女豹の如く-1話
作家名:ステファニー
文字数:約4450文字(第1話)
公開日:2020年7月5日
管理番号:k039
貧困家庭で育った少女ひろみは高校卒業後、貧乏から脱するために上京し、性産業へ足を踏み入れる。性の悦びを覚えることを通して、一人の女性として成長していくひろみの姿を描く。
新宿歌舞伎町のとある雑居ビル。
その一室に女たちは集められていた。
「この度はいちご企画のモデルオーディションにお集まりいただき、誠にありがとうございます」
グレーのスーツに身を包んだショートカットの女性社員が挨拶した。
モデル事務所の社員にしては容姿も服装も冴えない女だ。
「私は採用担当の山下と申します。では早速ですが、当社のお仕事内容についてお話させていただきます」
山下はスーツのブレザーをぐっと下に引いた。
太鼓腹を隠すために時折、そうしているのかもしれなかった。
「当社はアダルトビデオ及びストリップ劇場のモデル専用事務所です。従って、採用にあたっては皆さんのヌード写真撮影をさせてもらって判断を致します。今からヌードになれるという方のみ、このままその場にお残りください」
狭いビルの一室がざわついた。
それと同時に、女性たちが一斉に立ち上がる。
ありえない、冗談じゃない、だまされた。
それぞれがそれぞれの悪態をつきながら部屋をあとにした。
「残るお二人はやりますか?」
四列縦に並べられた長机の最後部にいた二人だけがその場に残っていた。
「はい。私はおっぱいでもアソコでも全然見せます」
腕と脚を組んだその女は不敵な笑みを浮かべながらそう言った。
ミニスカートからは肉付きの良い太ももがのぞき、ピッチリしたニットには豊満なバストが見てとれた。
「あなたはいかが致しますか?」
残る二人のもう一人、富近ひろみは山下に見つめられ、しばし固まってしまった。
静岡県浜松市の市民プール。
蝉の声が鳴り響く八月の日、ひろみは高校の友人たちとここを訪れていた。
高校最後の夏休み。
周囲は進路について騒いでいたけれど、進学も就職も考えていないひろみは、時間を持て余すばかりだった。
雨の日と生理中以外は、一緒に訪れてくれる友達が見つからなくても、ほぼ毎日のようにプールに足を運んだ。
そうでもしないと、うだるような熱さを乗り越えられる気がしなかったからだ。
塩素で少し色褪せつつある黄色いビキニ姿で、浅瀬のプールで友達と三人、ビーチボールをしていた時だった。
「こんにちは。ちょっとお話いいですか?」
丸とも三角とも言えないいびつな陣形を築いていた三人の輪に、男の脛が侵入してきた。
三人はきょとんとして手を止めた。
「いちご企画の野見と言います。ちょっとお姉さんとお話したいんだけど、いいかな」
野見と名乗るサングラスをかけた男が落ちたビーチボールを拾うために屈んだひろみに近寄った。
連れの友人たちは対岸ではしゃいだ声を上げた。
「お姉さん、スタイル良いよね。今、何歳?まだ学生さん?」
ひろみはボールを拾い上げて野見と向き合った。
「高三です」
「そうか。モデルとか興味ある?ウチは小さい事務所だけど稼げるよ」
稼げる。
このフレーズがひろみの心に突き刺さった。
「やりたいです。是非」
ひろみは持っていたボールを胸元から腹部まで下げた。
野見は黒茶のサングラスを真夏の光線に反射させながら、黄色いビキニの描く稜線に目を走らせた。
「そしたらさ、高校卒業したらここに連絡ちょうだい」
野見は水泳用トランクスのポケットからアルミ製のケースを取り出し、ひろみに名刺を差し出した。
いちご企画
新宿区歌舞伎町
ひろみが憧れ続けていた街だ。
野見はひろみが名刺を受け取ると踵を返し、人混みに消えて行った。
友人たちがヒソヒソと囁き合う中、ひろみは野見の背中が見えなくなるまで目で追った。
「やります、私も」
