出奔の果て-3話
作家名:バロン椿
文字数:約3660文字(第3話)
公開日:2020年7月10日
管理番号:k040
山の中の工房で陶芸作品作りに励む柳本とその弟子、川島建夫のところに、バツ一の山本佳代子が来たことから始まる微妙な人間関係等を描いた作品です。
悪ふざけ
しかし、佳代子とじっくり話が出来るのは、毎月1度だけ、柳本が後援者の美術商のところへ作品を届ける、その時だけだ。
「建夫、頼んだぞ」
朝食を済ませると、柳本は背負子に風呂敷に包んだ桐箱を3つ載せて山を下りて行った。
「あらあら、偉そうに」
「師匠、いい作品が出来たんですよ」
「へえ、そうなの」
柳本を見送っているところに洗濯籠を抱えた佳代子がやってきた。
「ねえ、ちょっと手伝ってよ」
「これ、俺が干すの?」
「こんなに沢山の洗濯物を私一人で干せって言う訳?」
確かに柳本、佳代子と建夫の3人分、それに土を捏ねるから手を拭うタオルや雑巾が溢れる程に詰まった籠が2つもある。
「だけど」
「何を言ってんのよ。さあさあ、これ、お願い」
建夫は佳代子から籠を押し付けられてしまった。
まあ、しょうがないかと建夫はタオルをしっかり広げて竿に掛けたが、次に手にしたのは佳代子のパンティだった。
(やっぱり、これだから嫌なんだよ…)
建夫はくしゃくしゃのまま竿に掛けたが、それを佳代子に見られてしまった。
「ダメダメ、ほら、こうして両手で端っこを持ってパンパンって。こうして伸ばしてから干すのよ。私のパンツなんか見たって面白くもないでしょう。ほーら、ふふふ」
「あっ、おばさん、ふ、ふざけないでよ」
佳代子がパンティを建夫の顔に押し付けてきた。
二人しかいない山の中、こうした悪ふざけはどんどんエスカレートしていくものだ。
稜線
建夫とのことはさて置き、柳本との間は一向に進まない。
その気がないのか、寝室を一緒にしないどころか、手も握ろうともしない。
仲を取り持った者は「佳代子さん、気長に待ちましょう。彼もあなたを気に入るから」と言ってくれたが、1年経っても、状況は全く変わらなかった。
(名工だかどうだが知らないけど、土を捏ねる暇があったら……)
女盛りの体は、どうしても疼く。
寝床に入ると、手は自然と股間に伸びる。
「………」
微かな息遣い。
割れ目に湿り気が出てくると、指が中に分け入り、掻き回す。
「はあ、はあ、あなた……」
相手は誰か?そんなことはどうでもいい。
ぬるみは滴りとなって指を伝わり、シーツに落ちる。
「あ、あ、あ、いい、いい、あ、あああ……」
虫の鳴き声がよく聞こえる、人里離れた古民家。
喘ぐ声は同じ屋根の下に暮らす建夫にも聞こえている筈だ。
その証拠に、翌朝、「おはよう」と声を掛けると、「スケベな女だ」とでも言いたげな軽蔑した目で、返事も返さない。
だが、建夫も似たようなもの。
柳本は夕食を済ませば酒を飲んで午後9時には寝てしまう。
だから、佳代子が風呂に入れば、外から覗いても咎める者など誰もいない。
いけないことだとは分かっていたが、性欲旺盛な19歳は我慢できない。
そっと風呂場に近づき、窓の隙間から中を覗き込む。
すると、股間の黒々とした陰毛がはっきり見えた。
外の物音から、佳代子も建夫が覗いていることに気づいていたが、知らない振りをして、隠すどころか、「見ていいのよ」と言わんばかりに、胸も股間も晒した。
(お、す、凄げえ……)
唾を飲み込み、窓ガラスにへばりつく。
風呂場から丸見えだが、覗きに夢中の建夫はそのことに気がつかない。
直ぐにペニスがはち切れそうなくらいに硬くなり、もう抜きたくなった。
ズボンを下ろし、ペニスを握ると、星空の下、憚ることなく扱く。
「あ、あ、あ、あああ……」と呻くも束の間、ペニスがピクピクと痙攣し、精液の塊が腰の奥の方から噴き上がり、「あっ!あっ!あっ!」と亀頭の先から白濁したものが、大量に飛び出した。
翌朝、「建夫、ちょっと」と佳代子は呼び止める。
なんとなくバツが悪い建夫は「何だよ」と不機嫌そうな顔をするが、「ダメよ、あればっかりしたら」と言われ、恥かしく逃げ出してしまった。
佳代子は41歳のバツ一、建夫は19歳。
22歳も年齢差があるが、こんなことを繰り返していたら、どうなるか分からない。
きっかけさえあれば、いつ男と女の関係になってもおかしくない、二人は山の稜線を歩いているような仲になっていた。
気持ちは同じ
壺や皿は、素焼き前に天日に当てて十分に乾燥させなくてはいけない。
建夫はこの工房に来て3年。
ようやく、この工程を任せられるようになった。
その日も朝から30度を超える暑い日だった。
工房前に作った乾燥台にそれらを並べていると、柳本が出てきた。
「どうだ?」
「は、はい。この天気だと、具合よく乾くと思います」
「そうか……」
