ホステスと大学生-1話
作家名:バロン椿
文字数:約3080文字(第1話)
公開日:2020年9月27日
管理番号:k059
うだるような熱帯夜は人の理性を狂わす。大学生の小山謙介の二十歳の誕生日が叔母のスナック「世津子」で開かれたが、ホステスの小林潤子が自分の初体験を語り出したことから雰囲気がおかしくなってきた。「私は本気よ」と潤子は謙介を口説きにかかった……
誕生パーティ
8月も半ばを過ぎた木曜日。
スナック「世津子」は10人も入れば満員になってしまう小さな店だが、ママの田村(たむら)世津子(せつこ)のきめ細かな気配りと、ホステスの小林(こばやし)潤子(じゅんこ)のお色気が評判の店だ。
しかし、何もしなくても、汗が噴き出してくるような暑さに、今夜は客足が鈍い。
「もう閉めましょう」
「え、でもまだ10時ですよ」
「いいわ。今夜はお祝いだから」
ママの世津子の甥、小山(こやま)謙介(けんすけ)は今日が20歳の誕生日。
店を締めたら、ささやかなパーティをしようと計画していたのが、少し早まるだけ。
そう割り切った世津子は「いいわ。今夜はお祝いだから」とテーブルを片づけ始めた。
「ふふふ、今夜は特別ね」
「そういうこと」
「じゃあ、看板を外しますから」
そこに、トイレから出てきた謙介が「あれ、どうしたの?」と不思議そうな顔をしていた。
マヌケだが、それもご愛嬌。
「はい、おしぼり」と世津子が手渡したが、「あ、いいよ。ハンカチで拭いたから」と手をブラブラさせている。
世津子と潤子は思わず顔を見合わせ、ククッと笑いを堪えていた。
まあ、ともかく誕生パーティは始まる。
「潤子さんも座って」
「はい、ママ」
謙介は高校生の時から東京に来るとこの店に立ち寄っていた、童顔で背の高い「草食系」の男の子だが、今年、38歳になる潤子はこの謙介がお気に入りだった。
「ねえ、彼女、できた?」
潤子はテーブルにフルーツやグラスを並べながら、早速、ジャブを繰り出したが、ソファーに座る謙介は弄られることに慣れている。
「分かっている癖にそんなこと聞くなよ」と手にしたおしぼりを投げる格好で応戦した。
これはいつものやり取りだが、今夜の主役は謙介。
「さあさあ、それくらいにして」と世津子がとりなすと、「20歳なんだ、君も」と潤子はテーブルを挟んで向かいのスツールに腰を下ろしたが、ミニスカートだから、脚を組むと膝頭どころか太腿まで露になってしまう。
謙介は「え、まあ、そうですけど」と答えたが、全く上の空。
チラチラとそちらばかりに視線を奪われていた。
世津子が冷蔵庫からシャンパンを取り出し、「潤子さん、お願い」とボトルを渡すと、早くも耳を塞いでいる。
「ふふふ、いいかしら?」ともったいをつけた潤子がスポーン!と音を立て、コルクの栓を開けた。
「パーンって音が苦手なのよ」と世津子が恥かしそうに笑って潤子の隣りに座ると、それぞれのグラスにシャンパンが注がれ、乾杯の準備はできた。
「はい、20歳のお誕生日、カンパイ!」と世津子がグラスを持ち上げ、「謙ちゃん、おめでとう!」と潤子が続き、謙介は「ありがとうございます」と答えた。
よく冷えたシャンパンはのど越しがいい。
真っ先に「美味しいわね」と潤子が、続いて「うまい」と謙介も。
世津子は「ははは、謙介も味が分るの?」と冷やかしたが、甥の成長が嬉しそうだった。
「こっちも美味しいわよ」と潤子はフルーツケーキのお皿を手に取り、それを口に運んだが、向かいに座る謙介がチラチラと膝のあたりを覗き込んでいることに気がついた。
(ふふふ、これも誕生日プレゼント……)
潤子は揃えていた膝をわざと大きく開いた。
とたんに謙介がビクッと反応した。
隣の世津子は気がついていない。
ならばと、そのまま開いていると、顔がますます赤くなってきた。
これまた弄り頃と感じた潤子は、「全くエッチなんだから」と開いていた膝をピタッと閉じると、「あ、いえ、ち、違う」と謙介は慌てて目を逸らした。
だが、それは潤子の思う壺。
「ははは、可愛いのね」とからかうと、「潤子さん、だめよ。まだ子供なんだから」と世津子が助け舟を出した。
