アナルファンタジー(1)契機-第6話
作家名:優香
文字数:約4440文字(第6話)
公開日:2020年3月14日
管理番号:k021
「こんなに美人でスタイルが良くて聡明そうで、セックスでも感じ易くて充分満足していそうな貴方が、どんな悩みがあるんだね?人間関係とか、仕事の悩みではないよね?恋人との間の悩み事かね?多分セックスの事だね?普通に話せない、ホテルでしか話せない事なんだから」
彼が抽送を中断して、私にキスを繰り返し、髪を撫でながら、微笑んだ。
なんて優しい瞳なんだろう。
この人になら言える。
この人なら、応じて、私の肛門をちゃんと愛してくれる。
私は両手で顔を覆って眼を閉じた。
「わ、私っ。お、お尻がっ、お、お尻の孔がっ、か、感じるんですっ。で、でもっ、だ、誰にも言えなくてっ。あ、貴方なら、見も知らぬ人だから。言いますっ。わ、私のっ、お、お尻の孔をっ、あ、愛して欲しいんですっ」
彼の裸身が一瞬びくっと震えたのを感じた。
「それで、さっき、私がお尻の孔を口で愛撫しただけで、異常なイキ方をしたんだね?」
「は、恥ずかしいっ、お気づきだったんですねっ?」
気付かれていた。
しかし、それはそれで嬉しかった。
もうこの人に隠す事など何もなかった。
「普通のセックス以上に感じるのかね?どうしてお尻の孔で感じるようになったの?」
「こ、恋人がいます。で、でもっ、か、彼と知り合う前に、オ、オナニーしてる時に偶然。お、お尻の孔が感じるのが解って。は、恥かしいっ。ず、ずっとっ、お、お尻でオナニーしてたんです。こ、恋人が出来て、ふ、普通のセックスでもイクようになったのですけど、や、やっぱり物足りないんです。か、彼はしてくれなくて、でも嫌われるかも知れないと想って、い、言えなくてっ」
私は泣いていた。
生まれて初めて、自分の忌まわしい性癖を、他人に打ち明けた。
それだけで少し、救われたような気がした。
この紳士が、肛門でセックスするのを拒否したとしても、誰かに話せた、それだけでも救いだった。
「そうなんだ?気持ちは解るよ。でも悪いけど、貴方の期待には添えない」
私はその言葉にはっとして、眼を見開いた。
「ご、ごめんなさい。や、やっぱりっ、わ、私が異常なんだわっ。ご、ごめんなさいっ。ああっ、は、恥かしいっ、い、言わなきゃ良かったっ」
私は狂ったように叫んで泣き叫んだ。
《ほら、だから言ったのよ。期待するなって。断られたらもっとショックを受けるって》
もう一人の私が嘲笑った。
「ご、ごめんなさいっ。わ、私っ、ど、どうかしてたっ。か、彼を裏切ってっ、み、見も知らない貴方と、こ、こんな事してっ。ああ、わ、私っ、ど、どうしてっ?」
「落ち着きなさい。私は貴方のような女性を、アナルセックスを好む女性を何人も知ってる。それどころか、排泄物、おしっこやうんちをするのを男性に視られて感じる女性も、世の中に沢山いるのも知ってる。だから、貴方は自分を卑下する必要はないんだ」
「ほ、本当ですか?お、お尻でっ、セ、セックスする女性っ?お、おしっこやうんちをする処をっ、だ、男性にっ?み、見られて悦ぶ女性もいるんですか?それも沢山?」
私は酷く衝撃を受けた。
インターネットで検索して開いて観た、アナル セックスやスカトロをテーマにしたビデオの女性は、確かに存在したのだ。
実体がない訳ではなかったのだ。
あの種の映像が世の中に出回っているという事は、それを好む人達がいる事の証明だった、そんな単純な事実を今更のように知らされる。
私は彼に排泄を視られたいとは、想った事がなかった。
ただ、官能の最大の源泉である肛門を愛撫されたかっただけだった。
