君江と光男〜故郷に咲いた儚い恋-最終話
作家名:バロン椿
文字数:約2330文字(第4話)
公開日:2020年9月10日
管理番号:k056
これは今から30年程前の話です。しかし、当事者が今もご存命なことから、登場人物の名前は仮名としております。ご了解下さい。
「き、君江さん……」
光男は君江を抱き締め、今度も動かないが、「あぅぅ……」と呻き君江は腰が動き、膣を陰茎に擦りつける。
出したばかりの光男は何とか持ちこたえるが、襲いかかる快感は先程よりも大きく、「あぁぁ……いい、いい、光ちゃん、いい……」と熱病にでもかかったように喘ぐ君江の腰はまるで別の生き物のように動く。
そして、顔を歪めた君江は「あ、あ、ああああ、逝く、逝く、光ちゃん、逝く……」と体を反らして頂点に登り詰め、光男も同時に君江を抱き締め、「あっ!あっ!あっ!……」と果てていた。
離れられない
君江は午後4時が待ち遠しかった。
「こんにちは、川田工芸です」
「光ちゃん、ちょいと待っといて」
君江は浴室にいた。
光男は仕事場代わりの六畳間に荷物を置くと、奥の三畳間で着ていた物を脱いでいた。
「ええわよ」
「うん」
「うちも支度するから」
裸になった光男を浴室に送り出すと、君江は布団を敷いてから服を脱いだ。
鏡を覗いて、髪をピンで留めた。頬はほんのり赤らんでいる。
「お湯加減はどない?」
「うん、ちょうどいい」
「よかった」
君江はシャワーで体を洗い流すと、光男と入れ替わって湯船に浸かった。
「じゃあ、僕、上がるから」
「うちも直ぐに上がるから」
秋は日が陰ると、気温が下がるのも早い。
君江がバスタオルを体に巻いて三畳間に戻ると、光男が布団を半分捲って待つ、その寝床に「ありがと」と言って、バスタオルを解いて、生まれたままの姿で滑り込んだ。
「君江さん」と光男は唇を合わせ、チュッ、チュッ、チュッパ、チュッパ……と抱き締め、同時に乳房を揉み、それから乳首をしゃぶる。
「ああ、ええ、気持ちええ……」と悦ぶ君江は身を捩り、体を下げた光男は股間に顔を埋め、陰部に舌を伸ばし、舐める。
「あっ、あ、光ちゃん……」と反応は鋭く、直ぐに膣から愛液が湧き出し、小陰唇はヌルヌルになる。
そして、顔が歪む君江は「はぁ、はぁ、はぁ……あ、あ、あっ、あ、あ、あああ……」と首を左右に振り出し、仕上げにクリトリスに触れると、「えっ、あ、あ、そ、そこ……う、うぅぅ……」と体は反り返る。
待てない君江が「入れてぇ……」とせがむと、光男は太腿を抱えて体を重ね、陰茎が膣に。
もう二人は離れられなくなっていた。
突然の別れ
しかし、運命は残酷だ。
「君江はん、すまないね。大阪から人が来はるさかい」
兄嫁は言葉こそ丁寧だったが、「出て行け」ということだった。
元々剃りに合わなかった兄嫁は、「義妹にタダで使わせるくらいなら、他人に貸した方がいい」と夫にも断らずに話を決めてしまった。
3月、君江は職を求めて大阪に引っ越して行ったが、光男は「友達と神戸に行く」と親に嘘をつき、君江を追いかけていった。
借りたアパートは古く、荷物を運びこみ、何とか寝れる状態にしたが、既に外は薄暗くなっていた。
時計を見ると午後5時を過ぎていた。
「引っ越しそば、ふふふ、ご飯食べに行きまひょ」
故郷では他人目があって、一緒に出掛けることなんか出来なかったが、ここは大阪。そんなことを気にする必要などない。
腕を組み、道頓堀を歩き、居酒屋に入って、夕食を済ませると、そこから少し外れたところにあるラブホテルに入った。
和室に布団が二組敷いてあるだけの殺風景なものだが、これからは会うのは難しくなる……そう思うと、気持ちが異様に高ぶり、二人は抱き合い、唇を合わせると、そのまま布団に倒れ込んだ。
帰らなくていい、朝まで一緒に過ごせる。
交わっては眠り、目が覚めては交わる。何度セックスしたか、覚えていない。
「待っとるから……」
駅で別れる時、君江はギュッと手を握っていた。
その約束通り、光男は高校を卒業すると、君江を訪ねて大阪に行った。
だが、間もなく、故郷に戻ってきた。
都会で女が暮らすのは厳しい。
働く場所は居酒屋やキャバレーしかない。
故郷にいた時のような普段着ではなく、着飾る君江は、光男の目には全く違う女に映っていた。
「うちは光ちゃんが好きよ」
そう言われても、若かった光男には受け入れられなかった。
その後の二人
光男は家業を継ぎ、結婚、子供も出来、幸せな家庭を築いた。
だが、商売はそうはいかなかった。
観光産業は浮き沈みが激しく、郷土玩具も例外ではなかった。
なんとか頑張ったが、中国からの格安品が入ってくると、太刀打ちできない。
20年後、とうとう、「川田工芸」の看板を下ろさざるを得なくなった。
「町に出るか……」
そう思って光男は苦い思い出の残る大阪に働きに出た。
苦しかった。
だけど、家族が離れ離れになることだけはいやだ。
死に物狂いで働き、何とか家族揃って生活が出来るようになった。
そして、余裕が出来ると、取引先から「川田さん、たまには如何ですか?」と誘われるようになった。
そんな折、立ち寄った居酒屋で君江らしい女の噂を耳にした。
「気立てのええ人で、京丹後の生まれだとか」
「誕生日だというんで、お客仲間で大きなケーキをプレゼントしたら、『うちはこちらがええ』とスーパーで売っているようなアイスクリームケーキを食べているんだよ」
「そうそう。それで『どうして?』と聞いたら、『昔、恋人が買ってくれたやけど、食べ損ねてしもうて、これがどうしても食べたい』だとさ」
「でも、きれいな人や」
「お前、惚れたか?」
「ははは、そういうお前だって」
間違いなく君江だ。
光男はとても会いたかった。
でも、会ってどうする?
言い訳でもするのか?
今の生活を話すのか?
悩んだ末、光男は結局、気が引けて会いには行けなかった。
京丹後市の橘家の菩提寺、君江は毎年お彼岸になると花を供えに帰ってきた。
彼女は実家には寄らなかったが、必ず川田工芸の工場を遠くから眺めて帰っていった。
しかし、工場が無くなってからは、お彼岸にも帰ることはなくなった。
(終わり)
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