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記憶の中の女達〜(45)2度目の結婚〜エピローグ-最終話



作家名:淫夢
文字数:約4340文字(第96話)
公開日:2022年8月5日
管理番号:k057


この作品は、過去、実際にセックスした数百人の女性の中の、記憶に残っている数十人の女性との出遭いとセックスと別れを描写。



挿絵の官能小説画像

仰向けになってタバコに火を点けて喫いながら、彼女を抱き寄せ、腕枕をすると、彼女が半身になって私の腋に火照った美貌を寄せた。

この感触。

久しぶりに気付いた。

芙美子を腕枕して抱いた時、隙間なく凹凸がぴったり収まる。

過去にセックスした後で抱いた時、この感触を覚えたのは数人しかいなかった。

多分彼女とは、セックスも肉体も相性が良いはずだ。


私は想い切って言葉にした。

「おれと一緒に暮らしてくれ」

彼女がビクッと美貌を揚げて私を視た。

M先生から話を聴いた事は触れる必要もないだろう。

「い、良いんですか?」

「未だ離婚調停が終わってないけど、時間の問題だし、それが厭でなければ、いや、どうしても、一日でも早く、あなたと一緒に暮らしたいんだ」

離婚する話は既にしていた。

「は、はい。明日でも良いですか?」

「もちろん」

もうセックスしてはいないだろうが、彼女が他の男と同じ部屋で暮らしているなど、一秒たりとも許せるはずがなかった。

「あなたこそ明日でも大丈夫なの?」

「洋服くらいしかありませんから。先生にお休み戴きます」

「じゃあ、次の休みに色々買い揃えよう」

「はい」

彼女が私の胸に美貌を寄せた。


一緒に暮らし始めて数日で、私は一層芙美子の虜になった。

普段はセックスを感じさせない慎ましやかで清楚な美貌。

茶道と華道の嗜みがあるという上品な立ち居振る舞い。

それが、キスを貪りながら乳房を愛撫するに従って官能に塗れ、美貌を歪めて快感に翻弄される。

彼女のフェラチオを視ようと美しい黒髪を掻き揚げると、勃起を愛撫する表情を視られるのが恥ずかしいのだろう、両手で口許を隠す。

セックスしている時は、私の愛撫に応じて裸身を大胆に悶えさせ、性欲の虜になって太腿を大きく拡げ、自ら女性器を私の勃起に向かって激しく突き出すのに、部屋で全裸でいる時、私の視線から裸身を隠そうとする。

出掛ける為に洋服を着る時にも、何時も必ず、私に背を向けて上着を羽織って裸身を隠し、下着を身に着ける純情。

薄化粧を施す時も、やはり私に背を向けてする淑やかさ。

何故そうするのか、一度尋ねた事があった。

「着替えと化粧を視られるのは、裸を視られるより恥ずかしいから」

私は二十数年間の結婚生活の中で、彼女が着替えるのと化粧をするのをまともに視た事がなかった。

さらに、ワンルームマンションにはキッチンに電磁ヒーター一基しかないのだが、私が帰宅連絡を入れてから帰る30分程の間に2、3品の料理を作る手際の良さ、そしてその美味しさ。

私は、一生彼女を大切にしようと、もう一度心に決めた。


翌年の5月、芙美子が妊娠。

離婚調停は長引いていて、未だ先が視えなかったので、芙美子は酷く不安がって悩んだが、私は“一生あなた独りだ”“どんな事があってもあなたを離さない”と芙美子を説得して出産を決意させる。

そして12月に長女を出産。

その翌年、3月半ば、離婚調停が整った日に入籍し、完全な結婚生活がスタートする。

私が38歳、芙美子が30歳。

その1年後、芙美子の希望で関西に移住する。


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余談だが、娘と息子の誕生日が同じである。

そして出産予定日も同じであった。

と、言う事は、だ。


大阪で職探しを始め、求人誌で応募して、マンションのディベロッパーの面接を受けると、社長が私の履歴書を視て“電話営業を採り入れようと考えていたから、営業部の指導をして欲しい”と、課長待遇で採用してくれた。