任せるようで、任せない。師匠とはそういうもの。
柳本は台に並べられたそれらを一つ一つ点検し、ひび割れや、陰が架かっている物が無いことを確認していた。
「出掛けられますか?」
「ああ、そうだ」
今日は出来の良い壺や皿を支援者に届ける日。
柳本はそれらを詰めた木箱を背負うと、「頼んだぞ」と言い残して山を下りていった。
「ふぅぅ……」
師匠がいなくなると、一息つきたくなるが、残りの壺や皿を並べ終えないといけない。
雲の動きを見ると、雨は大丈夫そうだが、手は抜けない。
そして、ようやく全てを並べ終わった時、母屋の方で「ドタン!」と何かが倒れる音がした。
何だろう……
建夫はいやな予感がした。
朝食の後片付けを終えた佳代子が現れ、愚痴をこぼす時間はとっくに過ぎているのに、今朝はまだ姿を見せない。
「佳代子さん?」
母屋に向かって名前を呼んだが返事がない。
「佳代子さん!」と、今度は大きな声で呼んだがやはり同じだった。
不安を覚えた建夫が母屋に駆け込むと、土間に佳代子が倒れていた。
「ど、どうしたの?」
「目が回る……」
意識はあるものの声は弱々しく、顔色はどんどん白くなっていく。
「しっかり、しっかりして!」と励まし、佳代子の体を抱えて居間に上げると、そこに座布団を敷いて寝かせた。
「あ、ありがとう……」
佳代子はなんとか笑顔を見せたが、ぐったりして、体はすっかり冷えきっていた。
どうしていいか分からなかったが、汗と土間の土で汚れた服を脱がし、部屋から持ってきた夏掛けで体を包んであげた。
「………」
佳代子が何か言ったが、弱々しくて聞こえなかった。
だが、暫くすると、顔に赤みが戻ってきた。
それと同時に、「もう大丈夫、大丈夫だから」と言葉もはっきりしてきた。
だが、先程までの真っ青な顔を思い浮かべると、「分かりました」と言って、直ぐに出ていく訳にはいかない。
「うん、でも、もうちょっといるよ」と答えると、「あいつに叱られるわよ」といつもの悪口が出てきた。
建夫は思わず、「あ、えっ、あははは」と笑ってしまった。
チリン、チリンと風鈴の音が響き、涼しい風が吹いてきた。
佳代子は唯一の話し相手であり、秘かに思いを寄せている女性だが、佳代子の方は自分をどう思っているか分からない。
気持ちを確かめたくなった建夫は佳代子の手に触れた。
「嫌よ」とか「何よ?」と言われるか不安もあった。
だが、佳代子はギュッと握り返してきた。
見ると、微笑んでいる。
「あなたと同じ気持ちよ、建夫」
そう言われたように感じ建夫は「じゃあ、(工房に)戻るから」と素直になった。
「はい、しっかりね」
「ありがとう」
助けた筈なのに、逆に励まされ、母屋を出る時、振り向くと、佳代子は「頑張ってね」と手を上げていた。
外に出ると、空に雲は無く、日差しは強い。
乾燥台に置いた約50個の壺と皿は順調に乾燥が進んでいる。
工房に戻った建夫は粘土を取り出すと、それを作業台に置き、土作りを始めた。
両手に体重を掛け、土を押し出すようにして捏ねる。
汗が額に滲み、台の上にポタッ、ポタッと落ちるが、作業に集中する建夫には鳥のさえずりも、セミの鳴く声も耳には入らない。
そうだ、そうだ。
上手くなったじゃないか
師匠、柳本の声が聞こえたような気がした。
だが、捏ねる粘土を見ていると、佳代子の体が目に浮かんでくる。
先程は助けたい一心で抱き上げたが、汗と泥で汚れていたTシャツとスカートを脱がせた時の柔らかい体の感触は手に残っている。
手が緩み、粘土を押し切れない。
「バカ野郎!」と師匠の声が聞こえてきたが、白いブラジャーとパンティだけで横たわる佳代子の姿は股間を刺激する。
(抜きてえなあ……)
しかし、このまま粘土をほったらかしにしたら、師匠にこっぴどく叱られる。
何とか集中して、予定していた粘土を全て捏ね終えた時、12時半を回っていた。
(腹減ったな……)
そう思った建夫は汚れた手を井戸で洗っていたが、シャツやズボン、それにパンツも汗でぐっしょり濡れている。
もう面倒くさい。
全部脱いで素っ裸になると、バケツに溜めた井戸水を頭から浴びた。
生きかえったような気持ち。
建夫は「ふぅぅー、気持ちいい…」と伸びをしたが、その時、ふと、佳代子のことを思い出し、思わずペニスを握ったが、抜くより、佳代子の顔が見たくなった。
腰にタオルを巻いただけで、建夫は母屋に駆け込んだが、そこに佳代子の姿はなかった。
その代りに、居間の座卓の上に、おにぎりと手紙が置いてあった。
「どうもありがとう。貧血なのよ。部屋で休みます」
心配ない。
佳代子はどうやら元気だ。
ホッとした建夫は居間に座り込んだ。
(続く)
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