アナルファンタジー(1)契機-第1話
作家名:優香
文字数:約5080文字(第1話)
公開日:2020年2月27日
管理番号:k021
私は、小篠早苗。24歳。
高木雄介司法書士事務所で、事務をしている。
事務とは言っても、私の仕事は事務所の掃除と電話番、そして時折先生を訪ねる来客にお茶を出すぐらいで、後は暇を持て余して、先生の許可を得て、好きな小説を読んで一日を終えるのが常だった。
ここで働くようになって、半年経った。
恋人と訣別した悲しみも勿論癒えてはいなかったし、彼と過ごした日々、彼と繰り返したセックスのシーン、その悦びを想い出さずにはいられない時もあったが、私自身が選んだ道だからと戒め、その想いを振り切っていた。
生まれて以来平凡な幼少期、思春期を過ごし、取り立ててイレギュラーのないままに高校を卒業し、東京の女子大に入って同様にイレギュラーのないままに卒業して、中堅の広告代理店に就職した。
入社して半年、OL生活にも少し慣れて生活に余裕が出来た頃、呑みに誘われた三歳上の先輩に告白されて愛し合うようになり、実家で両親と暮らしている彼の方が、週に三度くらいの頻度で私の住むワン ルームに泊まりに来るようになった。
私は彼が二人目だった。
初めてのセックスは、大学時代の、良くある合コンで知り合った大学生だった。
セックスに特別な思い入れがある訳でもなかったし、だからと言って、処女を頑なに守る、あるいは逆に投げやりになって喪失するような、原体験も志向もあった訳ではなかった。
周囲の女友達は当然のように処女ではないようで、セックス フレンドとのフランクなセックス、或いは恋人との濃厚なセックスを満喫していたようだが、別にそれを羨んだ訳でもなく、また彼女達から勧められた訳でもなかったが、何処か他人事のように、処女じゃなくなった方が良いのかな、という程度の想いはあった。
だから酔いに任せ、誘われるままにホテルに入っただけだった。
痛みも感激もそれ程なく、シーツを染めた鮮血を視て、《ああ、私は処女じゃなくなったのだ》というぐらいにしか感じなかった。
従って相手の男が、私が処女であった事に対して、酷く申し訳なさそうに何度も繰り返し詫びていた事が不思議に思えたくらいで、その彼も私のその際の態度が余りに淡泊だったからか、二度と誘って来る事はなかったので、現在ではその相手の名前も忘れてしまっていた。
そして私は、それから二人目の彼と知り合うまでに、男性とのセックスではなく、オナニーで快感を覚えるようになった。
セックスでの快感を覚える前にオナニーで快感を得るのは、大学時代の女友達もそう言っていたから不思議ではないのだろうが、私は心の何処かに違和感を抱いていた。
大学時代のワイ談仲間達と違って、セックスが出来ないせいでの欲求不満を解消する為のオナニーではなかったからだろうか。
事実欲求不満を意識した訳でもなかった。
初めて男性を経験した時のように、ただ何となく、無意識に始めたと言う程度だっただろうか。
だからと言って、一度覚えた快感を何度も求めるのは、それこそ人間の性であっただろうと想う。
小説というのは、どんなに硬そうな内容のものでも、男女の愛情表現が必ずあり、愛情表現がある限りは、その延長として性描写がある。
或いは性描写がなくても、それをイメージさせる個所がある。
私はむしろ露骨な性描写よりも、セックス シーンをイメージさせられ、私の少ない知識ながらそのセックスの場面を自分なりに想像してクリトリスや女陰の襞を指で愛撫するのが好ましかった。
中学生、高校生の頃、お風呂で乳房や女性器を洗う際に触れて、快感を覚える事はあったが、それ以上でもそれ以下でもなかった。
そしてある小説の一文で具体的に性的な官能を覚え、初めて湧き起こった性欲に任せてオナニーした。
その小説の内容は次のようなものであった。
勤務する会社の重役の娘と結婚話が決まった主人公のエリート サラリーマンは、かつてからの行き付けのラウンジのホステスを愛し、またホステスも彼を表向きではそっけなく接してはいたが愛していた。
彼から密かに愛されているとは気付かないホステスは彼を忘れようと独り旅行に出る。