「信じられないかも知れないけど、世の中正論ではすまない部分が沢山あってね。私は、い・ま、貴方の肛門を愛撫する事は出来ない。でも、何時か、また貴方に出逢う事があったら、貴方の肛門を愛撫して、死ぬ程悦ばせてあげたいと想うし、私自身悦んでそうしたいと想う」
彼は一瞬、何かに耐えているような表情をしたが、私はそれを詮索する言葉を持たなかった。
「その代わり、今はこのまま、貴方を生まれて初めて、というくらいイカせてあげる」
彼が優しく微笑むと、ゆっくり動き出した。
長い時間会話していたのに、彼の勃起はその勢いを失っていなかった。
健二とこんな事が何度かあったが、大抵力を失って抜け出て、愛液塗れの男根を私が指と口で愛撫して勃起させなければならなかったので、それが不思議だった。
「す、すごいのっ。ほ、本当にこんなの初めてっ。も、もうっ、イ、イクわっ、ああっ、イ、イクッ、イクッ、イクーッ。死んじゃうっ。く、狂っちゃうっ。あ、貴方ももうっ、イ、イッてっ。も、もうだめっ。す、すごいっ、イ、イクーッ、イ、イクーッ、イクーッ」
先程同様、私の数カ所の性感帯を同時に刺激し続けていた彼に、私が半狂乱になって叫ぶと、彼はやっと粗い息を吐きながら、さっきまでの私に快感を送り込むだけの穏やかな抽送ではなく、自分の射精に向かってであろう、激しい抽送を始めた。
「せ、精液をっ、の、呑んでくれるかね?だ、出すよっ」
「ああ、は、はいっ。わ、私のお口にっ、い、一杯っ、だ、出してっ。あ、貴方のっ、せ、精液っ、の、呑ませてっ」
私は錯乱状態に陥って、彼の要望に応えようと、口を大きく開いた。
自分でも不思議だった。
健二とのセックスでも、生理の時や妊娠の危険のある時は、手と口で健二を射精させる事が何度もあったが、口で受け止める事はなかったし、まして呑もうとした事もなかった。
また、願いもしなかった。
健二も、私に遠慮してか、それ以上要求する事もなく、私の腹部や乳房に精液をぶちまけるだけだった。
この人に対して、それを受け容れ、願望として言葉にしたのは、私が初めて恥ずべき性癖を告白した相手だったからか、それとも健二よりもはるかに私をめくるめく官能の世界に導いてくれているからか、それは解らなかった。
ただこの見知らぬ紳士に対して、私の心の奥底に潜んでいた欲望を露わにする事が出来たのは確かだったし、それが出来た事で純真になれたのだった。
「イ、 イクッ、イクッ、イクーッ」
「で、出るぞっ。ああ、す、すごいっ」
私が裸身を激しく痙攣させ、エクスタシーの波を被ってのけぞった瞬間、彼の勃起が私の膣粘膜から抜け出、裸身を翻した彼が私の肩先に膝を付いたのを感じた。
慌てて愛液が滴る勃起を手にして口元に寄せ、激しく扱き立てる。
次の瞬間、私の舌の上と口の中に、独特の臭気を放つ液体が噴出した。
私はむせそうになるのを堪えて、精液を受け止め、呑み込み、突き付けられた彼の勃起を口に含んで、くぐもった獣のような呻き声を上げながら唇で扱き、口の中に絞り出される一滴まで呑み込んでいた。
「う、生まれて初めてっ、せ、精液をっ、お、お口でっ」
私は未だ続く裸身の痙攣に声を震わせた。
「ありがとう。私は貴方の要求に応えなかったのに、貴方は私の要求に応えてくれた。何て素敵な女性なんだ。私は、貴方に恋しそうだ。でも、い・ま・は、事情があってね。本当は貴方をこのまま私の物にしたいぐらいなのだけれど」
彼が私を抱き起してくれて、二人でシャワーを浴びる。
私は、適わないまでも、私の告白を聴いてくれて、私と同じような女性が沢山存在する事を教えてくれた彼に、感謝を込めて彼の男根を再び口に含んで愛撫した。
「嬉しいけれどね、貴方が余りに魅力的だったから、頑張って精魂尽くしてしまった。ありがとう。気持ちだけで」
