔を反らす。
「堅いこと言うなよ」と裾を掻き分け、太腿に触れようとすると、「ダメ、ダメって言ったでしょう」と、その手を跳ね除けた。
何時になく、様子がおかしい。
「どうしたの? いいじゃないか」と迫ったが、「ちゃんと話を聞いてよ」と目に涙を溜めて、思いつめたような顔している。
そして、「お友だちで、ご主人を亡くした人がいて、子どもがいるから、働きに行けなくて、困っているの。貸してあげたくても、お金がなくて……もう、死ぬしかないって、お友だちが……」と声を詰まらせ、肩を震わせた。
「女の涙には騙されるな」、そんな言葉があるが、遊び慣れた男なら、「ははは、何か企んでいるな」と感づくものだが、ボンボン育ちで、菊枝の色香に夢中の義雄にはそれが分からない。
つい、「ぼ、僕が、僕がお金を出すから、その人に絶対に死なないでと言って、菊枝さん……」と菊枝を抱きしめると、「お、お坊ちゃん、あ、ありがとうございます……」と逆に布団に押し倒していった。
翌日、義雄が正月に貰ったお年玉を含め、貯めていた小遣いを、「これを使って」と菊枝に渡したことは言うまでもない。
だが、よくよく考えてみれば、芸者崩れで、住み込みの女中をしている菊枝に、そんな友だちなんかいる訳がない。
果たして金の使い道は……
何日か後の女中部屋では
「ははは、そうなのよ」
「菊枝さんの話、面白い」
「お団子、まだあるわよ」
「え、いいの?」
「遠慮しないで。ちょっとお捻り頂いたから」
と明るい声で賑わっていた。
これに味をしめた菊枝はいろいろ理屈をつけて、義雄から金を巻き上げ、卒業を控えた2月に母の綾乃が中学校から学費滞納の連絡を受けた時には、既に菊枝は行方をくらまし、土蔵からも金目の物が多数消えていた。
母の綾乃は「この大バカ! 恥を知りなさい、恥を」と義雄を叱ったが、父の泰三は「まあ、そう怒るな。あいつにとって、いい薬になっただろう」と庇い、咎めることさえしなかった。
(続く)
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