女豹の如く2-1話
作家名:ステファニー
文字数:約3090文字(第1話)
公開日:2020年10月17日
管理番号:k062
貧困家庭で育ったひろみが、夜の街で成熟した大人の女として成長していく様子を描く。
ライトはオレンジから暗転し、ミラーボールだけが場内の灯火となった。
バックミュージックもますます大きくなり、いよいよ会場の盛り上がりは最高潮を迎えた。
白いレースでできた紐ブラを外し、ふたつの白桃を露わにしたひろみは、円形に並んだ小部屋の窓にかかるランプを確認する。
ひとつの部屋のランプが灯った。
ひろみは丸い乳房を揺らしながら抱え、脚をくねらせながらその部屋に近寄った。
ひろみが到着すると、小窓の扉がガラリと音を立てて開いた。
ひろみは開いた口に形の良い桃を押し込んだ。
マジックミラーになっているため、中の人は見えない。
だが、その唇の乾燥度合いから、相手は老齢だと推測された。
今どきこんな所に若者など来ない。
暇もなければ金もないからだ。
たとえあったとしても、ここを娯楽として選ばない。
ひろみは山下からそう聞かされていたが、こんなにもここが高齢者の溜まり場になっているとは思いもしていなかった。
小窓は上下にふたつある。
上は胸を、少しミラーを挟んで下は陰部を触れる。
どちらもやっと手が出せるほどの本当に小さな窓口だ。
にも関わらず、ほぼすべての客はそこから口を出す。陰部を舐めることは店の規定で禁止されているが、乳房はそうではないためだ。
冷たい口内の感触がひろみの乳頭を伝わった。
乾いた唇のため、胸先はチクチクと痛む。
チュパチュパと吸い上げる音がするものの、一向に乳首が湿る様子はない。
これらもいつものことだ。
ひろみは後方にのけ反り、腹部をミラーに押し付ける。
そして手を陰部に当て、客の興奮を誘った。
客は小窓から指を出し、ひろみの紐パンの結び目をほどいた。
白いパンティはハラリと床に落下する。
ふんわりと柔らかな草原が広がった恥丘が現れた。
老翁の嗄れた指は草むらにたったひとつの隠された石ころを求めていた。
小さく痙攣した冷えた指先が弱々しくひろみの尖角をつつく。
まったく感じない。
ひろみは尚も下半身を突き出し、誘惑を続けるが、結果が好転することはなかった。
ひろみがセクシー女優デビューを果たしてから三ヶ月がたち、季節は初夏に入っていた。
少し前、5月の頭にひろみは誕生日を迎え、19歳になった。
ヒカルとのデビュー作を撮った後、ひろみはのぞき部屋の仕事をもらった。
最初こそその雰囲気に戸惑ったものの、今ではだいぶ手順に慣れた。
ひろみのデビュー作はなかなか好評らしく、ひろみは山下から追加で300万のギャラをもらった。
しかし、この金の用途について、山下は注文をつけてきた。
田舎の純朴な少女が受け売りとして通用するのは最初だけだ。
それ以降は余程の魅力がないとこの業界で生き残ってはいけない。
故に、追加のギャラはエステサロンや化粧品など、己を磨くための投資資金とするように、と山下は忠告した。
ひろみは山下に忠実に従った。
全身脱毛を始め、化粧品も使うようになった。
いつもお団子で一纏めにしていただけだった髪も、美容院で手入れしてもらい、明るめにカラーリングを入れた。
さらには下着の研究も始めた。
よりセクシーに見せるためのランジェリーと、バストを美しく保つための下着の両方を使い分ける習慣も取り入れた。
最初のギャラを手にした後、ひろみは漫画喫茶住まいからは脱却し、ビジネスホテルへ移った。
そこで一ヶ月ほど生活しながら研修を受け、つい最近、派遣先の寮に入った。
寮とは言っても職場のビルの上階である。
オフィスビルの一室だ。
それでも住民票を持たずに家を飛び出したひろみにとってはありがたい待遇だった。
母には何も告げずに静岡の自宅を出たひろみだが、東京に来てからも全く連絡をしていない。
母からは何度か連絡があった。
元気にしているのか、食事を取っているのか、といった安否確認の連絡から、自分の近況報告もあった。
