卒業式のあとで-前編
作家名:カール井上
文字数:約3130文字(前編)
公開日:2020年7月27日
管理番号:k045
相●線ってご存知ですか。
神奈川県の橋本駅から茅ヶ崎駅までを結んでいるローカル線ですね。
しかし古くはあのユー●ンが歌詞にしている知る人ぞ知るの路線なんですよ。
面白いのは降りる人は自分でドアを開けなければならないということです。
JRのローカル線にはよくあるのですよね。
電車が停車して降りようと思っても、自分でドアを開けるボタンを押さないと降りられません。
誰か他の人が押してくれればいいのですけれどね。
知らないと、隣のドアは開いたのに自分が降りようとするドアは開かないなんてことになります。
沿線には寒川神社があったり鈴鹿明神社があったりと、お正月は結構混むのですよね。
それ以外は通勤通学の時間を除けばのんびりとした電車です。
さて、ある用がありましてこの路線を利用したときの話です。
まだ春が来たとはいえない、2月の終わり頃でした。
午後1時半くらいだったでしょうか。
まだ下校時間には少し早いとは思うのですが、女子高生がひとり乗り込んできたのです。
空いていましたから座るところはいくらでもあったのですが、なんと私の真正面に座ったのでした。
髪が長く、色白の肌をしています。
お化粧しているらしく、唇はかなり色づいていました。
そのせいかどうかはわかりませんが、かなりの美人なのでした。
高校生なのですけれどね。
ちょっと面長で、目も大きくて、口許もセクシーなのですよ。
いまどきの高校生らしく極端に制服のスカートを短くしています。
座るやいなや脚を組み、右手のスマホをいじり始めました。
別にどうでもいいことなのですが、空いている車内で正面に座られていますと、どうしても目が行きますよね。
きれいな長い脚を組んでいますから露出部分も多くて目が離せなくなりますよ。
暫くしますと居眠りを始めてしまいました。
スマホを持った右手はだらっと下がってしまい、組んでいる脚も微妙に締りがなくなってきます。
奥の方まで見えそうで見えなさそうでって感じですね。
もしもズズッと腰をずらして視線を下げればよく見えるかもしれませんが、そこまでの意欲もわかなくってといったところでした。
いくつ目かの駅に停車した時に、ちょっと離れたところに座っていた中年の女性が下車する時に、わざわざその女子高生のところへ行き、「だらしないわね!」なんて叫びながら、その子の脚に手をやって組まないようにさせたのでした。
何が起きたのかよくわからなかったのですが、ひょっとするとそのおばさんの座っていたところからは、脚の組み加減でスカートの中がよく見えていたのかもしれませんね。
降りるついでに注意してやったということなのでしょうか。
女の子の方も居眠りをしていましたから何が起きたのかっていう顔をしていました。
海老名駅に到着しました。
ここは面白いところで、かなりの地方都市であるにもかかわらず、このJR相●線そして私鉄の小田急線、相鉄線の3線が乗り入れているという交通至便なところなのです。
私はここで小田急線に乗り換えるつもりでこの相●線の電車を降りました。
JRの改札を出て、小田急の改札に向おうとしていたときでした。
後ろから、「すみません。」という声が聞こえます。
若い女の声で、ちょっと甲高くて心地よい声でした。
まさか自分が呼ばれているとは思いませんよね。
知り合いがいるところでもないですし。
しかし「すみません。」は繰り返されます。
しかもさっきよりも近くで声がするような。
振り返ってみました。
なんと先ほどの美人女子高生がすぐ後ろで私のことを見ているのです。
周りには誰もいませんので、明らかに私を呼んでいたのでした。
何だろう?何も用はないと思うけれど。
黙ってその子の顔を見てみました。
「あの、すみません、私、お腹が減っていて、何か食べに行きませんか?」
というのですよ。
到底すぐには理解できないですよね。
