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家庭崩壊-最終話



作家名:バロン椿
文字数:約3070文字(第5話)
公開日:2020年10月31日
管理番号:k063


吹き始めた夫婦間のすきま風。ふと見た夫のスマホに入っていた若い小娘からのメール。夫の不貞を知った妻は、あろうことか、自分の娘より年下のピアノ教室の教え子に手を出してしまった。そして、セックスに溺れる日々。その果てにあったのは家庭崩壊……



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第六章 娘の直観

「香苗、今日は出掛けないの?」

「ママ、さっきも同じことを聞いた。なんか、私がいない方がいいみたいね」

今日は芳樹のレッスンがあるが、娘の香苗は外出の予定がない。

「そ、そんなことないわよ」

「そうかな、本当にそうかな?」

「何が言いたいのよ?」

「ママにもいい人が出来たんじゃないかなって考えていたの」

「ば、バカなこと言わないでよ」

図星に和子は思わず大きな声が出てしまった。

「そんなに大きな声で言わなくたっていいのに。ふふ、ママ、顔赤いよ。図星でしょう?」

「う、ウソよ、赤くなんてなってないから」

「いいのよ、私、気にしないから。パパが女を作って出て行っちゃったんだから、ママが男を作っても構わないわよ」

芳樹と関係が出来て間もなく、夫の達也の方から離婚したいと言ってきた。

今は双方弁護士を立てて離婚について話し合っているところだ。

「変なこと言わないでよ。香苗がいるのにそんなこと出来る訳ないでしょう」

「私を言い訳に使わなくたっていいのに。ママも女なんだからさ、男の人が欲しくなってもおかしくないよね」

「な、何言っているの」

「だって、ママ、変わったよ。この間まで、なんか刺々してたけど、夏休みで帰ってきたら、優しいっていうか、柔らかいっていうか」

娘は感づいたのか?

しかし、まさか、相手が自分より年下の芳樹とは思わないだろう。

芳樹と体の関係が出来ていると知ったら、どんな顔をするか、いや、自分が娘に合わせる顔がない。

「変わったのはパパとのことが一区切りつきそうだからよ」と切り抜けようとしたが、娘は、「そうだけど、本当にそれだけかな? 男の人に愛されているんじゃないかな。ひょっとすると、もっと仲良くなっちゃったのかな?ふふ、ふふふ」と悪ふざけ。

なんでもないことだが、「ば、バカなことを言って……」と和子は動揺が言葉に現れてしまった。

それを娘は見逃さず、「あれ、顔が赤いよ? ふふ、ふふふ」と煽り立てて、「芳樹が来るのか、あいつに聞いてみようかな……ひょっとして、あいつがママの相手だったりして……ふふ、でも、本当だったらどうしようかな。“パパ”なんて言えないし、ねえ、ママ?」と親をからかう。

しかし、和子の動揺は隠しようがない。

コーヒーカップを持つ手が震えている。

(えっ、まさか、そんな……ウソでしょう……)

娘は信じたくなかった。

だが、夏休みで帰省してからの母親の和子の様子、芳樹の彼女との関係を追求した時、ピアノのレッスンの後、レッスン室から出てきた時の上気した顔、そして今の動揺した顔、どれも、自分が北海道に行くまでは、見せたことがなかった顔である。

「あ、あの、準備をしなくちゃ……」

慌てて立ち上がる母親の和子は目を合さず、そのままレッスン室に逃げ込んだ。

(そ、そんなこと、ありえない……)

