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出奔の果て-1話



作家名:バロン椿
文字数:約4030文字(第1話)
公開日:2020年7月8日
管理番号:k040


山の中の工房で陶芸作品作りに励む柳本とその弟子、川島建夫のところに、バツ一の山本佳代子が来たことから始まる微妙な人間関係等を描いた作品です。



挿絵の官能小説画像


山の宿

川島(かわしま)建夫(たてお)、20歳、山本(やまもと)佳代子(かよこ)、42歳。二人は旅を続けて1ケ月。
その日も朝、宿を出てから一日中、車で走り通し。

「建夫、大丈夫?」
「うん」

そんな筈はない。
時折、片手でハンドルを握りながら、もう片方の手で自分で肩を揉む様子からひどく疲れているのが分かる。

お願い、少しでいいから休ませて……佳代子はそんな気持ちだった。

だが、山沿いの国道に差し掛かった頃、曇りがちだった空から急に大粒の雨が落ちてきた。
あたり一面が水煙に覆われたような激しい雨で、前が見えない。

国道であっても、山沿いの道ではラブホテルすらない。
日が暮れて来た頃、ようやく道沿いに小さな木造の旅館を見つけた。

雨を避けるように小走りに玄関に駆け込むと、「いらっしゃいませ」と仲居が笑顔で迎えてくれたが、遅れて出てきた女将に「ご予約頂いておりますか?」と渋い顔になった。

観光シーズンのせいなのか、古く寂れた雰囲気の旅館なのに、満室なのか?

「いえ、そうではありませんが、どんな部屋でも結構ですから、お願いします」と答えると、「お泊りになられるようなお部屋ではありませんが、それでもよろしいですか?」と念押ししてきた。

この先、どこまで車を走らせたら宿が見つかるか分からない。
嫌だと言える状況ではない。

「お願いします。それで結構ですから、お願いします」と佳代子が頭を下げると、女将は「そうですか。それでは、こちらにご記入ください」と宿帳を差し出した。

佳代子はペンを取ったが、その傍らでは建夫のあくびが止まらない。

「随分お疲れのようですね」と女将は気遣いながらも、しきりに佳代子と建夫の顔を覗き込んでいる。

嫌な予感がした佳代子は「ええ、寝不足で」と言い、宿帳には「柳沢静江、柳沢謙治」と偽名、住所も適当なものを書き込んだ。

そして、ようやく案内されたのは納戸のような四畳半。
本当に狭く、布団を二つ敷いたら隙間も無くなるが、横になれればそれだけでいい。

仲居は、「夕食は大広間に用意しますから、その前にお風呂に行かれたらどうですか」とだけ言って、下がっていった。



大浴場はロビーの奥にあった。
手前が男湯で、女湯は奥。

硝子戸を開けて脱衣所に入ると、既に夕食時間になっていたせいか、思いの外、空いていた。
佳代子は浴衣の紐をほどき、裸になると、タオルを手に浴室のドアを開けた。

「お母さん、気持ちいいわね」
「本当。いいお風呂。生き返るわ」

先客は母娘らしい。
湯気が立ち込め、顔ははっきり見えないが、一人は50代半ば、もう一人は30代前半のようだ。

佳代子もシャワーで軽く体を洗い流すと、湯船に浸かった。

「ふぅ……」と体の力を抜き、両脚を広げると、体に溜まっていた疲れが足先から抜けていくようで、とても気持ちが良かった。

湯は透き通る程にきれいで、自分の乳房も美しく見え、陰毛はまるで海藻のように揺れている。

建夫……

彼のことを思い浮かべた佳代子は目を閉じると、自然に右手で乳房を掴み、左手は股間に伸びていた。

だが、ここは大浴場。

佳代子の振る舞いに気がついた50代半ばの女は露骨に嫌な顔をして、湯船から上がり、30代前半の女は佳代子の顔を覗き込むと、何かに気がついたようで、50代半ばの女を追いかけ、浴室から出て行った。

目を閉じている佳代子はそんなことに気づかず、「早く抱いて……」と左手で股間を弄り始めていた。


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最後のセックス

夕食から戻ると、もう二人は起きているのが辛く、布団に潜り込むと、泥のように眠り込んでしまった。

***

(何かしら……)

佳代子は廊下から聞こえてきた微かな物音に目が覚めた。
枕元の時計を見ると午前5時を少し過ぎている。

昨日の雨は嘘のようにあがり、朝の陽が眩しく部屋に射し込んでいた。

隣りで眠っている建夫の顔には旅のやつれが表れていた。

佳代子は髪のほつれを手で直しながら、体を起こすと、建夫の掛布団を捲って、浴衣の裾を広げた。疲れ切っている彼は「ふぅぅ」と唸るだけで気が付かない。

(これが最後ね…)

佳代子は建夫のパンツを引き下ろすと、タラコのようにだらっとしているペニスを指で摘まんで口に含んだ。
これまで何度も咥えたが、眠っている時は初めて。

ジュル、ジュルジュル、ジュポ、ジュポ…と扱き始めると、「あ、ああ、何だよ…」と建夫がようやく目を覚ましたが、まだ寝ぼけた顔でこちらを眺めるだけで、反応は芳しくない。

それならばと、佳代子は首を振るスピードを上げ、ジュポ、ジュポ、チュパチュパ、ジュル、ジュルジュル……と音を立てて扱きだした。

すると、「あ、いや、か、佳代子さん…」と呻き、ペニスはたちまち硬く大きくなった。

(疲れているのに、本当に凄い……)

