優しいレイプ犯-前編
作家名:くまあひる
文字数:約4180文字(前編)
公開日:2020年7月20日
管理番号:k043
今日は珍しく残業がなかった。
事務職の私とサービス業の彼、休みは合わない。
デートはもっぱら土曜の夜か、彼が休みの平日の夜。
今日は会う約束はしていないし、彼が休みかどうかも聞いてない。
休みだったら家で寝ているかも、そう思った私はスーパーに寄り夕食の食材をかごに入れていく。
もし仕事だったらご飯作って、掃除して帰ろう。
合鍵を使って彼の部屋に入る。
すぐ聞こえてきたのは聞こえるはずのない性別の声。
何をしている声かは誰が聞いてもわかるだろう。
もしかしてAVを見ているのかも、そう自分を落ち着かせようとドアの前で立ち止る。
でも、その声はこの部屋の主の名前を呼んでいた。
「祐樹っ!あん、いいっ!」
ドアノブに手をかけてどのくらい躊躇っていただろうか。
まだ信じたくない気持ちと、彼を信じたい気持ちを抱いてドアを押した。
一人しかいてはいけないベッドには二人の人間が重なっていた。
女が彼の上で長い髪を揺らしていた。
「香奈!?お前っどうして、今日は仕事だろ」
「早く終わったから・・・」
「この人が祐樹の彼女?
ねえ、祐樹はさぁアンタとじゃ満足できなくて、私とこんなことしてるんだって。
でもね安心して、私はセフレ、割り切った仲だからさ。
もしよかったら見学してく?勉強になるかもよ、ふふっ」
私とそう歳の変わらないだろうその女性は、自信たっぷりに笑って見せた。
「よせよ」
「ホントのことじゃない、つまんない女って言ってたじゃん」
私は黙ってドアを閉めた。
彼の部屋を出てどう歩いてきたのかわからない。
合鍵を置いて、鞄を持って、それからひたすら歩いて・・・。
もう泣いても周りに気づかれないというくらい周囲が暗くなってきた頃、私は公園の奥のベンチに腰掛けた。
人通りも少ない場所の公園、日中はそれなりに子供の遊び場となっているだろうけど今は少し声を上げて泣いても不審がる人もいないだろう。
いきなり行った私が悪かったの?
いや、そこが問題じゃないはず。
問題は女が言ったあの言葉だ。
つまらなくて全然満足できない・・・・。
私は祐樹しか知らない。
確かに祐樹とのセックスでイッたことはない。
でも、そのうちと思ってた。
なのに祐樹はそうじゃなかったんだ。
だったら言って欲しかった。
あんなの見せられて、しかも女から暴露されるなんて・・・。
祐樹が浮気していたこと、浮気相手に暴露されてしまった内容、私の女性としての自尊心は粉々だ。
涙はいつまでたっても止まらない。
立ち直れる気が全くしない。
それでもそろそろ帰らなければとゆっくり立ち上がった時、後ろから口を塞がれ、遊具の裏に引きずりこまれた。
声を上げようとしたら、静かにして!と耳元でささやかれる。
今自分がどういう状況に置かれているのかすぐに理解できた。
相手は若く背の高い男のようだ。
顔はわからない。
遊具に押し付けられ身動きが取れない。
「やっ、やめて、」
「ごめん、静かにして!」
そう言って彼の唇は私の口を塞いだ。
すぐに舌が入り私の舌を蹂躙する。
でも無理やり割り込んできたにしては乱暴ではない。
後ろ頭を抱えて、繰り返されるキスに私は朦朧とする。
胸をやわやわと揉み、キスを繰り返す。
何かおかしい。
レイプって押し倒されて、服を引き裂かれて、すぐに入れられちゃうってヤツなんじゃ・・・。
そんなことを考えることが出来るほどこの男の行為はレイプとは程遠い。
ブラウスのボタンが一つずつ外され肌が冷たい空気にさらされる。
「やめてっ!犯罪よ」
「・・・・何で泣いていたの?」
「っ!」
答える間もなく唇を重ねられ、ブラの肩紐をずらされる。
「さっきまで泣いてたのに、こんなことされても泣かないんだ、不思議な人だね」
そういわれればそうかもしれない。
もっと泣いて喚いて、暴れて、力の限り抵抗するのが普通だろう。
見も知らない、顔もわからない、もしかしたら殺されるかもしれないのに。
さらされた胸の先端を軽く摘ままれると、ピクリと体が反応する。
首筋には熱い息と舌がゆっくりと這う。
「ねえ、名前教えてくれない?下の名前、偽名でもいいからさ」
「偽名?」
「うん、出来れば本名がいいけど、嫌なら今だけの名前でいい」
舌が乳首に這った時、思わぬ快感が体を走った。
「香奈」
本名を口走ってしまったことを後悔したが、これが本名か偽名かはこの男にはわかるまい。
男は「俊介」と名乗った。
抵抗して逃げようと思えば逃げられるかもしれない。
なのに私は逃げる気をなくしていた。
男がもっと乱暴だったら恐怖で暴れていただろう。
でも、この男から凶暴性も嗜虐性も殺意も感じられない。
「何考えてるの?レイプされかけているのに」
「そっちこそレイプってもっと無理やり感あふれてるんじゃないの?」
「・・・ホテル・・・行かない?」
「はぁ?あの!私が逃げるとか警察に駆け込むとか思わないの?