あるいは関わってはいけない種類の人なのかも。
美人だけど気の毒な人なのかも。
黙って無視して行ってしまおうとしたそのときです。
「驚かせてごめんなさい。だけど援助交際の申し込みなんです。おじさんなら大丈夫じゃないかと思ったんで。」
さっきよりは多少は辻褄が合う話になってきたようにも思えますが、しかし真昼間に堂々とそういう申し込みをされても困りますよね。
幸いそのときは聞こえるところには他の人は誰もいませんでしたけれど。
さあここで短時間で無い頭を絞ってこの何ともいえない状況にどう対処すべきかを思い巡らせました。
最終的には、虎穴に入らずんば虎児を得ず、ということになるのですが、とりあえず、お腹をすかせた美少女を救うということで手を打ちました。
自分の心の中でね。
その後の展開は腹を満たせてから考えようということにしたのです。
「よくわからないけど、ご飯を食べるのはいいよ。」
「ありがとう!私好き嫌い無いんです。」
いい子なんだね。
援助交際の決まり文句なのかな。
「駅の近くにちょっとしゃれたステーキ屋さんがあるけど、どうかな?」
「ハーイ、お任せします!」
ということになりました。
ショッピングモールの外れにあるアメリカ風とオーストラリア風が混ざったようなステーキハウスに入りました。
店員に指定された席に着くとすぐに、彼女は鞄から小さな包みを取り出して、「ちょっと待っててね!」と叫んで化粧室に入っていきました。
何をしているのやらと思いながらも、メニューを見て何にしようかなと考えていたときです。
制服から白いドットの入った赤いワンピースに着替えた彼女が席に戻って来たのです。
「制服じゃ不味いけど、これならどこでも行けるよ。」
まあ気を使っているというか、いろんなことをわかっているというか、大変ですよね。
フィレステーキとこの店の人気メニューのブルーミングオニオンを食べさせました。
これは大き目のオニオンに刻みを入れて油で揚げてあるもので、花が咲き開くような外見になっているのです。
特製ソースにつけて食べると美味しいのです。
「飲み物もらっていいですか?」
キャバクラみたいになってきましたね。
コーラでも飲むのかと思いましたら、ストローで飲む甘いカクテルを選んでいました。
高校生にお酒はどうかと思いましたが、まあいいかって感じですよね。
美味しかった、お腹いっぱいといいます。
ごちそうさまっていわれて、じゃあさようならっていわれればそれはそれでいいと思っていたのですが帰ろうとはしません。
反対にあまり遅くなれないから早く行こうというわけですよ。
どこへ行こうといっているのはわかりますから、そんなにいうのであれば受けて立とうということになりますよね。
ステーキハウスを出て、駅の近くにあるラブホテルに入りました。
制服ではなく赤い水玉のワンピースですから何も問題ありません。
本当かな?
部屋に入りますと、お風呂を入れますねといっていそいそとお湯を出したりしています。
何でも知っているんだなと思いますよね。
そしてふたりでソファーに座りました。
適当な金額を渡します。
「えーこんなに!ありがとうございます。」
えっ、多かったのかな、聞いてから渡せばよかったと思いましたけれどまあいいでしょう。
これからのことが当たりなのか外れなのかわかりませんけれど。
手を握って目を見つめ、ちょっとでも雰囲気を出そうと思いました。
高校生には通じないかなとも思いましたけどね。
結構おしゃべりな子でいろいろ話してきます。
「電車に乗るときにおじさんが見えたの。ああ、このおじさんなら大丈夫だなあって思ったのよ。私の勘、当たるの。ご飯も食べさせてくれて、お金もこんなにくれて本当にありがとう。何でもするからいってね!」
なんていうわけですよ。
どこまで本気にしていいのやら。
何でもって何のことをいっているのかなっていう気もするし。
(続く)
※本サイト内の全てのページの画像および文章の無断複製・無断転載・無断引用などは固くお断りします。
メインカテゴリーから選ぶ