ブラスバンドの合宿-1話
作家名:金田誠
文字数:約4730文字(第1話)
公開日:2020年7月2日
管理番号:k037
高校で、ぼくはブラバン部に所属した。
中学は卓球部。
2回戦の壁を突破することは、3年間とうとうできなかった。
一生懸命やってきたつもりだったけれど、結局興味をもって取りくむほど魅力を感じていなかったのだろう。
だから、高校では本当にやりたいことに取りくもうと、吹奏楽に入部した。
吹奏楽の魅力は、勝ち負けにこだわらず、みんなで一つの芸術を作りあげるところだと思う。
一心不乱に美しい音を作ろうと、がんばるみんなの姿がすばらしい。
そんなぼくは、ユーフォニアムという楽器を演奏している。
トロンボーンに近いが、それよりも音色にまるみや優しさがある。
ブラバン部は、学校や学年によらず圧倒的に女子が多い。
今年の高校一年生は、20名中男子が3名。ぼくのパートは、各学年1人ずつ3人だ。
パートリーダーの山下恵美先輩は、ポニーテールがすごく似あっている。
道で会えば、だれもが振りむく可愛さだ。
気さくで、わからないことがあれば、なんでも教えてくれる。
2年生の植松洋子先輩は、寡黙な超絶美人。
胸が大きく、スタイルも抜群だ。
ショートヘアーの表情に色気があり、化粧をほどこさない肌が、透きとおるように白い。
ほかにも、同じ吹奏部に所属していて同じクラスでもある向井千枝や柳田彩乃が気になる。
向井は、いつもニコニコしていて愛嬌があり、はち切れんばかりの身体をしている。
どんどん話しかけてくるので、消極的なぼくにはありがたい。
童顔の柳田は、ぼくと似ておとなしい。
すこし不思議ちゃんが入っている。
幼児体型の身体は、ロリ好きにはたまらないだろう。
ぼくはお姉さんタイプが好きだけれど、彼女の恥ずかしがる様子なんかを見ていると、時にドキリとさせられたりする。
こんな素敵な先輩や同輩と毎日過ごせる高校生活は、夢のようだ。
「西田さ、今度の合宿って、パートリーダーを私らの代にするって知ってた?」
向井が、授業の休憩中に話しかけてきた。
「知ってたよ」
「なんだ!知ってたのか。でも、先輩に対して、あれこれ言うのって、どうなんだろ。あたしは抵抗あるなあ」
毎年ブラバン部は、合宿で最下級生にパートリーダーをさせる。
これには2つのわけがある。
一つは、下級生の力を伸ばす効果。
人に教えるには、自分がよくわかっていないといけないからだ。
また、上級生の方は、下級生がどういう思いでいるかを、肌感覚でとらえる意味があるらしい。
だから、夏合宿後は上下の関係が深まるそうだ。
ウソだと思われるかもしれないが、すべての男子に彼女ができるとも言われている。
本当にそうなれば、今まで彼女のいなかったぼくにとっては、かなりうれしい。
妄想が肥大して、それは先輩なのか同輩なのかと考えてしまう。
目の前の向井がいいかも。
話しやすいし。
オーバーアクションの向井は、身体を前に突きだしたりぴょんぴょん跳ねたりするものだから、胸がぷるんぷるんと揺れて、視線が自然とそっちへ行ってしまう。
あからさまに見ると、ニヤリ顔をしていたりするので、慌てて視線をぼくはそらす。
勘づかれているかもしれない。
でも、本当のところは、美しい植松先輩ならもっといい。
勝手な言い草だが、思うだけなら釈迦もキリストも許すだろう。
「ちーちゃん、かずくん、なに話してるの?」
柳田彩乃が、ぼくたちに加わってきた。
「彩ちゃん、知ってた?合宿のパートリーダー、私たちの代がやるって」
「知ってたよ。すごくおもしろいと思う。先輩に指導するなんて恥ずかしいけど、なんだかワクワクする」
彩ちゃんは、恥ずかしがりやのくせに、おもしろいと思ったことには貪欲で、ぼくらはたびたび驚かされる。
クラスで初めてぼくに話しかけてきたのが、彩ちゃんだった。
真っ赤な顔をして、たどたどしく自己紹介をしてくれた。
あとでそのときのことを聞いたら、自分の使っている石鹸と同じ香りがしたから、絶対に仲良くなりたいと思った、って言う。