だが、潤子は止まらない。
「だって、20歳でしょう。もう大人よね」とまたも膝を開き、謙介にちょっとウインクしてみせた。
すると、たしなめるべき世津子は「そうじゃないのよ。この子、ぷっ……笑っちゃいけないよね。でもね、こんななのよ、はっははは」と小指を立てて見せた。
昨晩、謙介がオシッコをしている時、トイレの鍵を掛け忘れて、世津子に見られてしまった。
確かにその時は縮こまっていたから、大きくはなかったが、それでも中指はあったと思っていた。
「叔母さん!」と謙介は世津子を睨んだが、「ひどい叔母さんね。こんなだって、あははは」と潤子は囃し立てた。
すると、謙介は頬を膨らませ、ぷいっと横を向いてしまった。
だが、そこは百戦錬磨の潤子。
すかさず「ごめん、ごめん、怒った?機嫌直してよ」と謙介の横に座り直すと、体を押し付けてきた。
漂う甘いコロンの香りと彼女の体温、謙介の膨れっ面も緩んでしまう。
「お口、アーンして」と潤子にケーキを食べさせてもらうと、「本当だ、凄く美味しい」とご機嫌になった。
世津子は「二人して、全く」と言いながらも、楽しそうにシャンパンを飲み干していた。
ちょっと悪ふざけ
「ママ、ワイン、開けるわね」
シャンパンの次は、お口直しに赤ワイン。
オープナーでコルクを捻って開けた潤子はそれを世津子のグラスに注ぐと、謙介にも「グレープジュースみたいなものよ」と勧めた。
謙介はそれを一口、口に含むと「あ、本当だ。シャンパンより美味しいよ」と笑顔に、それを「あらら、飲めるじゃないの」と潤子が煽ると、「ふぅぅ……もう子供じゃないからね」と、一気に飲み歩し、「おかわり」とばかりにグラスを潤子の前に差し出した。
(ふふふ、面白くなってきたわ……)
ニヤッと笑った潤子が「よし、朝まで飲もうか?」と謙介のグラスに勢いよく注いだが、「ダメダメ、無理に飲ませちゃ」と世津子が止める。
口当たりがよくても、ワインのアルコール濃度は日本酒とさほど変わらない。
このまま飲ませたら、酔いつぶれるのは見えている。
しかし、せっかく誕生パーティを盛り上げようとする潤子の気持ちを汲まなければいけない。
「お酒は弱いけど、この子は姉の子だから、中身は私とは違うのよ」と意味ありげに笑うと、「どこが違うの?」と直ぐに潤子が食いついてきた。
「ふふふ。堅いのよ。この子の前では言い難いけど、姉は27歳で結婚するまで処女だったの」
「へえ、27歳まで処女?」
「結婚式の前の晩、母と姉が話しているのを聞いちゃったのよ」
「処女ねえ」
これも格好の弄り材料だ。
潤子はグラスのワインを一気に飲み干すと、「お母さん、結婚するまで処女だったんだって」と腕を謙介に絡めて煽り立てる。
「もう、潤子さんたら」と世津子はテーブルの下で潤子の脛を蹴ったが、彼女は全く意に介さない。
それどころか、「怒らない、怒らない」と世津子のグラスにもワインを注ぐと、「私はませていたから、18の時、30歳のオジサマが相手だったの」と初体験話を披露し始め、世津子や謙介を慌てさせていた。
「シティホテルのベッド、もうダメね。ムードに負けちゃって、メロメロ。いつに間にか裸にされちゃって、痛かったけれど、あははは。恥ずかしい」
「ふふふ、そういう話は内緒よ。さあ、白ワインを開けようかしら」
世津子は話題を変えようとしたが、潤子は構わず世津子に話を振ってきた。
「ねえ、ママはいくつの時?」
「えっ」
甥っ子の前で話すことではないが、こうなったら仕方がない。
世津子は割り切った。
「私は19。姉はいい子だったから、母の教えを守っていたけど、私はそうじゃなかったの。高校を卒業した年の冬、同級生の男の子のベッドで。オジサマとは違うから、まだ濡れていないのに入れてきたから、『痛い、もう止めて』って叫んだの。あれって途中では止められないのに。それで、終わったらシーツに血がついちゃって、大慌て。大変だったわ」
(続く)
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