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ピンクヒップウエイトレス-前編



作家名:カール井上
文字数:約3440文字(前編)
公開日:2020年6月10日
管理番号:k033


挿絵の官能小説画像


箱根、江戸時代には有名な関所が置かれ、入り鉄砲、出女を厳しく取締り、街道を行くすべての人のみならず、芦ノ湖の舟も見落とされることはなかったようです。

しかし、二百数十年の太平の世の中で、その緊張感も過去のものとなり、幕末に東進する新政府の軍隊がこの関所に立ち入り、武器を押収したところ、戦国時代に使っていたかと思われる錆びついた刀や槍しかなかったのでした。

そして明治時代には、京都から東京へ移り住んだ、皇族やお公家さんなどが、夏の避暑のための別荘地として好んだのがこの地、箱根でした。

そんな歴史のあるこの箱根、その中でも、標高五百メートルを超えるところに位置する強羅には高級なホテル、旅館が傾斜の中に立ち並んでいます。

その強羅の一番手前である、登山鉄道駅からほど近くの超高級旅館で働いていたときの話です。


その駅の改札口を出て、歩いて五分足らずのところなのですが、連絡しておけば、黒塗りのベンツが迎えに来ています。

そういう高級旅館なのです。規模はそれほど大きくない、客室数三十ほどの旅館です。

政治家、芸能人などがお忍びで利用することも多いようです。

大臣となった大物政治家、政党党首そして誰でも知っている人気のある歌手や女優、また有名なプロスポーツ選手なんかがいましたね。

さらに海外からのお金持ちも多くいました。


当然宿泊費はかなりの額が設定されていますが、サービスレベルはそれにみあったものですから、お客さんは惜しまずに支払います。

スタッフの言葉遣い、立ち居振舞いは洗練されており、極上のもてなしを受けていることはすぐに実感できます。
多少の無理なリクエストにも出きる限り応えます。

最も常日頃そういう扱いを受けている人がほとんどなのでそれほど感動されることはありませんが。


もちろん供される料理も一流です。
一度だけ何故か手違いで雑炊が一鍋余ってしまい、事務所にいたスタッフにご馳走されましたが、あまりにも旨すぎて表現しようのない味わいであったことを覚えています。


大浴場もいつもきれいに整えられ、箱根強羅の高品質な温泉が浴槽に満たされています。


自分の仕事は夜勤の受付兼電話番兼守衛のようなもので、深夜の巡回も役割のひとつでした。

その巡回時には大浴場の片付け、脱衣かごを整理し、浴室の桶や椅子をきちんと並べること、さらに湯温に異常がないかを確認することなどが含まれています。

もちろん湯温は浴槽に手を入れて確かめればいいことなのですが、せっかくですからね、いつも全身で確認していました。


客室数もそれほど多くなく、宿泊客も落ち着いた年齢層の人たちがほとんどですから、深夜に大浴場に来るようなことはまずありません。

さっさと制服を脱いで、さっと全身を洗い、そしてザブンとお湯に浸かります。
急いで備え付けのバスタオルで身体を拭いて服を着直し何事もなかったかのように大浴場をあとにします。

この間およそ5分。
一度も誰かに出くわしたことはありません。

髪の毛は五分刈りにしていましたからあっという間に乾いてくれます。
おかげで、肌がすべすべツヤツヤになりましたよ。


各部屋ごとに係りの仲居さんがつきます。

フロントでお待ちして、ご予約のお客様がご到着されるとお部屋までご案内、お部屋の設備や大浴場のご案内、そして、日本式マッサージやエステルーム、岩盤浴を受け付けたりします。

夕食時には懐石料理の膳を持って、お部屋まで何往復もするというかなりの力仕事もこなします。


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ある有名なプロスポーツ選手は、その様子を見て、「姉さん、すごい運動量ですね!」と感嘆していました。
その選手はヨーロッパのチームに移籍した豊富な運動量を誇るサッカー選手でした。

そんな仲居さんは総じて二十数人いましたが、仕事着のピンクの着物に身を包み、しっかりお化粧をして、髪をキリッと結い上げてさっそうとしています。

気難しい客も多いですから、見た目で好印象を与えることもとても重要なのでした。


こちらは夜間、仲居さんからの連絡で、客室にビールやワインを運んだり、エステルームや家族風呂にご案内したりということもしていました。

翌朝の朝食のメニューや時間を板場へ取り次ぐこともします。


そんな時に仲居の姉さん方と直接話したりするわけですが、中には色っぽい、グッとくるような女もいたわけですよね。

長い髪を束ねてぎゅっとヘアネットに包み込み、目がぱっちりとし、色白の顔に明るい朱の口紅が印象的です。
胸元も着物をグッと締め上げてはいますが、豊かな乳房の重量感は隠しきれていません。