ひろみは山下の目を真っ直ぐに見つめてそう言った。
「そう、わかったわ。じゃあ、こっちに来て」
山下は部屋の入口付近にある、パーテーションで仕切られた空間へ二人を導いた。
その奥には扉があった。
「おはようございます、山下です。今日は二人です。よろしくお願いします」
ドアノブを回すと、山下は扉の先にいる誰かに向かって挨拶をした。
ひろみはもう一人の候補者に続いて奥へと足を踏み入れた。
「よう、久しぶり」
そこにはモデルがスチール撮影をする際のセットが置かれていた。
ひろみはテレビでしか見たことのない光景を初めて目にした。
黒い傘型のライトの真下に青いマットが敷かれていた。
その前には三脚とカメラがあり、半年前に見た男がいた。
「やっぱり俺が思った通りの二人が残ったな」
「野見さんのスカウト力には毎回脱帽ですね」
「お前の経営手腕に比べたらどうってことないぜ」
野見はそう言って笑った。
「そしたら、どちらからいきます?」
山下がひろみともう一人の候補者に向き直った。
ひろみはちらりと彼女を横目で見た。
「私、先やります」
そう言うなりひろみの隣にいた女は着ていた服に手をかけた。
両手を交差させてニットの端を掴み、腕を上げた。
黒いレースブラに包まれた大きな山がふたつ、現れた。
山下がどうぞと渡した籠の中にニットを置き、ショートブーティを脱ぐと、黒いマイクロミ二スカートのジッパーを開けた。
今度はこんもりと肉が盛られたヒップが露わになった。
まるで風呂にでも入るかのように脱衣の手を止めずに、彼女はレースブラのホックを外しにかかった。
「自己紹介してもらえるかしら」
山下が話しかけたタイミングで、彼女のお椀型のバストが顔を見せた。
大きな山がふたつ、聳えており、その頂きは紅に染まっていた。
「川崎春奈。この前、高校卒業したばっかりの十八歳」
そう言い終える少し前に春奈は黒いパンティを下ろした。
艶のある陰毛をサラサラと揺らし、したり顔で腰をくねらせた。
ひろみはぐっと息を飲んだ。
「まあ、綺麗な身体。あなた、絶対売れると思うわ」
山下は口元に手を当て、驚嘆した表情を浮かべた。
野見の指示により、春奈は撮影位置へと立った。
そして胸を寄せて持ち上げるポーズをとらされた。
「おっぱいは何カップ?」
「Eカップ。90あるし」
少し屈んで胸が下向きになるように野見から指示が出た時、春奈は山下の質問に答えた。
春奈の下乳に野見はフラッシュをたいた。
次に座るよう、野見は命じた。
「初体験は何歳かしら?」
山下の横顔をひろみはちらりと見て、すぐに視線を戻した。
「13歳。中一から中二になる春休みに、そん時のカレとね。生理になって一年で処女じゃなくなったんだ」
「今はどのぐらいのペースでエッチしてる?」
野見は春奈に脚を拡げろ、と言った。
春奈はパッと太腿を開けた。
縦に走る筋も開帳となった。
「特定の相手は作んないで、セフレ数人を回して、週二回から三回ぐらいかな。気持ちよくしてくんない人とはやんない主義なんで」
「性感帯はどこ?」
春奈は陰毛の間から小さな丸い突起物をつまんだ。
「コレに決まってるじゃん」
ひろみは目のやり場に困り、山下や野見を見たが、二人とも特に顔色を変えることなく、春奈を扱い続けた。
野見に至ってはフラッシュを止めようともしなかった。
「もうさ、たまんないの。一人でいると、ずっと触り続けちゃうんだよね」
春奈は指先でそれを押しながら、嗚呼っ、と悶絶した。
山下と野見はイイね、を連呼した。
春奈の縦穴からはみるみるうちに愛液が溢れ出した。
「それじゃ、あなたも脱いでみようか」
春奈のボディラインに見入っていたひろみを山下が現実へと引き戻した。
ひろみはゆっくりと瞬きを一度した。
富近母子はとにかく貧しかった。
富が程遠い暮らしぶりだった。
ひろみには父親がいない。
