アナルファンタジー(1)契機-第2話
作家名:優香
文字数:約3710文字(第2話)
公開日:2020年2月28日
管理番号:k021
その夜以来、私は新しいオナニーのパターンを覚えた。
化粧品の瓶を膣粘膜と肛孔に同時に挿入し、それをリズミカルに膣孔と肛孔で締め付けながら、時には二つの容器を手で揺すったり、激しく出し挿れしたりしながら、或いは菱形に折り曲げた両脚の踵で容器を押さえて、腰を前後上下させながら乳房とクリトリスを愛撫するという、独りで出来る範囲での究極とさえ思えるオナニーを想い付き、それによる激しいエクスタシーを何度も味わい、それを毎晩のように繰り返す生活を続けた。
また浴室の壁に取り付けてある鏡を外してベッドに運んでその上にしゃがみ、勉強机のスタンドで恥部を照らして、化粧品の容器を咥え込んだ二つの媚孔を映し、その淫猥な光景に一層官能を刺激されてオナニーをするようにもなった。
化粧品の容器を抜き去った後の、鮮やかなピンク色した腸粘膜まで覗かせ、妖しく口を開いてひくつく肛孔は、一層何かの刺激を求めているようで、私の理性を狂わせ、肛門でのエクスタシーの虜になるのに充分魅力的な存在だった。
しかし勿論、そこが排泄の為の器官である事を、日々の生活で認識せずにはいられなかった。
肛門に挿入した指や化粧品の容器が、大抵、肛門内に溜まった排泄物で汚れるからであった。
その事が、私に負い目を持たせ、通勤の途中、あるいは職場で出会う、健全なセックスを愉しんでいるであろう女性に対して、ある種の劣等感を抱くようにさえなった。
インターネットでも調べてみた。
《肛門》《排泄》《オナニー》等で検索してみる。
夥しい数のホームページがあり、片っ端から開いて観る。
肛門をアナル、排泄の総称をスカトロというのも知った。
修正映像ではあるが、アナル セックスを扱った無数の映像を幾つも観た。
排泄をビデオに撮られる女性の映像も沢山観たし、驚いた事に自分の排泄物を乳房や女性器に塗り込めたり食べたり!他人の排泄物を肛門から直接口で受け止めて食べたり!する女性も観た。
また、アナル セックスをテーマにした掲示板も幾つか開いて、書き込みも読み、自分でも、書き込みをしてみた。
「私は性器よりも肛門でオナニーしてエクスタシーを覚えます。私は変態でしょうか?」
しかし、回答に当たる書き込みは全くなかった。
私は大学のゼミの教授が言った、“インターネットの向こう側は実体がなく、架空である”
という言葉をずっと信じていた。
従って、ビデオの中でアナル セックスをしたり、排泄を曝したりする女性は、勿論お金を貰っているのだから、それはある種の演技であり、その女性の本質ではない、と理解していた。
結局それらは、私をただ直情的に興奮させるだけで、私の疑念を晴らすものではなかったのだった。
私は自己不信に陥りながらも、相変わらず肛門でのオナニーにのめり込み、鏡を遣った一層変態的な行為に及ぶようになった。
オナニーの際に肛門に挿入する指や容器が腸内に溜まった排泄物で汚れるせいもあったので、オナニーの前に必ず排泄するようになった。
浴室の床に外した鏡を置き、その上で、鏡に映しながら排泄をして、まるで別の生き物のように蠢きながら汚物を排泄する肛孔を視つめながらオナニーをして、強烈なエクスタシーを覚えるようにもなった。
以前女友達との秘密のワイ談で、「愛する女性の体内に存在しているなら、おしっこもうんちも愛せるのだ」と叫んだ男がいたとかいなかったとか、というのを想い出した。
しかし自分自身のものだからか、いや、恐らく他人のものであろうとも、排泄物そのものには、さしたる興味も、勿論愛着などもなかった。
むしろ、子供の頃から植え付けられた観念、学校で習ったその成立過程、形状、臭い、所謂その存在自体が忌まわしい物でしかなかった。
だから排泄した後、当然のように触れもせず、必要以上に視つめる事もせず、流していただけだった。
ただその醜い固形物は私の愛すべき肛門を刺激し、拡張させ、収縮させて、また排泄の快感を覚えさせる存在である事は確かであり、肛孔を圧し開いて排泄されようとしている瞬間に、肛孔の縁に添えた指で何度か触れてみた事はあった。
しかしやはりそれ以上でも以下でもなかった。
ある時は三日も四日も排便を我慢して、巨大な大便を排泄する際に妖しく蠢きながら拡がる肛孔を視てオナニーしたり、またある時は、シャンプー液を指に塗して腸粘膜に塗り付けて浣腸を施し、その排泄の様を観察しながらオナニーしたりした。
さらに想い付くままに、シャワーのノズルを外して、肛門に挿入して噴き出すお湯で浣腸し続け、同時に排泄を繰り返しながらオナニーしたりもした。
行き止まりかなと思える強い抵抗があるまで挿入したホースを抜き出してみると、何と五〇センチ近くもあった事に驚くと同時に、一層妖しい感覚を覚えるようにもなった。
私の目覚めた肛門での性欲が、一般常識から酷くかけ離れているという事実、忌まわしい性癖であるという観念は勿論、普通に育ち、普通に教育を受けた私の心に内在してはいたのだが、その時だけはその理性を忘れて没頭した。
しかし、エクスタシーから覚めたら、やはり背徳の快楽を貪っている自分に対して酷く落ち込むのが常だった。
私だけなのだろうか?