その旅先での夜、まさに出張中の彼と偶然遭遇し、一緒に呑み始めた二人、偶然とは想えない出遭いに因縁めいた運命を感じて告白し合い、ホテルでセックスする。
そのセックス シーンとは、「一夜限りと暗黙の了解の内に、朝まで互いの愛情と肉体の全てを激しく貪り合う」という記述のみで、その後段落が変わり、東京での彼の職場でのシーンになる。
私は深いため息を付いて本を置き、そのシーンを拙い知識でイメージしているうちに、性欲が湧き起こって来たのだ。
元より裸族の私は、部屋にいる時は一年中全裸である。
仰向けになって乳房をゆっくり揉んでみる。
「互いの愛情と肉体の全てを激しく貪り合う」シーンをイメージしながら。
貪るという表現からして、肉体の全てを口に含んで舐め合う、吸い立て合う、髪の毛一本、脚の指先までを口で愛撫する、そんなシーンをおぼろげなままでだが、想像してみる。
掌で乳首が勃起して転がった。
《ああ、気持ち良い》
片手を下腹部に伸ばし、軽く恥毛の叢を掻き毟ってから女陰の襞に触れてみる。
《ああ、こんなに濡れてる。いやらしい》
女性器に愛液が溢れる現象は今までも何度か経験したし、ショーツが驚くほど汚れているのに気付いた事も何度かあったが、性的な快感を意識して濡れているのを感じたのは、恐らくその時が初めてだっただろう。
一人の男の勃起が一度しか潜った事のない膣孔に、生まれて初めて自分の指を潜らせてみる。
既に熱い滴りで入口も内部もぬかるんでいた。
かつてのワイ談仲間があからさまに語ってくれたオナニーの遣り方を想い出し、「互いの愛情と肉体の全てを激しく貪り合う」シーンを想像しながら、膣粘膜、女陰の襞、クリトリスを指でなぞり上げ、擦り立ててみる。
《おっぱいを揉まれ、乳首を舐められ、吸われ、おま○こを口で吸われ、舌で舐められ、私がち○ぽにむしゃぶり付き、咥えてしゃぶり、唾液塗れにして舐めて吸い立てる。何か気持ち良い。もっと濡れて来た。ああ、でも気持ち良いけど、もどかしい》
稚拙な自分の指での愛撫では、快感は得られても、そこまでであった。
私は名残惜しそうな指を引き上げ、愛液に濡れ光る指先を舐めてきれいにして、スタンドの明りを消した。
次の夜も、また次の夜も、その小説の一節を思い浮かべながら繰り返しオナニーをしているうちに、何となくコツが解って来て、少しずつ快感が大きくなって来た。
そうして単に気持ち良いだけであったオナニーが、何度かしているうちに、ついに友人達が「イク」と表現しているのはこの現象だと確信する程のエクスタシーを覚えた。
閉じた瞼の奥が真っ白になり、噴き出した汗に塗れた裸身が激しく痙攣して収まらなくなったのだから。
私は怖くなったが、次の夜もう一度そのエクスタシーに呑まれてみたい誘惑に駆られ、オナニーをしてみた。
そして私は前夜と同じほど激しい快感を得る事が出来たのだ。
それからは毎晩のようにオナニーをするようになり、私なりに工夫をするようになった。
無趣味の私は、夜部屋に帰って何かをする訳でもなかった。
ただ、漠然とテレビを眺めながら、コンビニで買ったおつまみを食べながら缶ビールを呑んで、寝るだけであった。
従って、退屈なテレビ番組を眺める行為に変わって、オナニーが趣味のごとくになってしまったのだ。
女性器を愛撫する時に、空いている手で乳房を揉んだり乳首を指先で転がしたり、或いは前から回した右手指でクリトリスを愛撫する時、同時にお尻の方から伸ばした左手指で女陰の襞をなぞりあげたり、挿入した指で膣粘膜を擦り立てる。
脚を閉じたまま、また脚を大きく拡げて女性器を宙に突き出して。
或いは、四つん這いになって、シーツに乳房を圧し付け、乳首を擦らせ、尻肉を高く掲げて、女陰とクリトリスを指で愛撫したり。
そして男性の勃起の代用と考え付いた、愛用の化粧品の小瓶や乳液の細長い容器を膣内に挿入して出し挿れしたりもするようになり、一層深いエクスタシーに呑まれ、初めての頃より一層激しく長いエクスタシーを覚えるようになっていた。
そしてそんなある夜、私は酷くショッキングな感覚に目覚めてしまったのだ。
何時ものように全裸でベッドに横たわり、右手でクリトリスを、左手で女陰の襞を愛撫し、挿入した化粧品の容器を出し挿れして、エクスタシーの絶頂に駆け昇ろうとしていた。