いつも母親と二人きりだった。
ひろみの母親はなぜひろみの父親がいないかを説明したことはないし、ひろみも問うたことはなかった。
それだけでなく、ひろみは祖父母にも会った記憶はない。
親戚と名のつく者を目にしたこと自体、皆無だった。
ひろみと母親はひろみが小さい頃からずっと浜松市に住んでいた。
母親はひろみの出身は浜松だと言うので、そうなのだろうとは思うが、周囲に同じ姓は聞いたことがなく、母親の出身はどこか別な所なのだろうとぼんやり思っていた。
ひろみの母親は浜松と縁もゆかりもあるようにひろみの目には映っていなかったからだ。
ひろみの母親は浜松市内の老人介護施設にヘルパーとして勤めている。
ひろみが知る限り母親の勤め先はずっとそこだ。
ひろみが小さい頃は夜勤と休日出勤ができないため非常勤だった。
そのため手取り収入が大変少なく、行政からの支援を受けながらやっと生活していた。
子どもの頃の思い出といえば、ひろみはとにかくいつもお腹がペコペコだったことしかない。
満足に食事もできず、ひろみの身体は成長も遅かった。
中学生までは毎年、背の順は一番前だった。
高校生になり、コンビニでアルバイトをして稼いだお金はお腹を満たすためにまず費やした。
人生で初めて満腹になれた。
それからやっと身体は成長し、初経を迎えた。
多忙な母親に代わってひろみは幼い頃から家事を担った。
掃除や洗濯はもちろん、買い物や料理までほぼ全てを一手に引き受けていた。
当然、ひろみは宿題や勉強をする暇がなくなり、成績はいつも低迷していた。
高校生になってからはアルバイトも日課に加わったため、尚更だった。
それ故、進学も就職も望むことが難しくなった。
転機は東京への修学旅行だった。
自由行動時間に原宿を訪れた際、目にした街頭宣伝カーだ。
大きな音で「高額報酬求人」を謳っていた。
そんな世界があるのか、とひろみは初めて知った。
そこで働けば貧乏から脱出できるのではないか、ひろみはそう思うようになった。
チャットレディ、デリヘル嬢、ソープランド…。仕事内容は性風俗産業であると知っても、ひろみは全く動じなかった。
どんなことでもお金がたくさんもらえるならやってやろう、とひろみは決意した。
浜松にいても貧乏を続けるための仕事しかない。
それならば東京へ、新宿へ、歌舞伎町へ向かうしかない。
ひろみは着ていたトップスに手をかけた。
全員の視線がその手に注がれていることにも気づいていた。
何度も着倒して古びた赤いギンガムチェックのボタンシャツ。
そのボタンを上から外していった。
一つ、二つ、三つ。
最後の一つを穴から抜くと、白いブラジャーが隙間から顔を出した。
ひろみは自分を見つめている山下、野見、春奈を見回し、腕をシャツから抜いた。
次にジーンズスカートのジッパーを下げた。
こちらも洗濯を繰り返しているため、かなりくたびれた様子だった。
重力に従って落ちたスカートがバサリと音を立てた。
ひろみはそれを跨いで一歩前に出た。
傷んで幾重もの皺を刻んだ白いスニーカーとハイソックスを脱ぎ捨てると、ひろみは下着姿で三人の前に歩み寄った。
成長したため、つい最近買い替えたばかりの白いブラとショーツセットを見せつけた。
谷間に飾られた赤い薔薇の刺繍が見えるように気持ち背を反らした。
誰も何も反応しなかった。
ただ黙ってひろみの次の動作を待っていた。
ひろみは一度大きく息を吸い、唾を飲み込んだ。
両手を後ろに回し、背中から守っていた金具を取り除いた。
スルリと音を立ててひろみの白い肩からブラ紐が落ちた。
そしてひろみは抱えるように覆っていた両掌を放した。
ほんのりと紅潮した白い果実が現れた。
先端にはピンクの花びらが咲いている。
(続く)
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