ランジェリーの誘惑〜共演者とのキョウエン(狂宴)-7話
作家名:夢野由芽
文字数:約3030文字(第7話)
公開日:2020年4月6日
管理番号:k016
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ふたりを寝室に通した結衣は、これから起きようとしていることが容易に想像できた。
(こんなに早く実現するなんて。これも源さんの計画通りなのかしら。)
そもそも初めての客を寝室に通すという、常識ではありえない行動を結衣がとったことに対して、源は何も言わなかった。
ただ、寝室とはいえ、防音設備が施されている部屋で、源がギターの練習や作曲ができるよう、それなりのスペースも取ってあった。
キングサイズのベッドにベッドカバーをかけてしまえば、数人の客を招いてのミニコンサートが開けるほどの広さもあり、そこに小さなテーブルと2組の椅子が置かれていた。
いきなり、リビングを通り抜け、その奥にある寝室に通されるという異常事態に、来客である槍下も古岡も何一つ異を唱えないのも、もしかしたらそこが寝室と気づいていないからかもしれなかった。
けれど、もしも結衣の来客を寝室に通すという行動さえも受け止めているとするなら、それは3人の中ではあらかじめ予想されていた範囲内、ということになるではなかろうか。
ただ、結衣には今起きている出来事が源の計画なのかどうなのかなど、どうでもよかった。
とにかく、今、結衣自身が一番願っていたことが実現しそうなのである。
よく考えれば源の策略にまんまと引っかかったのかもしれなかった。
おそらく源は、あんな写真の入ったスマフォをわざわざ結衣の目につくところにわざと忘れ、結衣が中身を見るように仕向け、結衣の欲求不満や潜在していた複数プレーへの興味を煽ったのに違いない。
たとえそうだったにしても、今の結衣には源に騙されたという意識はなかった。
言ってみれば、自分からは言い出せなかったことを口にするチャンスを源の方から与えてもらったことになるのかもしれなかった。
自分自身の願望なのか、それとも妄想なのか、
いずれにしても最近の結衣の頭の大部分を占めていたことが現実になるかもしれないのだ。
(それにしても、まさか、その相手がヤリPだなんて。
源さんはわたしとヤリPの仲を知っていて、ヤリPを呼んだ?
もしかしたらバレてる?
なぜ?
それとも、偶然?
源さんなりにわたしの好みを考えてくれた結果?)
しかし、それを考えている時間はなかった。
現実に、目の前に、自分の元セフレとも言えるヤリPがいるのだ。
結衣の脳裏に、前戯もそこそこに、半ば強引にバックから責め立ててくる智久の、
太くごつごつしたペニスの感触が蘇ってきた。
(いやだ、わたしったら。)
身体の奥の方が一瞬キュンとなって、
何かがあふれ出してくるような感覚に結衣は慌てた。
(でも、欲求不満なのは確かだもの。仕方ないわ。)
そんな結衣の当惑とは関係なく、源はふたりに声をかけている。
「じゃあ、ふたりはこっちに座って。」
源は槍下と古岡のふたりを部屋の隅に置かれているベッドの端に座らせた。
「結衣。一応、簡単に紹介しておこう。
こちら、俳優の槍下智久君。
結衣はドラマでも何度か共演しているし、それ以外のキョウエンもあるだろうから、紹介するまでもないと思うんだけど、今までとは違う形でのキョウエンシャとなるわけだから、一応ね。
それからこちらが古岡里帆さん。
一時期、結衣に似ているということで話題にもなったことのある女優さんだ。
ぼくのコマーシャルでの共演者でもある。
今回は、新たなキョウエンということで、お誘いした。
ちなみに、結衣とは面識はあるのかな?」
「あ、ドラマでの共演はもちろん、直接お会いするのは初めてですけど、わたし、デビューの前から結衣さんには憧れていて。
今回、源ちゃん、いえ、源さんから声をかけていただいて、とっても喜んでいるんです。」