彼はそういうと、私を浴槽の縁に坐らせ、私の女性器を指と口で愛撫し、軽いエクスタシーを見舞ってくれた。
「帰った方が良いんだろうね?送って行くよ。自宅までは嫌だろうから、最寄り駅まで」
着替えもそこそこにホテルの玄関でタクシーを拾い、彼は送ってくれた。
所詮行きずりの相手だったが、彼になら、名前も素性も打ち明けても良いと想った。
私の性癖を告白し、私のような性癖を持つ女性が沢山存在する事を教えてくれ、そしてもしかして何時か逢う事があるなら全て受け容れて応じてくれると言った彼なら。
ずる賢い考えだが、健二に告白して嫌われても、彼がいれば良いとも想った。
「何時かまた、貴方には巡り逢えそうな気がするよ」
最寄りの駅までタクシーが近付いた時、私は決心した。
「運転手さん。二つ目のカーブミラーのある交差点を左折して下さい」
彼が私を振り向いた気がしたが、私は正面を見据えていた。
「そこのマンションの前で停めて下さい」
タクシーが停まり、ドアが開いた。
「この302号室が私の部屋です。何時か貴方が」
彼は優しく微笑んで、私の唇に軽いキスを見舞った。
ドアが閉まり、タクシーが走り去る。
私はタクシーが見えなくなるまで見送った。
それ以来、私は健二が私の性癖に気付いてくれるよう、今まで以上に一層彼にセックスを求めるようになった。
一晩に何度も、泊まる日は朝まで、彼を求めた。
何度も告白しようかと悩んだ。
何度もセックスの最中に、言葉にして求めようとした。
しかし、どうしても出来なかった。
最初のセックスが普通だったからだろうか?
あの紳士のように、知り合ってすぐ、告白していたら。
だが健二はそんなタイプではないようにも思え、結局自分から求める事は出来なかった。
私は健二が、何処からか新たな情報として得て、私に試してみようとする時を待った。
彼は私の性癖に気付くどころか、余りの私の性欲の激しさに呆れたのか、私の部屋から次第に遠のくようになっていた。
会社でも部署が違っていたので、顔を合わす事もほとんどなく、携帯を鳴らしても出なくなる事が増え、メールをしても返事が疎かになり始めた。
そして私はある夜、会社の近くの繁華街で、彼が別の女性の肩を抱いて歩いているのを見かけたのだった。
その時、私は彼を責める気持ちは起こらなかった。
またオナニーの日々に戻れば良い。
それだけの感情しか湧いて来なかった。
しかし、彼と顔を合わせるのは嫌だった。
私がしつこいほど、セックスを求める女だと、彼は知っているからだった。
何時、彼の口からその事が洩れて、友人や同僚の耳に入るかも知れない。
彼に私の性癖を告白しなかったのは、正解だったと想えるようにさえなった。
私は会社を辞め、東京から少し離れた地方都市に引っ越し、そこで就職した。
最大の名残りは、あの紳士が、私が彼に教えた部屋に住んでいる間に訪問してくれなかった事、そして新しい住処を知らせる手段がなかった事だった。
「早苗さん。こんにちは」
事務所のドアを開け、上品な美貌に笑みを浮かべて入って来たのは、先生の奥様だった。
「あら。奥様。いらっしゃいませ。先生、お出掛けですよ。でも大した用事じゃないっておっしゃってたから、帰って来て戴きましょうか?」
四〇代半ばの先生と一〇歳違いだと聴いていたから、三〇代半ばであろうが、とてもそうとは思えない、私より少し年上ぐらいにしか見えない若々しい彼女はデパートの買い物袋をソファーに放り出すと、ブランド品であろうおしゃれなデザインの、濃いラベンダー色のタイトスカートの太腿まで露わにして自分の四肢をソファーに投げ出した。
(続く)
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