その時夥しく滴る愛液にぬめった容器の尖った先端が、肛門の窄まりに潜り込んでしまったのだった。
瞬間的な痛みはあったものの、その時の異様な快感は、私を戸惑わせ、オナニーを中断せずにはいられなかった。
肛門という器官は、幼い頃から排泄した際に必ず紙を隔ててであるにしろ、必ず触れる場所だった。
それにも拘わらず、その瞬間覚えた妖しく異様な快感は、人間として最も恥ずべき排泄だけの為に存在する器官で快感を覚えるという、自分の肉体の異常さに対する恐怖に負けない程の誘惑を以って私を虜にしたのだ。
肛門で快感を得るなんて、なんて恥かしく、浅ましく、いやらしい事だろうとも想った。
しかしそれは、オナニーでエクスタシーの波に呑まれ込む寸前で、私の肉体全体が鋭敏な性感帯と化していた瞬間だったからかも知れなかった。
ただ、その背徳的な快感をもっと明確に意識してみたいという異常な誘惑に駆られた私は乳房や乳首、クリトリス、女陰の襞、膣粘膜への一切の刺激を止め、愛液に滑ってひくつく肛門の窄まりを恐る恐るゆっくりと指先で愛撫してみた。
くすぐったいような、じれったいような、不思議な感覚が湧き起こる。
《ああ、変、何か変。気持ち良い?お、お尻が?お尻の孔がっ、か、感じるの?》
窄まりに指先を軽く潜らせ、生まれて初めて触れる滑らかな腸粘膜を緩やかにしゃくるように撫でてみた。
膣孔から溢れ滴った愛液に塗れた肛門の窄まりが私の指の侵入を拒むように締まり、或いは奥へ誘うように拡がり、その妖しい蠢きを繰り返す。
《ああ、か、感じるわ。やっぱり、私、お、お尻の孔。な、何て事》
媚肉の奥底から、乳房や女性器を愛撫する時と同様の、妖しい快感が湧き起こって来る。
思い切って、両脚を大きく拡げて秘部が天井を向く程掲げ、人差し指を根元まで潜らせ、ゆっくりと抽送してみた。
《ああ、良い。どうしよう。お尻の孔が感じる》
戸惑いながらもその妖しい快感の虜になった私は尚も抽送を続け、しゃくり上げ、やがて柔らかく解れ切った窄まりに、今度は中指を添えて唾液をたっぷり塗してからめり込ませ、抽送してみた。
快感を覚えると膣内に愛液が溢れて来るように、そんなに多くはないが腸内の何処からか滲み出て来る粘液が指の動きを滑らかにして行く。
肛孔の下部より、膣孔との隔壁の方が感じるのは膣粘膜を刺激しているからだろうか?
媚肉の奥底で、はっきりとエクスタシーの波が立ち上がり、全身の肌をざわめかせ、裸身を小刻みに痙攣させ始めた。
《こ、こんなっ、ああ、良いのっ。だ、だめっ、と、止まらないっ》
私はその異様な快感に操られるようにして、指の動きを速めて行った。
クリトリスでの快感のように鋭くなく、女陰の襞や膣粘膜での快感ほど明確ではないが、媚肉の奥底全体がわし掴みにされて揉み込まれるような、鈍いが深い快感であった。
それは例えば、乳首を刺激されるのに対して、乳房全体を刺激されるような、そんな快感であった。
私は完全に肛門での快感の虜になった自分を悟った。
自虐的、とでも表現するのであろうか、肛門が壊れても良いとさえ感じる衝動が湧き起こり、夢中で抽送しながら、激しくしゃくるように肛門粘膜を擦り続けた。
《ああっ、す、すごいっ、イ、イクわっ。イ、イクッ、イクッ、イクーッ》
エクスタシーの大波が私を一気に襲い、噴き出した汗に塗れた裸身を激しく痙攣させ、私は尻肉を極限まで浮かせて宙で静止させ、生まれて初めて覚える肛門でのエクスタシーに涙した。
肛孔にめり込ませた指を肛門粘膜が裸身の痙攣に併せて収縮弛緩を繰り返す。
どれくらい時間が経ったか、肛門粘膜の蠢きが収まった後、二本の指を抜き出す。
指のところどころに排泄物が付着していた。
その淫猥さに怯え、慌てて洗面所に走り、ソープ液を付けて洗い流す。
そしてベッドに戻り、快感の涙で潤んだ眼で天井をぼんやり見詰め、眠れないまま明け方まで茫然としていた。
後戻りの出来ない方向に進んでしまった自分に恐怖を覚え、しかし、その快感の虜になってしまった自分を許容する。
そんな複雑な想いが脳裏で渦巻いていた。
(続く)
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