「あ、わたしも。ドラマ、何度か拝見しています。初めまして。
あのコマーシャルも、シリーズ化されていて、いつも楽しみにしているんですよ。」
「あ、ありがとうございます。光栄です。そんな風に言っていただけるなんて。
これからもよろしくお願いします。結衣さん。」
里帆は心の底から喜んでいるような笑顔で深々とお辞儀をした。
結衣は慌ててお辞儀を返しながら、改めて里帆の顔をじっと見た。
(そう言われてみれば、似てる、のかしら。)
「ぼくは里帆さんとは何度かご一緒させていただいてます。」
槍下は里帆を見ながら言った後、結衣の方に向き直って改まって言った。
「結衣、さん。お久しぶり、です。」
「あ、智久さん。お久しぶりです。
コードイエローではいろいろとお世話になりました。」
結衣は、久々の対面を装って、智久とあいさつした。
「ぼくもあのドラマも、映画の方も見させてもらったよ。
テレビの方も映画の方も、キョウエンシャも最高のキャスティングだったよね。
ぼくもいつか映画の方でも槍下君とキョウエン出来るといいんだけど。」
「わたしもコードイエローの大ファンなんです。
槍下さんのニヒルな演技と結衣さんの必死さが伝わってくる演技。
素晴らしかったです。
でも、あのシリーズのキョウエンシャの方々、それ以降、ものすごい活躍ですよね。
ほら、野田恵梨香さんなんて、モロツヨシさんとのドラマ、【大変愛〜僕を咥える君と】とか、最近じゃMHKの朝ドラ【エスカレート】とか。」
「キョウエンした人の活躍は、見ていてこっちまでうれしくなるよね。」
源は嬉しそうに話を続けている。
(源さんはなぜ、キョウエンという言葉にこだわるのだろう。
共演…。饗宴、競演、供宴、協演…。
協演?ジョイントでセッションか何かをやるつもりなのかしら。)
「このくらいにしておかないと自己紹介だけで夜が終わってしまいそうだ。」
自分が停滞感を生んでいることに気づいた源が笑いながら言った。
源は結衣にも椅子に座るよう促すと、自分もその隣の椅子に座った。
「あ、そうでした。源さん。これ、持ってきました。」
里帆がワインを源に手渡す。
「お、いいね。さっそく乾杯しよう。結衣。グラスを4つ。」
「あ、はい。今。」
「あ、わたしが取りに行きますよ。結衣さんはこちらにいてください。」
里帆は立ち上がろうとする結衣を制し、寝室を出て行った。
「結衣さん。これ、ぼくからのプレゼント。
気に入ってもらえるといいんだけど。」
里帆が出ていくそのタイミングを待っていたかのように、智久は手に持っていたプレゼントを結衣に手渡した。
「あ、ありがとうございます。」
結衣はプレゼントを目の前にかざした。
よく見ると、ラッピングには小さな文字で「インナージュエリー」と書かれている。
(インナージュエリー?下着?
付き合っていたころだって、下着なんかプレゼントしてくれたことなんかなかったのに。いったいどういう風の吹きまわし?
しかも、結婚している女性に、その夫のいる前で下着のプレゼント?
普通じゃありえないんじゃない?)
結衣は源の顔を見てはその反応を伺っていた。
自分の目の前で、
自分の妻の、かつての共演者が、
自分の妻に下着をプレゼントしているのを見ても、
違和感をもたない夫、とは?
そして夫の目の前で、
その妻である、かつての共演者に、
下着をプレゼントすることに、
違和感をもたない男、とは?
つまりは、そうした違和感をもたないような関係が、
源と智久の間には既にあるということなのだ。
あるいは、今からはそうした関係が生まれようとしているのだ。
それにしても夫、源の思惑が全く見えてこない。
何かを進めるにしても、何もしなさすぎではないのか。
智久は源が最近出したアルバムについて、熱心に質問していた。
その様子からは、ふたりの間に仕事以外の何かがあるとは思えなかった。
(続く)
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