他にも、私のような女性がいるのだろうか?
いるとしたら、そんな女性を愛し、肛門を愛撫する男性がいるのだろうか?
ホモの男性が肛門でセックスする事は知識として持っていたが、それは男性器を刺激する女性器の代用としての存在でしかなく、挿入される方の男性は肛門で快感を覚えたりしないのではないか?
しかし、アナル セックスや排泄を扱った映像がインターネットで氾濫しているという事は、当然それを観て愉しむ人達がいるのだから、そんな多くの人達も同じ性癖を備えているのではないか。
私のこの性癖の、精神的、肉体的な遺伝子は、何処に存在し、何処から伝えられたのだろうか?
厳格で常に理知的だった父母がそうだったとは考えられない。
両方の祖父母は?
やはり想像も付かなかった。
私の、その落ち込みは、人間が最も恥ずべき排泄行為を行う為にしか存在しない器官である肛門で快感を覚え、オナニーで快楽を貪る人間など、世界中で恐らく自分だけであろうと想い込む程、悲劇的なものだったのだ。
私が肛門でのエクスタシーを覚えてから、三カ月程経った頃、恋人が出来た。
大学を卒業して就職した広告代理店に入社して五カ月の研修を終え、マーケティング部に配属された私は、営業部や企画部の社員の依頼で、市場調査など、様々な資料を準備する作業に追われる毎日を過ごしていた。
他の部署もそうかも知れないが、三時間ぐらいの残業は当たり前で、部屋に戻った時は、もうオナニーを愉しむどころか、洋服を脱ぐ気力もなく、缶ビールを一本一気に呑んでそのままベッドに倒れ込み、朝まで熟睡する、というような生活が始まっていた。
そんなある日、珍しく残業がなく、早く退社した私は、久し振りに部屋でオナニーを愉しもうと考え、帰途に着いた。
「小篠さーん。待ってっ」
地下鉄の駅へ降りる階段に差し掛かった時、後ろから私を呼ぶ声がした。
振り返ると、企画部の先輩の葛城健二だった。
「丁度良かった。貴方を探してたんだ」
彼は私の前まで走り寄ると、両膝に手を突いて、粗い息を収めようと何度も深呼吸を試みながら、私を見上げた。
「貴方が、急な残業してまで用意してくれた消費者アンケートのデータのお陰で、おれの案が部長に認められたんだ。多分今度のプレゼンも成功すると、部長も言ってくれた。だから、お礼に食事をご馳走したいんだ。突然だけど、今から付き合ってくれないかな?」
「ああ。お、おめでとうございます。でも私、そんなに大した事をした訳じゃないし。当たり前の仕事をしただけだし。そんな食事なんて」
私は日頃から、彼の事を好ましく感じていた。
仕事が出来て、人当たりが良くて、礼儀正しくて、私の部署でも彼が来るのを楽しみにしている先輩の女子社員もいたし、お昼時のひそひそ話でも、彼に誘われたら何処にでも付いて行くという人もいたほどだったし、大胆にも資料作成を依頼に来る彼に、自らデートの申し出をする先輩もいるくらいだった。
「いや、突然で迷惑なら仕方ないけど、おれ、前から小篠さん好きだったし、実は仕事のお礼だっていうのは、こじつけなんだ」
そうはっきり言って爽やかに微笑む彼に躊躇しながらも、彼の誘いに応じていた。
彼のような素敵な男性に、好きだって言われて、悪い気はしなかったし、一瞬私は、職場の女性達の、角の生えた顔を想い浮かべたが、彼に並んで歩き出していた。
そんなに高級ではないが清潔感があって感じの良い居酒屋に入り、お酒と肴を注文する。
「先輩。私のお陰だって言いましたよね?一杯食べちゃいますよ。お腹空いてるから」
「ああ、どうぞ。牛のように食べても良いよ。お酒もね」
二人で笑い合って視線が重なった瞬間、私はこの人と深い仲になるだろうと感じた。
しかしその嬉しさを覚える心の奥底で、私が肛門でエクスタシーを貪る女である事を、彼が受け容れてくれるのだろうか、それ以前に私が彼に打ち明けられるのだろうか、という戸惑いも、やはり瞬間的に覚えたのである。
(続く)
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