後ろ姿はうっとりさせられます。
大きく張ったヒップが着物越しに透けて見えるようです。

見るたびに抱きついてみたい欲望にかられていました。


ある夜、客室から内線電話がかかってきました。
あるワインを一本持ってきて欲しい、という注文です。

ワインリストを見ますと、かなりの高級品でした。
一本ほとんど十万円です。

係りの姉さんがまだいたはずですが、洗い物を下げていたのか、ちょっとはずしていたようでした。


鍵のかかる保管庫からその高級ワインを取りだし、部屋まで行くとちょうど係りの姉さんが扉の前にいました。
あの姉さんです。

今日もしっかりお化粧して美しいです。
ヒップの張りもむしゃぶりつきたくなる。

しかし、そんな気配はおくびにも出さず、
「注文があったので持ってきました。伝票は姉さんが付けておいて下さい。」

「ありがとう。えっ、これ十万円のじゃない。」
「そのようですが、お願いします。」


こういう場合フロントで受け付けたので、フロントの自分の名前で伝票を起こしてもいいのですが、仲居さんが伝票を起こせば、その仲居さんの売上となり、多少の実入りとなるのですね。

恩を売るつもりはなく、いつも大変な仲居さんがちょっとでも気分よく仕事を終われればと思ったのでした。
頭の中でいつもむしゃぶりつかせてもらっていますし。


数日後の朝、夜も明けてもうすぐ勤務も終了かという頃に、事務所内の机の前でぼうっとしていたとき、くだんの仲居さんが入って来ました。

まだ朝の出勤時間には少し早いはずです。
「おはようございます。早いですね。」

「おはよう。ちょっとね、朝刊を早く持ってきて欲しいと言われてたのよ。」
「そうなんですか、大変ですね。」


そうすると、その姉さんが自分に近寄って来ました。
自分の右側に立ち、

「この間は高級ワインを付けさせてくれてありがとう。助かったわ。」
といいながら、自分の右肘の辺りに腰を押し付けてきます。


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左腰の辺りでしたが、だんだん身体をずらしてほとんどお尻を擦り付けて来ました。
「ねえ、お礼がしたいのよ。朝の時間が終わったら部屋で待ってるから、来てくれない。」

朝食の片付けなどが終わっ10時頃のことですね。


自分も含めて従業員は隣接するアパートに部屋をもらっています。
「いえ、あの、部屋はどこでしたっけ?」

迂闊にも部屋の番号までは知らなかったのです。
「あら、知らないの。私はあなたの部屋番号知ってるわよ。」

「すみません、知らないんです。」
「405号よ。10時には戻ってるわ。誰かにみられちゃダメよ。」

最後に再び左腰をこっちの右肘にぎゅっと押し付けて、足早に新聞を抱えて出ていきました。


こちらはあと一時間ほどで勤務終了なのですが、今の出来事は、寝ぼけて見た夢か、事実だったかを、頭の中で確認し、右肘に微妙に残る温もりを頼りに現実だと認識しました。


10時になりました。
風呂は前夜に大浴場で済ませてありますので、きれいに髭を剃り歯磨きを丁寧にしてその時を待っていたのでした。


1階の自分の部屋のドアをそっと開けて、付近に人がいないことを確かめます。
階段を静かにしかし出来るだけ早く4階まで駆け上がりました。

階段から一番離れている405号室へ、足音をたてずに走り寄ります。


チャイムを鳴らそうとしたその瞬間、スッとドアが開きました。
「さあ、早く入って。」

素早く身体をドアの内側に滑り込ませてドアを閉めました。
「誰にも見られなかった?」

答えようとしましたが、ちょっと息が上がってしまい、顔がひきつって何も言えませんでした。
「バカねえ、そんなに慌てなくてもいいでしょうに。」

「絶対誰にも見られないようにと思って・・・」
ハアハアいいながら何とかそれだけ口にできました。

「バカねえ。」
と繰り返され、そして「さあ、座って楽にして。」とソファーに座るように促されます。


姉さんは冷蔵庫からビールを出し、栓を開けてグラスに注ぎ、
「喉が乾いたでしょ。」

といって差し出してきました。



(続く)





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