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出奔の果て-最終話



作家名:バロン椿
文字数:約3840文字(第4話)
公開日:2020年7月11日
管理番号:k040


山の中の工房で陶芸作品作りに励む柳本とその弟子、川島建夫のところに、バツ一の山本佳代子が来たことから始まる微妙な人間関係等を描いた作品です。



挿絵の官能小説画像


ついに男と女に

おにぎりを食べて、満腹になると眠くなる。
どうせ誰も来ない。

そこに座布団を敷いて横になると、スーと意識が遠退いた。


「建夫!」
背中をポンと叩いた佳代子が走り出した。

「あ、待ってよ、佳代子さん」
雲一つ無い青空の下、どこまでも広がる高原で、建夫は佳代子を追い駆ける。

しかし、追いつきそうで、追いつかない。

「待って、待ってよ……」と手を伸ばした時、僅かに肩に触れ、二人はそのまま、緑の草の上に転がった。
「はあ、はあ、はあ……」

弾む息を堪え、建夫が体を起こすと、同じように「はあ、はあ、はあ……」と息弾む佳代子が「好きよ」と両手を広げて待っていた……


「起こしちゃった?」
気が付くと、スリップ姿の佳代子が傍らに座っていた。

建夫は「えっ、あ、あっ」と慌てて起き上がったが、腰に巻いたタオルはすっかり解け、全裸だった。

「あ、いや……」と取り繕おうとしたが、スーと身を寄せてきた佳代子が、チュッと唇を重ねてきた。
初めての口づけ。

建夫は驚いたが、佳代子はそのまま身を重ね、二人は座布団の上に倒れ込んだ。

「か、佳代子さん」
建夫は戸惑うが、「黙って」と佳代子は再び唇を合わせると、チュ、チュッ、チュッチュ……と吸い付き、建夫を抱き締める。

19歳の建夫は童貞。
憧れを夢に見るだけだが、41歳の成熟した女の佳代子は違う。

愛を見せてくれた相手には愛で返す。

唇を離して立ち上がると、釣られて体を起こした建夫の目の前で、スリップの裾を両手で持ち上げ、頭から抜き取った。
ブラジャーなんか着けていない。

乳房が揺れ、贅肉のついた下腹部には白いパンティが少し食い込んでいる。
身体は美しくないが、そんなことはどうでもいい。

「ゴクッ……」
建夫の唾を飲み込む音が聞こえるが、佳代子は躊躇うことなく、パンティのゴムに指を掛け、足下まで引き下ろした。

色濃く繁る陰毛、鶏冠のような秘肉の合わせ目。
そこから目が離せない建夫に、佳代子は股間を押し付け、そのまま倒すと、顔の上に跨った。

陰毛が鼻を覆い、下の口が上の口を塞ぐ。

セックスの遣り方など知らなくても、「舐めたら女は悦び」くらいは知っている。
建夫はもがきながらも舌を動かす。

佳代子の性器に触れ、しっとりして、しょっぱい味がする。
同時に、「ああっ」と悩ましい声が聞こえてくる。

止めることはない、舌を伸ばし、ペロペロ舐める。
とにかく舐める。

すると、「はぁはぁぁっ……」と声も大きくなった佳代子の体は暴れ馬のように揺れ動く。
性器の中も周りもヌルヌルになっている。

もう余計なことはしなくていい。
早く、早く……「あ、あ、た、建夫、い、逝っちゃうから……」と建夫の顔の上から降りた佳代子は仰向けに横たわった。

代わりに起き上がった建夫のペニスははち切れそうな程に硬く反り返っている。

後は自然。佳代子が「来て」と両手を開けば、「か、佳代子さん……」と建夫がその上に重なり、ペニスが膣を貫き、二人の体は一つに繋がった。

「建夫、私はもう離れられないよ、夫婦だから……」
「う、うん……」

抱き締めあう二人にはその先に何が起こるか、何も見えなかった。


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崩れた関係

体の関係が一度出来てしまうと、もうそれは止められない。

柳本は夜9時になると寝てしまうから、建夫と佳代子はそこから雄と雌になる。

一緒に風呂に入り、その場で交わることもあるが、たいていは建夫か佳代子の部屋で交わる。
だが、古い木造家屋だから、どこで交わろうが、音は漏れてしまう。

佳代子は枕の端を噛みしめて堪えるが、全てを忘れて外に響く大きな声を出してしまうこともあった。

そんな翌日には、柳本は何も聞こえていなかったような振りをしながらも、「子供相手にいい気なもんだ」と佳代子の背中越しに独り言を言う。

建夫には難癖つけて怒鳴ったり、棒で殴ることさえあった。

次第に、二人にとって柳本は邪魔な存在になってしまった。

「建夫、どうして黙っているの?」

殴られたところに冷したタオルを当てて我慢する建夫に、「あんたの方が体も大きいんだから、やり返したらいいのに」と佳代子がけしかけるが、道を外しかけていた自分を弟子として置いてくれた柳本には逆らえない。