その感性がすごい。
そして、とうとう合宿当日をむかえた。
ぼくの通う学校は、名古屋にある。
バスをチャーターして、三重県の島まで行く。
毎年、その島にある温泉旅館を借りきっているのだ。
むかし、大名が投宿していたそうで、広大な天然温泉風呂がある。
ぼくが通っているのは、仏教系の私立高校だけれども、進取の気性に富んでいる。
授業はアクティブラーニングがほとんどで、先生が講義だけする一方的な授業はない。
また、論語読みの授業が毎日ある。
江戸時代の読み書きソロバンの思想を伝統として守っているのだ。
江戸時代の職人の授業もあり、毎週なにかしら物つくりを総合の学習時間におこなっている。
この前は、障子の張り替え手法を真似て、行灯をつくった。
校長先生が大の江戸時代好きらしい。
貸切のバスでは、パートごとに座った。
ぼくは先輩たちに挟まれ真ん中だ。
右を見れば可愛い恵美先輩、左をみれば美人の植松先輩が間近にいる。
恵美先輩は、バス中ずっとお喋りしていたが、ぼくは植松先輩の大きく張りだした胸が、気になって気になって仕方なかった。
植松先輩は、ピチッとしたTシャツにカーディガンを羽織っているので、その膨らみがやけに強調される。
童貞の高校生にはキツく、行き場を見つけた血液が股間に集まってくる。
ねじくれた突起が痛くてたまらない。
解放させたいが、この状況ではどうにもならず、備えつけのトイレに立った。
チャックを開けると、ぶるんと飛び出てきた。
ちょっと触ると気持ちがいい。
思いきりしごきたいけれど、匂いが残ってしまうのが心配だ。
消臭剤なんかもってない。
あぁ、でも気持ちいい。
雁くびを弄っていると、透明な液が先端にポツリと珠になって現れてきた。
手淫が加速し、眉間に皺が寄ったそのときだった。
コンコン。
扉を叩く音で、ハッと我に返る。
まずい。
下ろしていたズボンをパンツごと引き上げた。
「大丈夫?気分でも悪いの?」
副顧問の三宅佳子先生だ。
24歳と若い。
少しぽっちゃりした感じで、愛らしい顔をしている。
生徒をつねに注意ぶかく観察して、一人ひとりに配慮を怠らない。
けれども、高校男子というのは、ほっておかれたい年頃だ。
向井によると、痩せたいといつも話しているらしいが、ぼくから見ると、ちょうど良い抱き心地じゃないかと思う。
「だ、大丈夫です。いますぐでます」
恍惚としていたので、もしかしたらかなり時間が経っていたのかもしれない。
射精していないので、トイレに生臭いにおいは充満してないはずだ。
洗面台で手を洗って、急ぎ扉を開ける。
何事もない顔をして通り過ぎようとするが、先生は心配そうにぼくを覗きこんでいる。
「全然でてこないから、どうしちゃったんだろうと思って」
じっと見つめられると、トイレでの正体が見抜かれてしまうのではと不安になる。
「なんでもないです。平気です」
長居の言い訳が見つからず、つっけんどんに返し、先生を残してそそくさ席にもどると、こんどは恵美先輩が話しかけてきた。
「どうしたの?三宅先生と何か話してたけど、大丈夫?」
「あっ、平気ですよ。なんでもありません」
それでも怪訝そうな顔の恵美先輩に、何か言わないといけない。
「車酔いまでいかないですけど、少し頭が痛くなってしまって。でも、もう平気です。心配かけてすみません」
すると、植松先輩が口を開いた。
「酔いどめあるけど、飲む?」
カバンからさっと取りだし、ぼくに差しだしてきた。
こうした女性陣の心根の優しさに、ちょっぴり自責の念を感じてしまう。
「ありがとうございます。でも、眠れば治ると思いますから」
と辞退し、とにかく、この場をやりすごすために、眠ったふりをした。
ようやく志摩半島の先端から高速艇に乗って、島に行きついた。
男子の8人は相部屋だ。
入室後、すぐに全体オリエンテーションがあった。
会場は、カラフルなサーカスかと見間違うほどだった。