時を逃してはいけない。
佳代子は咥えていたペニスを離すと、浴衣を肌蹴て横になり、腰を浮かせてパンティを脱ぎ捨てた。

「私のも舐めて」
「うん」

攻守交代。
体を起した建夫が佳代子の股間に顔を埋め、ジョリ、ジョリと舌が陰毛をかぎ分け、チュパ、ジュル…と性器を捉える。

「はぁ、ふぅ…あ、あっ、あああ……」

気が入っているから濡れるのも早い。

「あっ、あっ、あ、いい、あっ、あ、ああ…建夫、い、入れて…」

分かっているよ、僕だって……建夫は佳代子のお尻を抱えると、ペニスを性器にグッと挿し込んで、そのまま重なった。

「はっ、うぅ、う、う、うぅぅ…」
「佳代子さん…」

佳代子を抱きかかえた建夫の腰が激しく動き、パン、パンと下腹部がぶつかる。

「いい、いい、もっと、もっと……」

せがむ佳代子の口は開き、「あ、あっ、あ、あああ……」と喘ぐ声が響く。
部屋の外にも聞こえているに違いない。

しかし、昇りつめようとしている二人にはそんなことはどうでもいい。

川島建夫

川島建夫はサラリーマンの父親と専業主婦の母親の間に生まれ、一人息子として何不自由なく育てられた。

「明日はドライブに行くぞ」
「え、本当?」

「本当だよ。お母さんにお弁当を作ってもらってな」

父親はこんな風に、母親は、「建夫ちゃん、ちゃんと勉強してからよ」と優しくも、厳しくもあった。

その甲斐もあり、建夫は素直で明るい少年に成長した。


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しかし、15歳の時、悲劇が起きた。
夫婦揃って買い物に出かけた両親の車にダンプカーが突っ込み、二人は亡くなってしまった。

悲しみにくれる通夜の席では、誰もが「しっかりするんだよ」と温かい言葉を掛けてくれたが、葬儀、初七日と終わり、では、誰が建夫の面倒を見るかという段になると、「いや、うちは家が狭くて」、「年老いた両親がいるから」と、次々と去って行き、最終的に、母親の従弟にあたる山田夫妻が押し付けられるように建夫を引き取ることになった。

両親の愛に包まれた家庭から、親戚とはいえ他人の家庭に入る、生活は一変した。

「自分の家だと思って暮らしなさい」
最初は山田のおじはそう言ってくれた。

おばも「困ったことがあったら、何でも言ってね」と優しかった。
しかし、一緒に暮らせば、色々と粗も見えてくる。

「買い物を頼んであったでしょう?」
「あ、いけない。忘れちゃった」
「困るわよ」

「これ、誰からの電話?」
「あ、聞き忘れた」
「それじゃあ、留守番にもならないじゃない」

一つ一つは些細なことだが、積もれば、「いったいどんな躾をしてたのかしら?」と、亡き両親への悪口にまで発展するが、こういうことは、建夫の耳にも入ってくる。

ただでさえ、両親が亡くなって寂しいのに、追い討ちを掛けられたようで、更に気持ちが沈む。
素直で明るい性格は影を潜め、それを、「愛想がない」とか、「ぶっきらぼうだ」とか言われてしまった。

せっかく高校に入学したものの、勉強しようという気持ちは薄れ、学校をサボって町を彷徨うことが多くなった。

そんな建夫を良からぬ者たちが見逃す筈がない。

「おーい、川島!」
「あ、こ、こんにちは」

取り囲んできたのは、鼻摘みもののヤンキーたち。

タバコの煙をふぅーと吹き掛け、
「何をしているんだ?」

「授業をふけてきたのか?」
「ははは、俺たちとは違うか?」

と絡んできた。逃げ出したいが、相手は1学年上で、しかも、3人だから、とても無理。

「吸えよ」とタバコを渡されたが、「いえ、僕は」と断ると、「付き合い悪いな」と頬をピタピタと叩かれた。

怖くなって、「ち、ちょっと、吸ってみます」と口にすると、「ははは、そうだ、そうこなくちゃ」と、仲間に引き込まれてしまった。

「川島、金、持ってるか?」
「あ、いえ、500円なら」

「バカ野郎! そんな金じゃ遊べねえだろうが。よし、あそこの2人から巻き上げてこい」

「僕はそんなことは」
「つべこべ言わねえで、金を取って来い」

しかし、こんなことをしていれば、パトロール中の警察官に出くわすものだ。

「おい、君、何をしているんだ?」と呼び止められたが、「あ、いえ、その、忘れ物をして」と振り切った。しかし、警察は甘くない。

顔を覚えられたから、二度目は逃げ切れない。
「世話を焼かせるな」と腕を掴まれ、補導されてしまった。

「学校にも行かず、毎日のようにこんなことばかりしているようでは、ろくな人間にならない」とたっぷり叱られた上に、「常習者」として学校に通報された。

身元引受人として警察に呼び出された山田のおばは、恥をかかされたという思いから、建夫の顔を見るなり、「全く、厄介な者を預かったものよ」と言ってはならぬことを口にしてしまった。

これで居場所がなくなった建夫は、その夜、「うるせえなあ! 出て行けばいんだろう」と悪態をついて家を飛びした。
その後はお決まりのコース。

工事現場に転がり込み、酒と博打の暮らしに身を落とし、高校はそのまま自主退学となってしまった。

落ちるところまで落ちてしまったが、見かねた親戚の一人に「建夫、こんなことをしていたら、亡くなった両親が悲しむだけだぞ」と諭され、「生まれ変わったつもりで修行してこい」と山の工房に連れて来たのが、柳本(やなぎもと)清三(せいぞう)との出会いだった。




(続く)





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