処が、入社して間もなく、昼火事で住まいを失い、芙美子と相談して、会社の社宅が空くまで、芙美子と娘を彼女の実家に帰らせ、単身赴任生活になる。

芙美子の実家は大阪から遠く、また過密な営業スケジュールのせいで、ひと月に一度くらいしか、逢いに行けなかった。

別居生活を続けて1年半、娘が幼稚園に入る年齢になったので、会社の社宅が空くのを待たず、民間の賃貸マンションを借り、やっと、親子3人で暮らせるようになり、息子を授かる。

芙美子と知り合って以来、波乱万丈の生活で数限りない心労を掛けた芙美子に、やっと安定した生活を満喫させる事が出来た。

ちょうどバブル崩壊が始まった処だったので、仕事は山あり谷ありだったが、会社の中でも常にトップクラスの成績が継続出来た。

営業の歩合収入も多く、給料が出ると、自分が遣うのに半分残し、芙美子に半分を渡すが、それでも、「こんなにたくさん」と、何時も驚いた。

しかし、真面目な彼女らしく、無駄遣いをする訳でもなさそうであった。

私はほとんど単身赴任であったが、芙美子は愚痴一つ零さず、ほとんど独りで二人の子供を健全に育て上げてくれた。


そして。

15年近く幸せな生活を送っていたが、ある頃から彼女がセックスを拒むようになった。

理由を問い質すと、「痛い」と言う。

どんなに愛撫して愛液を溢れさせ、女陰と膣粘膜が柔らかく蕩け切っていても、勃起を挿入する処か、指を一本挿入しても痛いようだった。

医者に診て貰うように言ったが、芙美子は拒んだ。

妊娠出産以外に、人眼に女性器を曝すのが厭だと言った。

二度の出産も、女医の産婦人科だった。

何百回もセックスした私に対して、未だに着替えと化粧を視せない芙美子らしかった。

私も、芙美子の女性器は勿論、裸身を人眼に曝すのさえ厭だったので、それ以上は薦めなかった。

未だ48歳。

男が出来たのか?

まさか、だ。

私は、芙美子に対して疑念を抱いた事もあったが、潔癖を画に書いたような芙美子が浮気などするはずがなかった。

私は我慢出来ず、拒む芙美子を犯すように何度かセックスした。

痛むのは、最初だけで、馴染んで来ると、芙美子はそれまでと同じように快感にのめり込んだ。

それでも、最初に指や勃起を挿入する際の激痛は堪える事が出来ず、恐怖を覚えるようになったと、トラウマのように感じ始めたらしい芙美子が、普通の生活の中でも私を避けるようになった。


今、振り返って考えると、早く訪れた更年期障害だったかも知れなかったが、芙美子はそれを私に知られるのが厭だったのかも知れない。

また、それを尋ねても、頑固な芙美子は言わなかっただろう。

私には話さず、病院には行ったかも知れなかったが。


そうして何時か私と芙美子は夫婦でもなく、単なるルームメイトのようになってしまった。

眼の前に愛おしい芙美子がいる。

抱いて全裸にして愛撫し、セックス出来る美しい芙美子がいる。

それなのに指で触れる事も出来ない。

やり切れない想いが募っていた。


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丁度その頃、会社が乗っ取りに遭い、役員だった私は真っ先に解雇された。

それを知った、かつてマンション用地を取引した事があり、飲み友達になった大阪の不動産会社の社長に、現場を手伝って欲しいと頼まれ、私はついに家を出て、新大阪で独り住まいを始めた。