香苗は頭を振ってかき消しても、裸の芳樹と母が体を重ね、下腹部を密着させる、何度もその光景が浮かんでくる。

嘘であって欲しいと母親を信じたい気持ちと、自分の娘より年下の男の子と体を交えたのではないかと疑う気持ちが、胸の中で激しく渦巻き、香苗は気分が悪くなってしまった。


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最終章 家族崩壊

夫の浮気への仕返しのつもりで、芳樹と強引に関係を持ってしまったが、そうなった以上、芳樹が求めれば、和子はそれを拒もうとはしなかった。

和子もまた芳樹を求めていた。

しかし、娘に怪しまれてしまった以上、家では愛し合えない。

和子は5つ離れた駅の繁華街の外れにあるラブホテルを利用することにした。

ここならば知り合いと出会うことはない。

「待った?」

「ううん、今、来たばかりだよ」

この日、午後4時に駅前のコーヒー店で待ち合わせていた。

和子は日傘を差して顔を隠し、芳樹は一歩下がってその後をついていく。

繁華街を抜け、コンビニの角を曲るとラブホテル街が見えてきた。

和子は芳樹の手を引いて高い生垣で囲まれたホテルに駆け込んだ。

「305号室、3時間で6千円です」

擦りガラスで互いに顔はよく見えないが、目的は決まっているから、余計なことは言わない。

和子は料金と引き換えに鍵を受け取ると、芳樹の手を引くとエレベータに急いで乗り込んだ。

二人が選んだ部屋は和室。

襖を開けると畳に布団、枕元にはコンドームとティッシュの箱が置いてある。

男と女が交わるために必要なものしかない部屋。

和子も芳樹も顔が火照っている。

我慢した分だけ欲しくなる、若い芳樹は服を脱ぐのももどかしかった。

和子も同じ。

欲しいけど我慢してきた、でも、決して許されない関係。

そして、娘に感づかれているかも知れない、家庭はどうなるのか、不安で、不安で仕方がなかった。

全て忘れて芳樹を抱けるのはこの部屋の中だけ。

だからこそ、燃える。

薬の力を借りて芳樹と初めて交わった時よりも、和子は激しかった。

服を脱ぎ捨てると、シャワーも浴びずに、芳樹を押し倒して馬乗りになると、お尻を顔に向け、そのままペニスを咥えた。

「先生、それ、あっ、ダメ、あっ……あ、あああ……」

芳樹のことなどお構いなし。

和子は根元まで深く咥え、ジュッパ、ジュッパとしゃぶりたてる。

芳樹も夢中で和子を舐める。

「はうっ……ううっ、あっ、ダメ。ダメだよ、もう出ちゃうよ……」

「いや、いや、逝っちゃう、逝っちゃう……」

二人とも相手のことなど構わずに攻め立てたから直ぐに目一杯になってしまった。

和子の口元は中に収まりきれず溢れ出した精液で白く汚れていた。

「芳樹、今度はオチンチンで気持ちよくさせて」

「先生、入れるよ」

二人は体を繋げると、絶対に離れないようにしっかりと抱き合った。

3時間はあっという間に過ぎ、午後7時、夏の日もようやく陰ってきた。

愛し合った名残りを惜しむように、二人は手を繋ぎ寄り添いながら生垣の切れ目にある小さな出口から外に出てきた。

「ちょっと、待って」

後から二人を呼び止める声がしたので振り返ると、中年の男女が近づいてきた。

「何でしょう?」

和子が聞き返したが、女性に腕を掴まれていた。

「何をしていたんですか? 見たところ、男の子は高校生のようだが、奥さん、こんな場所に出入りされちゃ、困りますね」

男性が自分たちは所轄警察の生活安全課の者だと名乗った。

「君は高校生かな? ダメだな、こんなところに入っては」

「いえ、ぼ、僕はこの人と結婚する」

芳樹はとっさにウソをついたが、そんなことが通じる筈がない。

「何を言ってるの。あなたのお母さんみたいな人でしょう、この人は」と逆に女性の警察官に強い口調でたしなめられてしまった。

「奥さん、こんな場所じゃあ、まずいでしょう。ちょっと来て頂きましょうか」

「ごめんなさい。今日のところは……」

「そうはいきませんよ。夏休みは気が緩む時なので、パトロールを強化して、青少年の健全育成に努めているところですからね」

和子と芳樹は所轄署に連れて行かれ、住所・氏名・年齢・学校・電話番号、二人の関係などを根掘り葉掘り聞かれた。

「三村芳樹君、今、お母さんに連絡したから。石井さん、彼、お願いします」

芳樹は石井という女性の警察官に付き添われ、別の部屋に連れて行かれた。

残った和子は男性警察官からこってり絞られた。

「奥さん、青少年育成条例って聞いたことがあると思うけど、あんた、淫行だよ。年齢を考えなさいよ。あんたの娘よりも年下だよ」

家に戻ると、娘の香苗が部屋に閉じこもったまま出てこなかった。

一家の主婦がそんなことをしてたら家庭は崩壊してしまう。

自分の言葉が重くのしかかっていた。

検察庁から書類送検の通知が来た頃には、娘どころか、ピアノ教室の生徒も、家には誰も来なくなってしまっていた。




(終わり)





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