どうやら母はひろみが出て行った後、アフリカの子どもを支援するボランティアを始めたらしい。
ひろみには母の行動の意味がさっぱりわからなかった。
とりあえず母はひろみが事件に巻き込まれたわけではなく、自ら家を出たものと解釈しているらしい。
警察に捜査願いを出してもいないようだ。そこは有難かった。
概ね順調に事が運んでいるひろみの新生活だったが、一点重大な問題があった。
なかなか性感帯を掴み取れないことであった。
客はモデルに感じることを求めている。
だから陰部を触れば、濡れることを期待する。
ひろみはヒカルとの行為の際は濡れたはずだった。
ヒカルにそう言われたからだ。
しかし実際には、自分の身体として、濡れるとはいかなる感触なのか、理解しているとは言えない。
そのため、パフォーマンスの中で、自分が客の欲求に応えているとは思えなかった。
濡れるとは、感じるとはどんな感覚か。
これを掴みたくてひろみは先輩に相談をしてみた。
いちご企画を通して同じ店に派遣され、しかも同じ寮に住んでいるアリサというひろみよりふたつ年上の女性に話した。
アリサは身体で覚えた方がわかりやすいから、と勤務時間外にひろみの部屋へ来て研修してくれることになった。
「ひろみちゃん、失礼していい?」
店が閉店した深夜12時過ぎに、隣の部屋に住むアリサはやって来た。
ひろみはドアを開いてアリサを部屋に招き入れた。
静岡から身一つで上京したひろみの部屋は味気ない。
支給されたベッドと寝具、備え付けの箪笥とテーブル以外には何も荷物がない。
元々、この部屋がオフィス用途に造られているのも相まって、まるで刑務所のように見える。
冷蔵庫やキッチン、バストイレは共用のため、本当に寝床としてしか機能をなしていないためだ。
「お邪魔します」
アリサを部屋に入れるのは初めてだった。
すでにアリサの部屋には何度か訪問している。
同じ造りのはずだが、可愛く飾り付けているため、同じビル内とは思えない様相を呈していた。
そのため、ひろみはアリサに自分の部屋を見られることが恥ずかしかった。
アリサはひろみの部屋に入るとキョロキョロと左右を見回した。
「ごめん、どこに座ったらいい?」
床にカーペットを敷いていないため、アリサはどうしたらよいか戸惑ったらしい。
「すいません。ベッドにどうぞ」
「OK。失礼するね」
「汚い部屋ですいません」
「なんで?全然そんなことないじゃん」
ひろみはつくづく自分が情けなくなった。
それでも嫌味を言わないアリサには感謝しかなかった。
「たださ、女子力はもっと勉強したらいいかも」
「女子力ですか?」
「うん。普段からさ、可愛い物とか、女の子らしい物とか、そういうのに興味持って生活に取り入れるの。それだけでぐっと女としての色気が増すよ」
「そうなんですか?」
「そうなの。例えばね、物を買う時、赤系と青系があったら、赤にしてみたり。無地とハート柄があったら、ハートを選んだり。そんな感じで女の子が好きなのはどっちだろうって視点で物を選ぶの」
「はい」
「もちろん女性でも色んな趣味の人がいるから、必ずしも甘めなデザインが好きな人ばっかじゃないけどさ。でもウチらの仕事ってオンナが売りじゃん。だから女子としての価値が高くないと売れてけない。つまり商売にならないわけよ」
売れてけない。商売にならない。
ひろみにはこれらの言葉が突き刺さった。
「ひろみちゃんがこれからもこの仕事続けていきたいなって思ってるなら、女子力を上げるのが一番かも」
アリサの部屋をひろみは思い出した。窓にはピンクのフリルがついたカーテンがかけられ、床にはいちご型のカーペットが敷かれている。寝具は某人気猫キャラクターで統一され、ベッドの上には様々なぬいぐるみが乗っていた。
あれらがアリサの魅力を引き出す原動力だと言うのか。
ひろみは考えたこともなかった。
(続く)
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