携帯占いの女たち-1話
作家名:金田誠
文字数:約2970文字(第1話)
公開日:2020年11月9日
管理番号:k067
昔の出会い系は、今ほどシステムが固定化しておらず、緩さやバリエーションを持っていました。そうした特徴を突いて、出会えるかを日夜研究していたもんです。その一つをご紹介。
今の出会い系サイトは、詐欺ばかりだが、昔も詐欺ばかりだった。
そんな中、ド◯モの公式占いサイトは違った。
占いと言えば星座が手軽で、当時有名な鏡明さんがそのサイトを監修しており、多くの人が利用していた。
凄いのは、出会いマッチングメール機能がついているところだ。
同じ星座の人をマッチングするのではなく、コンピュータによってランダムに相性の良い相手を選んでくれる。
こちらから指定できるのは、地域と性別と年代だけである。
これは画期的で、競争率に縛られない。
詳細なプロフィールも写真もないから、メールだけで相手の素性を確かめるしかない。
ポイント制もなく、素人が単にお話するという、なんのためにあるのかよくわからない機能だった。
そこで私は2人の女性と会うことができた。
一人は30代の人妻。
もう一人は20代のフリーターだ。
どうして、この2人と会うことができたのだろうか?
女性は占い好きである。
だから、こうした占いサイトの女性供給量は多い。
男性から見た出会える女性のカテゴリとしては、人妻やフリーターが圧倒的だ。
男性に人気が高いであろう学生は、実生活での出会いが多い環境にある。
成りすましでない本当の学生であるなら、目が肥えている可能性が高く、会えたところで振られるのが落ちだ。
その点、人妻やフリーターは、実生活に満足しておらず、日常に不満を抱えている可能性が高い。
気持ちを吐き出したい願望が強いはずである。
ちやほやされたり優しくされたりする経験が、現実に少なくなっているのだろう。
そうしたカテゴリに該当する相手をターゲットとした。
だから、早い段階で相手が、どのカテゴリに入るのかを見極めないといけない。
「こんばんは。ミナさん。
山崎と言います。
僕は蟹座のA型です。
ミナさんは何座ですか?」
最初のメールのテンプレートだ。
「こんばんは。山崎さん。
私は牡牛座のB型です」
こうして素直に応えてくれる場合は、やりとりが続く。
「そうなんだ。
この占いサイト面白いよね。
こんな風にメールでやりとりできるなんて、びっくり。
ミナさんと話せるなんて、僕は運がいいよ」
しつこくない程度に相手の名前を呼びかけた。
「そうだね。
私もよくわからないままメールが届いたので、びっくりしちゃった」
「占いは、やっぱり人気があるよね。
鏡明さんは、今すっごく当たるって評判だもんね。
鏡さんの占い好きなんだよねー。
ミナさんも好き?」
「うんうん、好き。
私の性格占い当たってたもん」
「僕のも当たってたよ。
僕はアパレル業界に勤めてる30代なんだけど、ミナさんは、何してる人?」
ここで、女性のカテゴリを特定する問いを投げてみた。
「私は20歳のフリーターだよ」
「若いなあ。
でも、フリーターだと大変だよね。
僕もフリーターだったときあったけど、ミナさんは毎日楽しい?」
「かなり楽しいよ」
「楽しいのはいいね。
自由に遊んでるんだね」
「そんなこともないけど」
「いつも何して遊んでるの?」
女性の日常や趣味を探ってみる。
「んー、友だちと美味しいもの食べたり、カラオケ行ったりかなあ」
「美味しいもの!
いいなあ。
最近食べたのは何?」
「たい焼きかな。
甘いもの好き」
「あんこ系は、僕も好きだな。
それ、外カリカリの?それとも柔らかめのやつ?」
共感できるところは、言葉ではっきり示し、相手に興味関心があることを伝えていく。
「カリカリのやつだった」
「なんか読んでたら、たい焼き食べたくなってきた」
「ふふ」
「そうそう、ここのメールだとさ。
字数制限があって、あんまり話せないよね。
もし、よかったら直メしない?」
「いいよ」
「やったあ。
じゃあ、暗号でメアド送るから、そこにメールちょうだい」
「了解」
「小文字で、えーゆー1225アットど〇もです。
よろしく」
さて、メールが来るだろうか?