自分が逮捕されるかもしれないんだよ、人生終了だよ」
「あはは・・・香奈優しいね、こんな目にあってるのに僕の心配してくれるんだ。
でも逃げるんならもうとっくに逃げてるよね」
「・・・・・」
それから男は私の乱れた服を整えてくれて、手を引いて歩き始めた。
決して私が逃げないように繋いでいるふうには見えない。
会話などない、でもその手はとても暖かい。
私たちは見ず知らずの二人にも見えないだろう。
もちろんレイプ犯とその被害者にも。
どこかのラブホテルに連れ込まれるのかと思っていたら、男が入っていくのは普通のシティホテルだ。
フロントでダブルでと指定しているのを聞くと、これからされるであろうことを想像されそうで恥ずかしい。
この男はなぜ手を放して私を椅子に座らせて待たせているのだろう。
逃げると思わないのか。
それよりなぜ私は逃げないのだろう。
失恋したてで人恋しいから?もうどうなっても構わないから?
そうでないとは言い切れない、一人でいる底なし沼に沈んでしまいそう。
鍵を受け取った男が戻ってきて、自分の手を差し出した。
強要ではなく同意を求めるかのように・・・。
エレベーターに乗った時、初めて男の顔をまじまじと見た。
なぜこんな男がこんなことをするのだろう。
この顔なら放っておいても女が寄ってくるだろう。
そういう性癖があるのか・・・となると今更だが殺されたらと不安になる。
「何?」
男が私を見下ろす。
「ううん」
慌てて下を向く。
男はどう思っただろうか。
さっきまで泣き通しで、きっと化粧も剥げ、目も腫れて、鼻も赤くなっているだろう。
いやいや、私はレイプ犯相手に何を考えているのか。
部屋に入り、その奥にあるベッドが見えた瞬間、現実に引き戻された。
「あ、あのシャワーを」
「わかった」
鏡で見る自分の顔は失神しそうなくらいひどかった。
化粧を落としてシャワーを浴び、備え付けの夜着に袖を通す。
どうして自分はこんなところにいるのだろう。
自分の貞操観念はどこへいったのだろうか。
見ず知らずの男にこれからレイプ・・・・
いや、もうレイプではない。
自分がここにいるのがその証拠だろう。
コンコンとドアを叩く音がした。
「香奈、大丈夫?」
慌ててドアを開けると心配顔の男が立っていた。
男がクスリと笑った。
「何?」
「スッピンになると、ちょっと幼くなったね、かわいい」
そういうとバスルームに入って行った。
程なくして出てきた男は、バスタオルを腰に巻いているだけだ。
髪からはまだ取りきれてない水が滴っている。
まさに“水も滴るいい男”だ。
ベッドに腰掛けた彼の頭に自分のタオルを被せ、軽く抑える。
俊介の腕が私の腰にまわって、膝の上に横抱きにされた。
「ありがと、ごめん」
何のお礼と謝罪なのだろう。
考える間もなくベッドへ寝かされた。
帯を解かれ、前がはだける。
「あの・・・」
「うん?」
「ううん、何でもない」
「怖いとか、痛いとか、言ってくれていいから」
「やめてくれるの?」
「・・・・」
「いいよ別に。どうせ私なんて・・・後悔するのはたぶんそっちだよ」
一瞬、俊介さんの目が大きく開いた。
そして目をそらして「そんなこと言うな」とつぶやいて額にキスを落とした。
公園よりも格段に優しいキスが繰り返される。
チュッというリップ音が耳に響く。
耳に舌を入れられ息が漏れる。
「気持ちいいところ教えて」
そう言われても、祐樹しか知らない私はこういう時どう答えたらいいのかすらわからない。
祐樹もこういうところがつまらなかったのかな。
今頃気づいても仕方ないけど。
いきなり腕を上にあげられ、脇を舐められた。
「ひゃっ!」
「よそ見してるからだよ、今は僕のことだけ考えてて」
少し怒っているような感じがした。
脇を舐めていた舌がだんだん胸を這い、敏感な先端に届きそうなところで、避けられる。
片手で形を変えられる自分の胸を見ると、それがとても淫らな部分に思えて顔をそむけると、顎を掴まれ、お仕置きのようにキスを貪られる。
キスをしながら、敏感になっている胸の先端を親指でこねられると強い刺激に驚いて彼の唇を噛んでしまった。
「ご、ごめんなさい、痛かった?」
「いや、そうじゃなくて、ココ弱い?」
「よくわからないの、今まで・・・そのあんまり気持ちいいとか思ったことなくて。
その、元彼しか知らなくて・・・、勉強不足で・・・浮気されちゃった」
「だから泣いてたの?」
「うん・・・そういうわけで・・・ゴメンね、ご期待には応えられないと思う」
「そんなの相手次第だと思わない?」
男は自分にそう言い聞かせるように私に問う。
ツラそうなその表情を見ているとこちらもいたたまれなくなる。
「そう・・・かもしれないね」
「香奈、気持ちよかったら言って、そうじゃなくてもフリなんてするな」
黙って頷くと男は乳首を口に含んだ。
舌を小刻みに動かされ、時に強く吸われる。
「あっんん」
思わず上がった声に思わず口を押えてしまう。
「かわいい声だね、そそる」
口を押えていた手が強引に外され、その手にキスをされる。
私を仰向けにして自分は添い寝のように横たわり、私の顔を見つめながら手はそっと秘部に触れる。
見ず知らずの男の手は祐樹より優しい。
そっと壊れ物を扱うように、傷つかないようにゆっくりと指を滑らせる。
指が入り口に触れたとき、「あっ」と声が上がる。
「痛い?」
「ううん、大丈夫」
必要最低限の言葉しか交わさないが私は不思議な安心感を感じていた。
次第に指が奥まで入り込み、クチュクチュと音を立てる。
時折、交わされるキスは、私を安心させようとする彼の気遣いのようにも思える。
(続く)
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