「いや、でも……」と建夫は堪える。
だが、佳代子は遠慮しない。

「あんたはあんたよ。師匠とか弟子とかは関係ない。理屈に合わないことまで許しちゃダメよ」

世話になっている師匠の柳本か、体の繋がりのある佳代子か。
建夫の気持ちはどんどん佳代子の方に傾いていった。

殺意

「ねえ、どうにかならない?」

湯船に入っていると、体を洗っていた佳代子が吐き捨てるように言った。

「だから旦那に追い出されるんだ、だって。関係ないじゃないの! 本当に頭にきちゃう」

原因はちょっとした言葉の行き違いだった。
夕食時、日頃から互いにいい感情を持っていない柳本と佳代子は売り言葉に買い言葉で喧嘩になってしまった。

怒った佳代子は後片付けもせず、出て行ったが、柳本は収まらない。

一升瓶を取り出すと、湯飲み茶碗にそれを注ぎ、グイッと呷り、「どうしてもって言うから、ここに置いてやっているんだ。なのに、ただ飯食って、文句ばっかり言いやがって」と声を荒げる。

そして、ふらふらになりながら、もう一杯、もう一杯と盃を重ね、「柳本さんだとよ、生意気な。俺には清三って立派な名前があるんだよ」とこんなことまで言い出した。

「坊主憎けりゃ、袈裟まで憎し」、酒の酔いが回り、思い浮かぶもの、感じたもの、何でも気に入らないと、愚痴は止まらない。

師匠のあまりの乱れように、建夫は「もう分かりましたから」と一升瓶を取り上げたが、「何が分かったんだ?」と、今度は建夫に絡み出す。

「あ、いや」と口ごもると、「生意気言ってんじゃねえよ」と手元にあった台布巾を投げつけてきた。

そして、「おい、あんな女のどこがいいんだ? チンポを遊ばせてくれたって、何人の男と遊んだか分からないぞ、あの女は」と、言ってはいけないことまで言い出した。

これまでは何を言われても堪えてきた建夫だが、聞くに堪えない言葉の連続に、抑えていたものが弾け、「いい加減にして下さい!」と言い返した。

すると、一瞬だけ正気に戻ったような顔になったが、完全に酔っぱらっているから、始末に負えない。
「何だ、お前、俺に文句があるのか?」と立ち上がり、胸倉を掴んできたが、足がもつれる。

「あ、危ない」と建夫は体を支えたが、柳本は「お前はもう少し見込みがあると思ったが、ダメだな」と悪態をつき、「どうせ、お前は俺を見捨てるんだろう? 早くあの女と出て行け!」と怒鳴ると、建夫の手を振り切り、再び一升瓶に手を伸ばしたところで、畳に突っ伏し、そのまま眠ってしまった。

(いくら親方でも、あの言い方はないだろう……)
酔いつぶれた柳本を寝室に運んだ建夫は、酷く不愉快な気持ちになっていた。

あのまま悪い仲間に加わっていたら、今頃はヤクザ者になって、警察の厄介になっていたことだろう。

そんな自分をここまでしてくれた親方だから、これまではどんな叱られ方をされても堪えることが出来た。
だが、あんな言い方は許せない。

畏敬の念を持っていた柳本は、もはや憎しみの対象となってしまった。


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凶行

湯船から出た佳代子の背中を流しながら、建夫は佳代子に聞き返した。

「どうにかならないかって、どうして欲しいんだよ、佳代子さん?」

「顔も見たくないってことよ」
「へえ、そんな簡単なことでいいの?」

タオルで背中を擦る手の力は強いが、声は妙に冷ややかだった。
佳代子はハッとして、振り返ると建夫の目は冷たく醒めていた。

佳代子は居間を飛び出したが、自分の部屋に居ても、柳本と建夫のやり取りは聞こえていた。
だから、建夫が嫌な気持ちになっていたことも分かっていた。

しかし、彼の顔にはそれ以上のものを含んでいた。

胸騒ぎがした佳代子は「いや、そんな、あの、ほんの冗談よ」と取り繕ったが、「いいよ、遠慮しなくても。ロープで縛って、山の中にでも捨てくるから」と言う。

そして、手にしていたタオルをギュッと絞ると、「じゃあ、早い方がいい。これから、ちょっと片付けてくるか」と風呂場から出ようとした。

慌てた佳代子が「ま、待って」と建夫の手を掴んだが、「心配するなって」とその手を振り解くと、濡れた体のまま飛び出し、奥の寝室で酔いつぶれて寝っている柳本の首を濡れタオルで絞め殺してしまった。

止める間もない一瞬の出来事だった。

永遠の逃亡

午前5時を過ぎた頃から、旅館の前には複数台の警察車両が集まってきた。

「間違いないだろね?」
「間違いありません」

刑事課長の念押しに、通報した旅館の女将と部屋付の仲居が手配書をぎゅっと握りしめていた。

遂に突き止めた。
「行け」の号令を待っていた刑事たちが部屋に踏み込んだ時、建夫と佳代子はもうこの世の人ではなかった。

二人は裸で体を交えたまま紐で腰をしっかり結び付け、事切れていた。
枕元には湯飲み茶わんが転がっていた。

「間に合わなかったか」とため息が漏れる中、刑事課長は「現場を荒らすな。茶碗は鑑識に回せ」と冷静に指示を伝えていた。

「何があったんですか?」

騒ぎを聞きつけた客たちは浴衣姿のまま部屋を取り囲んでいたが、そこに到着した警察医が「午前5時33分、被疑者死亡」と死亡を確認した。

後に分かったことだが、二人は、佳代子が工房近くのトリカブトを煮詰めて作った毒を飲んで、この世を去っていた。

やっと終わった。もう逃げなくていい……

部屋から運び出される遺体からそんな声が聞こえてくるような結末だった。




(終わり)





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