ものの1分もかからないうちに、彼女から送信されてきた。
「こんばんは。ミナです。
届いたかな?」
この瞬間、自分のシナリオ通りに事が進み、私はニヤついた。
同時に38歳の人妻ともやりとりを重ねた。
他に数十人とマッチングされたけれども、サイト内でのメールの最中に、連絡が途絶えてしまうことがほとんどだった。
2ケタ以上メールのやりとりが続くと、直メールアドレスの交換から対面出会いへと立て続けにうまくいった。
人妻のときは、こんな直メールのやりとりで会うことになった。
「裕子さん。返信ありがとう。
これで、字数制限を気にしなくてよくなったから、嬉しい」
「そうだね。
ところで、山崎さんはいくつなの?」
「僕は35歳だよ。
裕子さんはいくつ?」
「実は・・サイトでは20代ってことにしてるけど、本当は38歳なんです。
幻滅した?しちゃうよね?」
「幻滅?
しないよ。
よくあることでしょ。
年は若くしておきたくなっちゃうもんでしょ。
別に気にしませんよ」
「ありがとう。
そう言ってくれて、ホッとした」
「裕子さんは、どこ住みなの?
僕は東京の板橋区に住んでます」
「埼玉の上尾です。
すごく田舎です」
「そうなんだ。
ずっと上尾暮らし?」
「生まれも育ちも上尾です」
「じゃあ、上尾で薬剤師をやってるんですね。
僕の生まれは千葉の船橋。
そこもかなり田舎でしたよ。
でも、都会より少し田舎の方が住むにはいいと今は思いますね」
「確かにそうかもしれないですね」
「薬剤師の仕事って、薬を調合することくらいしか僕はわからないけど、自分に合った薬を作れるの?」
「自分に合った配合量を調整したりはできます。
でも、新しい薬とかは作れませんね」
「そうなんだ。
自分に合った配合量を調節できるのは、スゴイなあ。
裕子さんに調合してもらえた薬なら信用できる」
「怖いですよ〜。
どんな配合されるかわからないから。
山崎さんは、ファッション関係の仕事だそうですけど、どんな仕事してるの?」
タメ語混じりになり、プライベートな質問も出てくるようになってきた。
「今は、お店の店長をしてます。
ブランドジーンズ専門の店なんだけど、それだけじゃ立ち行かなくなって、いろいろな服を扱うようになったかな。
裕子さんはジーンズ履く人?」
「よく履いてるよ。
ブランドじゃないけど。
ブランド品は高いから」
「そんなことないよ。
最近はユニクロなんかとせらなきゃいけないし。
価格もお手頃なのが出てるよ。
とか言って、ユニクロよく着てるけどね〜」
「私もユニクロ着てるよ。
安くて、いいのが売ってるしね」
「裕子さんは、なんかジーンズが似合う気がする。
ラフな格好でも、うまく着こなす人じゃない?」
「あんまり着飾ったりはしないかな。
タイトなボトムにカットシャツみたいなのばかり着てるから。
似合うかはわからないけど」
「いや、たぶん似合ってると思うな。
見てみたいな。
今度よかったら、一緒に遊びに行きましょうよ。
どうですか?」
「遊びに行くって、どこに?」
「そうだなあ・・池袋に美味しい創作料理の店があるから、そこで食事するのはどうです?」
「池袋だったら出やすいかも」
「裕子さんの都合のつく日で構わないけど、土日が僕は希望だけど大丈夫かな?」
「たぶん大丈夫だと思います」
「じゃ、明日あたりに都合のいい日を連絡ください。
そうだ!食べられないものある?」
「特にはないよ」
「では、楽しみにしてますね」
翌日に約束どおり連絡があり、翌週の日曜日の夜に会うことになった。
同時に、20歳のフリーターとも同じ日に会う段取りをつけた。
(続く)
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