制服か体操着で練習するところしか見たことのないぼくにとって、女性陣の私服姿はまぶしすぎる。
そんな中、つい目がいってしまうのが、恵美先輩と向井の二人だ。
恵美先輩は、オレンジのTシャツに紺のショートパンツ。
明るい雰囲気が、そのまま服装にあらわれている。
向井は、対抗しているのか、薄いオレンジのタンクトップに、ぴっちりした薄桃色のホットパンツをまとっている。
胸のあたりが三角に盛りあがり、お尻の形どころかパンティラインまでくっきり見える。
まずいことに、ぼくはスエットだ。
股間がテントのように膨らんでいってしまった。
ふと視線を感じて目を向けると、植松先輩がぼくを睨んでいた。
股間の挙動不審を見つけられてしまったようだ。
ふだん澄ました顔をしている美人が、侮蔑の眼をぼくに向けている。
それなのに、ぼくは少し快感を感じてしまった。
恥ずかしいよりも、もっとという気持ちが湧いてきて、ぼくはグッと胸をはるようにした。
植松先輩は、ますます眉間にシワを寄せ、そのうちプイと横を向いてしまった。
オリエンテーションが終わると、パートごとの練習になる。
明日の午後から全体練習に入り、最終日の午前は全体のビデオ撮りをする。
このオリエンテーションで、気になる言葉があった。
副顧問の三宅先生がこう熱く語ったのだ。
「みんなに期待しているのは、技術的な向上ではありません。艶のある演奏スタイルを身につけてほしいんです。自分の欲望に忠実な演奏を目指してほしいの。肌感覚というのかな?自分の欲望を肌で感じとって、それが聴衆に伝わるよう演奏するのが目標よ。そのためにも、パートが同じ人とは、これまで以上に仲良くなってほしいし、それ以外の仲間との交流も密に図ってもらいたいの」
艶のある演奏、自分の欲望、仲良くなる。
今までの指導では、聞いたことのない言葉ばかりだ。
最前列の恵美先輩は、瞳を輝かせながら、うんうんと先生の話に相槌を打っている。
植松先輩は後ろの方で、苦虫を噛みつぶした表情をしている。
向井や柳田ら同級生の二人は、ぼくと同じく理解に苦しむような惚けた顔だ。
確かに先輩たちの演奏には、艶めかしさがあった。
観客席に向ける視線や楽器をあやつる指先も、普段とはまったく違っている。
男性陣は、どちらかというと逞しい感じだが、ふとした瞬間に見せる表情に、ぞくっとしたものを感じることがあった。
あんな演奏が、果たしてぼくにできるだろうか?
オリエンテーションが終わり、パート練習が始まった。
けれども、これといって特に変わったところはない。
いつものように音ズレや音色のチェックをしていく。
違うのは、ぼくがそれを指摘するというところだけだ。
「恵美先輩、もうちょっとテンポを速めてくれた方がいいかもしれません」
「そおかなあ。ゆったりたおやかな方が、演奏には艶がでると思うんだけど」
笑顔を絶やさないで、そう諭されると、自分が否定されているわけではないんだと気持ちが落ち込まないで済む。
さすがリーダーだ。
空気をあやつるのが上手で、ぼくも意見が言いやすくなる。
「全体に流れる雰囲気としては、いいのかもしれないですけど。この部分では、メリハリを聞かせて曲調を変えるのが、いいかもです
」
そのとき、植松先輩が口をはさんできた。
「西田くん。さっきから、かもしれない、かもしれないって連発してるけど、あなたはここではリーダーなんだよ。そんな曖昧なことを言っていたら、パートがまとまらないのよ。自分の考えをしっかり貫いてよ」
かなり厳しい言葉が返ってきた。
「まあまあ、洋子ちゃん。初めての経験なんだし仕方ないよ。合宿中に少しでもリーダーシップを学んでくれる、と私は思ってるから。帰るときには、すごく逞しくなってるからね」
「本当にそうならいいんですけどね」
植松先輩は、ムッとしたように呟いた。
植松先輩とは、仲良くなるどころか険悪な関係を築きかねない。
(続く)
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