家を出る時、芙美子の気持ちを知りたくて、離婚話を持ち出した。

「別居するのは良いけど、離婚は厭です」

それが、彼女の応えだった。

しかし、離婚はしなくても、もう芙美子を二度と抱く事は出来ないのだ。

私は心身共に孤独な生活を始めた。


処が。

二月程経った頃、芙美子からメールが来た。

「遊びに行って良いですか?」

「断る訳ないよ」

翌日の夜、芙美子と新大阪駅で待ち合わせて居酒屋に行き、お互いの仕事の話、子供達の話で酒が進み、時計を視ると終電の時間は過ぎていた。

ふと、芙美子が何時も愛用しているショルダーバッグではなく、旅行に使っていた大きなバッグを持っているのに、気付いた。

泊まるつもりなのか。

芙美子が少し酔った様子だったので、会計をして居酒屋を出ると、芙美子が腕を絡めて来た。

10年振りの芙美子の乳房の感触が嬉しかった。

「泊まるのか?」

「あなたが厭じゃなければ」

「厭な訳ないだろ」

でも、セックスはだめだろうな。

しかし、泊まると言う事は。

いや、未だ判らない。

部屋に入ると、芙美子が内部を視廻した。

「良かった。独りなのね」

「ばか。当り前じゃないか」

物は試しで、芙美子を抱き締め、キスを貪ると、芙美子が応じて来た。

やった!

懐かしい、と感じるほど、久し振りの芙美子とのキスだった。

キスを貪り合いながら、洋服を脱がす。

「痛いから、セックスは絶対厭よ」

芙美子が熱く喘いだ。

やっぱりダメか。

それでも、芙美子は私が全裸にするのを拒まなかった。

55歳になり、子供を二人産んで育てて、しかし、芙美子の裸身は少しふっくらしていたが、しなやかで美しかった。

芙美子の裸身を視ているだけで勃起する。

全裸になって布団に入り、先に入っていた芙美子を抱き寄せると、私の勃起に気付いて、美貌を恥じらいに染めた。

セックス出来なくても、芙美子の裸身に触れて眠れたら良い。

腕枕をしてやって芙美子の乳房に手を当てた。

少しだけでも愛撫してみたい。

軽く揉み立てると芙美子が払い除けた。

「欲しくなるから厭」

小さく囁いて半身になり、私に抱き着いて、腋に貌を寄せた。

やはり、私と芙美子の身体はぴったり嵌った。

芙美子が、私に心身とも委ねている証だった。

性欲は勿論起こる。

同棲し始めた頃、芙美子が生理中に、フェラチオを要求した事があったが、芙美子が拒んで言った。

「私だって、したいのを我慢してるんだから、あなたも我慢して。何時も一緒でないと厭」

それ以来、私は、セックスの時以外で芙美子にフェラチオを要求する事はなかった。

だめだろうな。

私は、芙美子の寝息を聴きながら眠りに落ちた。

翌朝、目覚めると、芙美子は既に起きて洋服を身に着けていて、コーヒーを淹れていた。


それ以来、月に一度、芙美子が私の部屋に泊まるようになった。

セックスは出来なかったが、全裸になって抱き合って寝る。

やはり勃起する。

それでも、我慢出来た。


私は、定年を機に、南の島の海辺に終の棲家を、という30年来の夢を実現する為に、幾つかの島を訪れ、海岸の美しさに一目惚れした与論島に移住した。

移住が決定した時、「一緒に移住しよう」と芙美子を誘ったが、「あなた独りで行って」と断られた。

芙美子が微笑んだ。

「何時か、ね」


若い頃は、あれだけ毎日のようにセックスして、淫蕩の限りを尽くしていた私は、芙美子との結婚生活の間でも、2年近い単身赴任生活での欲求不満から、何人かの女性とセックスした。

しかし、自分でも自分の感情が判らないが、芙美子が私とのセックスを拒むようになってから、15年もセックスしていない。

その間、新たに出遭った女性とセックス出来るチャンスは何度もあったし、飲み友達に風俗を誘われた事もあったが、する気にはなれなかった。

与論島に移住してからLINEを始めたが、何かあった時以外は連絡しない。

ある時、私は想いの丈を書き込んだ。

“おれの人生で知り合った女性の中で、あなたが最高の女性だ”

彼女から一言返って来た。

“嬉しい”


性欲が無い訳ではない。 セックスしたいとは感じるが、セックスしようとは想わない。



(終わり)





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